「お前…その浮輪やっぱ趣味悪ィな…」



キラーに促されだらだらと取り敢えずな準備運動紛いをしてからローは浮輪を腰にざぶざぶと脛辺りまで海へ入った。

「海って温ィんだな…」
「こんなもんだろ…まだあっち行きゃ中は冷たいぜ」
「しかし…ユースタス屋、改めてみると白ェな」
「そうか?…あんまジロジロ見るんじゃねーよ、気分悪ィ」

無遠慮にジロジロと見るローの顔にキッドはばしゃりと海水を蹴り上げた。

「ぶふっ!ッ!ふぁッ、なに、入っ……!」
「ざまぁねェなぁ」
「くっそユースタス屋!」
「おわっ!テメェくそなにしやがる!」

仕返しにローも水の表面を蹴りキッドを狙い海水を掛けるがキッドは咄嗟に背を向けたのでなんとか顔面に食らうのは回避した。

「うぇっ…しょっぺーな…」
「海水だから塩辛いに決ってんだろうが」
「許さねぇぞユースタス屋…!」
「は!?お前っうわ!!」

バシャン!と水柱が立ち2人の姿が一瞬消える。海水が鼻にはいった痛みに苦しみながらキッドにタックルしたローがどさくさ紛れて抱き付き勢いのまま共に倒れ込んだのが原因だが、倒れた時と同様に勢いよくザバッと顔を出した2人は無言で鼻を押さえ、咳き込み、嘔吐いた…。



「…なにやってるんだあいつらは」
「馬鹿だな…」

少し離れた所で一部始終を見ていたキラーとペンギンは白い目を向けながら仲間だと思われたくないな、とお互い心の中で思った。

「キラー浮輪使う?」
「使わないのか?」
「今はな。引っ張ってやろうか?」
「…じゃあ」

ペンギンの胸元ほどの深さの辺りをキラーは浮輪の上に仰向けに座るようにして乗りペンギンに悠々と引っ張ってもらう。海水に浸る手足は冷たくて心地がよく、相変わらず馬鹿にはしゃいでいる2人を見ながらペンギンとキラーは笑い合っていた。

「悪いな、俺たち寝ちゃって」
「ん?あぁ…気にしてない。キッドはお前が寝たのには意外そうにしていたけどな」

浮輪に掴まり身体を浮かそながらながらペンギンは申し訳なさそうに謝った。ふわふわと波に流されるがそれも気持ちがよく暫くは漂ってみる

「仕事忙しそうだったのに、ありがとうな」
「昨夜も言った…気にしなくていい。御礼よりも、楽しんでくれるのを見る方がこっちは嬉しいからな」
「楽しいよ…夏に来て良かった。こうして居られるし、やっぱ海で泳ぎたかったしな」
「そうか…ならいいんだ。来た甲斐があった」

ふふ、と声を押さえて笑うキラーにペンギンが顔を寄せる。太陽を背にして顔に落ちる影が近くなるに連れてキラーは目を閉じた。




「見ろユースタス屋。俺たちが鼻に海水入れて悶えてる間にあっちはらぶらぶしまくってるぜ?」
「見るんじゃねーよ…そっとしとけ。けほっ…あー、ちくしょー海水飲んだじゃねェか」
「ユースタス屋ァ、俺たちもしようぜ」
「ふざけるのはその浮輪だけにしろよ?」
「……」
「な、ぅうわっ!?なにすんだテメェ…ッ」

浮力で簡単に持ち上がるキッドの身体を抱き上げてローはムスッとした顔で見上げ抱き締める腕に力を込めた。

「…おい…他に人居んだぞ」
「知らねぇ」
「拗ねんな」
「…どうせ俺はガキだ」
「……ぶはっ」
「!!」

吹き出して口許を押さえながらクックック、と肩を震わせて笑うキッドにローはしばし固まった。笑われたことにショックを受けていると「悪ィ悪ィ」と肩を叩くキッドが恥を偲んでローに軽いキスをする

「ユ…」
「キラーがな、お前のこと可愛げがあっていいなっつって羨ましがってた」
「は?」
「お前が俺に対して遠慮しねぇ事が羨ましいんだと」
「…、」
「悪い気はしなかったぜ」

そろそろ下ろせ、とキッドに言われてローは素直に抱き上げた身体を下ろした。

「そろそろ、一旦上がろうぜ。喉渇いた」
「…腹も減った」
「そうだな、飯食うか…」

キッドがローの手首を掴み引いて歩く。
嬉しそうに弧を書く口許は互いに気付けずに…


第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -