滑るように静かに走る車。助手席に座るキッドはそろりと運転席の方を見た。シートを目一杯下げて悠々とハンドルを握る男はキッドの視線に気付きながら表情一つ変えずに何処かへと車を走らせる。
十字路に差し掛かり歩行者信号が点滅し始めて信号が黄色に変わるのを男は急く訳でもなくゆっくりとスピードを落して停車させた。
「…車止まったぞ?」
「…?」
「ふふ…逃げるなら今だと言ったつもりだが、わからないか?」
「な、」
「あぁ、残念だな…信号変った」
そう、意地悪に笑いながらパーキングからドライブに変え再び車を走らせる。無理なくスマートに左折した車は直線で緩やかにスピードを上げていく。
キッドはこの読めない男に困惑しながらすることもなくただ足下に視線を落とした。
「…」
「ユースタス、なに?」
「は?」
「名前」
「…キッド」
「おれはトラファルガー・ローだ、好きに呼べ…呼び捨てで良いぞ」
ローは口許に笑みを浮かべ片手でハンドルを操作しながら煙草をくわえると深く胸に吸い込んだ。
「次、信号で止まったら逃げ出してみるのも一つの手だ、ユースタス屋」
少しだけ開けられた窓に流れていく紫煙を目で追い、夜だから違って見えるのか、はたまた全く知らない道なのかキッドはここが何処なのか見当もつかない景色を見た
「但し逃げ切れると思った…なんて、甘い考えだったと後悔するかもな」
再び信号で停車するとローはキッドに視線を移しドアのオートロックを解除させた
その目は逃げるならどうぞ、と言っている
「…無駄だ、って…わかってることはしねぇ…ッ」
俺で遊ぶことを楽しんでやがる。とキッドはローを一睨みしてから視線を逸らした。
程なくして走り出した車がオートロックを作動させ些細な音を立てたがまた直ぐに車は止まる。
ウインカーを出し車を路肩に寄せたローはシートベルトを外しポケットからフィルムに包まれたタブレットを取り出すと口に含んだ。そして助手席に身を乗り出すと怪訝そうにするキッドの顎を捕らえ唇を塞ぐ
「ふぐ…ッ…ん、ん!?ぐ……んん!」
こじ開けるようにキッドの口腔に押し入って来た舌が唾液とタブレットを移す。本能的に嫌がるキッドの腕を押さえ付けながら、ローはキッドがそれを飲み込むまで唇を離さなかった
「ーッ!ン…!」
口腔で唾液に溶けたタブレットの苦味を我慢出来ずにキッドはごくりとローの唾液と共に嚥下する。
喉と胸が上下するとローはキッドの唇を軽く食んでから離れた。
「ぅ、え…っ…」
「ふふ…酷い味だな。お前が早く飲まねェからだぞ」
唾液で濡れた唇を舐め笑うとローは財布から幾らか取り出しキッドの胸元にトン、と押しつけた
「そこ、わかるか?コンビニあんだろ。飲み物と欲しいもん買ってこい…序に煙草、キャスターマイルドな」
「…、俺だけで…?」
「1人で買い物くらいできるだろ?10分待つ。それまでに戻って来なかったら逃げたと思って先に帰るぜ」
早く行ってこいと顎で扱われキッドは車から降り困惑しながらもコンビニへ入った。
普通なら逃がしたくない相手を1人で行動させるなんて事をするだろうかと考える。
それに何か飲まされたのも気掛かりだったが、あの男からは絶対逃げられないと言うのは理解していた。
未だ決定的に何をされたわけでもないが逃げ切れる自信がないと言うのが本音だ。
ならば逃げようとしている、などと疑われないように今は早くあの車へと戻ることが先決だとキッドは答えを出した。
コンビニで買い物をするのにしては些か多く持たされた紙幣をくしゃりと軽く握りながら甘味のあるスポーツ飲料に手を伸ばした
「っ…?」
冷えたペットボトルに触れた瞬間、ぞわりと指先から妙な感覚が走る。手に取ったペットボトルの冷たさにこんなに冷えてるものなのかと少し疑問を感じるがふと目に入った時計にハッと意識が散った。早く戻らなければとレジへ急ぎ、そこに並ぶ煙草に目を走らせる。
しかし煙草には詳しくなくパッケージが分からない為に名前だけでは自分では探し切れずに番号が告げれなくて仕方なく店員を頼る事にした。
「キャ、スター…ッ…?」
心なしか声が上ずり震えてるような気がする。
「はい?」
「ッ…キャスタ…、マイルド、って…」
「あぁ、はい…こちらで間違いございませんか?」
覚えがいいのか煙草に詳しかったのか店員は直ぐに煙草を探すと差し出して来るがキッドはただコクコクと頷いた。
「…あのー?」
「で、も…なっ…」
俯き気味になりひくっ、と肩を揺らすキッドに店員は怪訝そうに声を掛ける。
なんだ…と、キッドは自分の身体の変調に困惑し眉を顰めた。立ってるだけなのに鼓動は早まって息が上がり、背中からあちこちから熱を孕んだ
「ぅ…」
「…437円で…あの、大丈夫ですか?」
店員がキッドの様子を伺おうとカウンターから出ようと動いた所で誰かが入店してくる
「あ、いらっしゃ…」
「ハァ…、やれやれ。遅いから来てみりゃあ…ユースタス屋、"大丈夫"か?」
「…、ら、ふぁ…っあ…!」
カクンと膝から力の抜けたキッドが座り込む前に腕を掴み引き上げるローに店員とキッドの視線が移る
「お客さん!?」
「あぁ、だから"俺が買いに行くって言っただろ?お前車酔いしてんだろうが…無茶するなよ。タダでさえ酔いやすいのに"」
呆れと困ったような表情を作りローは好き勝手に喋る
「酔い止めとかはおいてるか?」
「あ、はい…ありますよ。持って来ますね」
おそらくロー寄りも年下であろう店員は他に客もいないこともあり積極的に動く。
「悪いな手洗い借りていいか?」
「あぁ、どうぞ」
ローは買い物袋を受け取ると店員に断りを居れてからキッドを支えてトイレへ入る。
個室のトイレへ連立って入る2人を見ても気分の悪い方を介抱するんだろうくらいにしか店員は思わなかった。
「ッ、ぁ…は…」
「辛そうだなァ…ユースタス屋」
内鍵を掛けローはキッドを壁に押しつけた。
キッドの睨むような視線に鼻で笑いながら購入したばかりスポーツ飲料のキャップをペきりと外し一口含むと車内でしたように口付ける
「…、…は」
今度は怪しい物を飲まされるような気配もない為キッドは素直に移された液体を飲み込んだ。多少温くなったそれが喉を通るだけで心臓がドクリと跳ねる。
「フフ…理解してるだろう。お前に飲ませたのは平たく言えば催淫剤だ」
「ぅ…う…」
「あのままあの店で働いてれば1週間もしねぇ内にこの薬飲まされて、俺みてぇな金を余らせた奴や汚ぇおっさんの相手をお前はしてただろうな」
ベルトをしていないキッドのジーンズの前を開けるとローは無造作に下着とも太腿の下まで引き下げた。
驚きと困惑に揺れるキッドを余所に薬の作用で勃起したものを掴みゆるゆると掌でこね回す
「っく!ぅ…うぅ…や、ッ…」
「嫌だ嫌だ言ってねぇでさっさと出せよ。その方が楽だぜ?あぁ…それとも店員が様子見に来るまで粘ってみるか?ふふ…」
ローの舌がヌメヌメと首筋を這うのに気持ち悪さよりも快楽を感じるキッドは苦しい程性的に興奮する身体を持て余し目尻に涙を浮かべた
「んう、くっ…はぁっ…ぃ、…ッ」
ひたすらに前後する掌に勃起を擦られて過度に高まった興奮は呆気なく果ててローの手にべとりと絡み付く。
キッドは快感に浸る暇もなく半ば強引に絶頂に導かれた事に動揺しただ茫然と突っ立ったままだった


