乙男の年末

そんなこんなで年末ですよと。忘年会シーズンですねェ。
乙男ローさんのキッドさんも、友人、会社の人たちと忘年会があるんじゃないでしょうか。会社人っていっても事務のおばちゃんがいるくらいで女っ気がなく、男所帯の中のおばちゃんなんてよりえげつなさそうなのでお下劣上等無礼講のやんややんやと煩い宴会になることでしょう。
社長スポンサーのちょっと早いお年玉争奪ゲーム(現金、ビール商品券入りの封筒から中身不明のプレゼントが大〜小さまざまに)。
それなりに盛り上がった宴会も終わりまして、次のお店組、帰宅組と別れまして。
キッドさんは今日は帰宅組です。最初からそう決めていたので宴会では進められるがままにしこたま飲みました。酔っぱライダー参上!!ポーズ極めながら大声で叫びたいくらいには陽気に酔っぱらっています。
今日はローが泊まりに来ると前以て約束をしてありました。キッドさんの仕事が忙しい時期にあり休日出勤もあったのでローとはゆっくり過ごせずにいて、でも忘年会の次の日は何が何でも休みです。そうでなければこんな飲むわけにもいかないですから。
ローは気にしないで飲んできてもいいとキッドに言いましたが、キッドの方が恋人ほっぽいておくことができなかったので鼻歌唄いながら帰路に。
因みにローは毎週末ごとにキッドがいない間年末の大掃除にいそしんでいました。キッドがいると掃除しないくせに(頼めば一応真面目にはしてくれるけど)ちょっかい出してきて掃除どころではなくなるので、キッドが仕事で居ないのはある意味都合がよく換気扇や普段あまりしないところの掃除をしてました。
ま、換気扇のことなんて知ったこっちゃないダメなキッドさんですがローの自己満足なので別にいいのです。

ピンポーン!ピンポン!ピンポピンポピピ!ピピピン!ポンピンポン…
「ユースタス屋っ。そんなに押さなくても!」
「ヘヘヘ…たっだーいまッ」
ローがいるとわかっているので呼び鈴鳴らし(連打しまくって)ご帰宅のキッドさん。酔っ払いのテンションは困るほど高いです。
酔いで頬を赤くしながらへべれけた笑顔…うう、可愛い……。思わず顔を掌で覆ってしまうくらい絆されてしまう自分とキッドの笑顔にやられてしまい撃沈のローくん。
「…おかえり、ユースタス屋」
「ん。」
なんとか持ち直してキッドの帰宅を喜びつつ家の中へ。
ああ、ほんとにいっぱい飲んだんだろうな…むっとむせ返りそうなアルコールや煙草、他いろんな臭いをまとったキッド。厚手の上着を受け取ってファブリーズをシュッシュして吊り下げておきましょう。と、背中に温もりが。
「ッ、ぅ…ユースタス屋…?」
「んー…?」
「あの…」
普段よりもあったかいような気がするキッドに抱きしめられローの心臓はドキドキ…を通り越し、ゴッキンゴッキンと重苦しく鳴り響きます。嬉しいやら照れやら恥ずかしいやらで首から上が暑い。
じっとりと汗も出てきます。快適だったエアコンが煩わしいくらい。
「酒とかァ…いろんなもん食ったからくせぇかもだけど我慢して…」
「あ……」
「おれはなー、これでも結構さみしかったんだぜェ……?」
「ユースタス屋…」
「ん…」
恥ずかしさを携えながらも顔だけ振り返ったローと唇を重ねます。換気扇は気が付かないけどいつもよりレンジ周りが綺麗になったとか、少し家具を動かしたりした形跡とか、そう言うのに気が付いていたキッド。
普段会う日曜日。今月は休日出勤だったキッドが帰宅する頃には昼間に来ていたローは帰った後でふと見渡した部屋のあちこちが綺麗になっている様子を見ると……。
なんか…もう健気で愛しくて次会ったら目一杯甘やかしてやりてェと思う訳で。
「なんか食ったのか?」
「あ」
「あ?」
「ユースタス屋のラーメンを…」
「ラーメン?カップメン食ったのか?」
「た、食べたら駄目だったか?」
「や…ダメじゃねーけどもっとお前…出前でもなんでも取れって言ってんだろ?ソコにあんだし」
出前のメニューなど突っ込まれている棚にはローが買い物に行くときに使ったり留守番しているときに好きなもの食べられるようにとキッドが食費も一緒に収められています。
最近やっと思い出した時にはローが使ってくれるようになってキッドも嬉しく思ってたのに。
「おれ、殆どカップメン食べたことなかったから気になって…」
「食べてみたかったのかよ」
「うん…すごいな。けっこう美味しかった」
「それならいーけどよ」
「あと、出前とるより楽だ」
「…そっか」
カップメンで喜んでるよ…とちょっと呆れもするけどそんなやり取りもなんか楽しいわけで。キッドは笑いながら(酔いで笑いのハードルも低い)ローの頭をわしわしと撫ででベッドにどっかりと腰を下ろしました。
「ん?…ユースタス屋。ポケットになんか入ってたぞ」
「おあ!それ大事な奴だった」
「?」
「ビール券。いーだろ2000円分当たったもんねー」
「ああ…それは、うん…ユースタス屋には大事だな…それは?」
「おれも中身知らねェや…ビンゴゲームで当たった奴。開けてみ?因みにビール券はジャンケンでもらった」
「楽しそうだな……??これは………メ、イド…服?」
「はー?」
プレゼント袋をガサガサと開いたローはとても困惑した顔でその中身を見ました。某さまざまな商品を大量に売っている店で見繕ったパーティグッズであろう、コスチューム…メイド服。
「おもっきり外れ品引いたな……ま、軽いから期待してなかったけどよ」
「へぇ…なんか、面白いなこんなの景品にするって」
「完全に幹事連中の悪ふざけだろ…」
キッドは大物ではなかった景品に少しがっかりしながらその品を眺め見て…
「……着てみろよ」
「え゛!?」
「着てみ着てみ。案外いけんじゃね?」
「えぇ…イヤだ…」
「んだよノリのワリィ。こんなもん恋人に着せて楽しめってこったろうに」
「じゃあユースタス屋が着てもいいだろッ」
「いや、ムリ」
「ほら!」
「や…物理的に無理じゃね?これ…ぜってー腰も肩も入らねェって。破けんじゃね?二の腕も通らなさそー」
「う、うーん…」
「んー…。おし、ちょっと待ってろ」
「は!?」
「笑う準備しとけよー」



