「休日の父親になった気分だ」
「お前はどちらかと言えば母親じゃないのか?」
「そりゃテメェだろ」
どっちもどっち、とは言い難く。
某日火曜日、旅行当日の朝。
「キラー屋が車乗ってんの、なんか変だな」
「そうか?」
キッドとローのアパートの下に見慣れない重量感溢れる真っ黒な車が止まっていた。その車の運転席には普段大型バイクを乗り回すキラーが座っていてローはその見慣れなさについそんな風に言ってしまった。
キラーは首を傾げながら朝が早いからかまだ眠たげな顔をしているローにおかしそうに笑う。
「よう、キラー、ペンギン」
「キッド。おはよう」
「おはようユースタス」
荷物を積み終えたキッドが助手席に、運転席の後部にペンギン、隣りにローが座りキラーの運転で車はゆっくりと走り出す。
「これキラー屋の車か?」
「いや。後輩のを借りてきた」
「ドレッドの野郎相変わらず綺麗に使ってんなァ」
「ユースタスも知ってる後輩なんだな」
目的地までの数時間、始めは話で盛り上がっていたが後部座席に座るペンギンとローがおとなしくなる。
「トラファルガーはともかく、ペンギンも寝るとはなぁ」
「朝早くから起きてたからな…」
「お前ん家に泊まったのか?」
「あぁ…その方が朝が楽だと思って」
車中のBGMを消えそうなくらいにまで音を下げてキッドとキラーは呑気に眠る2人を見て静かに笑った。
「キッドも寝たらどうだ?」
「いや俺は大丈夫だ…テメェこそ、運転代わるぜ?」
「そうだな、そろそろ代わってくれ」
「おう…休日の子供に付き合う親みてぇだな…なんか」
「そんなこと言うと2人共拗ねるぞ?」
◇◇◇
「暑ィ…」
「お前ら裸足になるなよ?」「思ったほど人いないな」
「平日だからだろう。混み合ってなくてよかったな」
漸く海水浴場に着き、その頃には十分な睡眠を取りスッキリした顔のローとペンギンと少し疲れたようなキラーとキッド。
キッドはローに荷物を持たせてぐーっと伸びをした。
適当に場所を取るとまずローとキッドが着替え、入れ替わりでペンギンとキラーが着替えに行く。
「ユースタス屋何やってんだ?」
「日焼け止め塗ってんだよ…お前らも塗っとけ。後が辛いぜ?」「ロー、これお前のだろ」
「トラファルガー…もうちょっと…こう、無かったのか?」
キッドに日焼け止めを背中に塗られながらペンギンがローに投げたのはまだ空気の入っていないビニールの浮輪だった。ピンク色でハート柄なそれにキラーが複雑そうに首を傾げる
「一番でかくて半額だったんだぜ、それ。柄なんて気にしねーよ」
「キラー背中に塗ってくれ」
「なんで俺に頼まねェんだユースタス屋…」
ローとペンギンは黙々と浮輪を膨らませるのをキッドとキラーはおかしそうに見る
海に入る前に終わってしまいそうなペンギンとローは浮輪を膨らませ終わると汗だくでやり遂げた顔をした。
「ユースタス屋、海に入ろうぜ」
「キラーも行こう」
早く入りたくて仕方がないと口許を緩ませながら急かす2人に、荷物番に残るとも言えずに顔を見合わせたキラーとキッドはやれやれと口許を緩ませながら立ち上がった。