ザーッ、と水の流れる音をキッドの聴覚が拾う
ローが手を洗い流していたようでキッドに向き直る際に手を拭いていた
「ふ…そう睨むなよ。相手が俺だけになったってだけで、お前のヤること、ヤらなきゃなんねーことは変わらないんだぜ?」
キッドの衣服の乱れを直しローは濡れた目尻にキスを落とした
「出るぞ。店員に怪しまれたくなきゃ気分の悪ィ振りでもしとけ」
背を押され、薬の効果の続く身体は過敏に反応するがローはは構う事なくふらつくキッドの背を押しコンビニの店内に戻ると様子を伺ってくる店員に軽くお礼を言い店を後にした。



車に戻りローはまた行き先も知らないキッドを乗せて車を走らせる。
あれから何の言葉も交さずにいるがキッドはそれが救いでもあり、またいたたまれなくもあった。
ローに無理矢理飲まされた催淫剤の類いである薬の効果は未だに切れずジワジワとキッドを追い詰める。コンビニのトイレでされるままにローの手で散らしたと言うのにそんなことはまるで意味を成さないと言うように欲は膨んだ。
それに伴う動悸は治まらず息が上がり下腹は疼きを通り越して痛みに変わり始める
そんなキッドが息を殺しぐずりと鼻を啜るのをローは口許で笑うだけだった


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