「ドヤ」
「……それ着るって言わない」
「だから、入らねェンだって…無理に肩入れたら縫製ブチッつったぞ?」
暫く脱衣所に籠ったキッドがようやく出てきたと思えば、ローの浅はかな期待も虚しく。
なんとか胴を突っ込んではいるものの背中のファスナーは閉まらず窮屈な前掛けの様になってしまっていました。
「ニーハイも破れそうで穿くのに緊張したぜ」
「……(足は綺麗だけどやっぱごついな…)」
「着れねェんじゃ面白くねェなァ…」
キッドはどことなくがっかりしながらメイド服が残念なことになる前に脱ぎ捨てました。一瞬だけボクサーパンツにニーハイと言うなんとも言えない格好になったキッドを、ローはぐしゃぐしゃのメイド服を拾いながら見る。
「おれ風呂入ってくるわ」
「ん。ちょっと温くなってるかもしれねェから…その時は沸かして」
「おーう」
ニーハイソックスも脱ぎ捨てたキッドは再び鼻歌を歌いながら浴室へ入って行きました。
「………」


「ふー。ちょっと酔いが醒めたなァ…おいロー、ビー……ル」
「!!…う、…っ」
風呂から上がったキッド。沸かしながらお風呂に入ったのでちょっと熱めの湯加減になってしまいましたがさっぱりました。酔いは少し醒めたもののまだまだ陽気な気分は抜けません。
あと、熱い風呂の後の冷えたビールは冬とは言えこれまた格別です。ローにビールを出してくれと、顔を向けると…
「……ブッ!あっはっはっはっは!!!にっ合わねェの!!ひぃっひっひ!!」
「〜〜〜〜!!!」
指をさして笑うキッドの目の前には、さっきキッドが抜き捨てたメイド服をきたロー君の姿。
「だぁよなァ。お前、いくら痩せて見えても骨太だしガッシリしてんもんな…そりゃそうなるぜ」
「ううう…折角着たのにそんな笑い方…」
「褒めてほしかったのかよ」
ローも上背がある上に、痩せて見えても着痩せなだけで抱きつけば結構いい体つきをしています。
特別運動をしているわけではなくともこうなのだから羨ましい体型ですが、女装するには幾分か無理があります。
キッドよりもなんとかメイド服は着れていますが、肩幅の所為か背中のファスナーは上がりきっておらずどこもパッツパツに張りつめています。
「でも余興には最高だぜ?」
グ、と親指を立てたキッドの褒めてるのかバカにしてるのかわからないようなフォローに項垂れながら、ビールを渡してやります。
「あー、でも太腿はヤラしいな」
「ヒッ!冷たい手で撫でるなっ」
缶ビールを持って冷たくなった指先でローの太腿、所謂絶対領域をツゥっと撫でるキッド。
「かてぇこと言うなよ」
「わっ、わっ!ちょっと…!!」
スカートに手を突っ込み尻を撫でるキッドにローは顔を真っ赤にさせます。
「ちょっとここ座ってみ」
「え、えっ!?」
ベッドに座ったキッドは、膝にローを座らせて抱えてみる。うん、流石に重さはあるけど良しとしよう。
「ユゥ…スタス屋…も、脱ぎたいんだけど」
「ダメ」
「なんで!?」
「目が慣れてきた。いいじゃねーか…お前も満更でもねぇんだろ?ふりふりしたの好きそうじゃん」
グッグッ、といい喉の音を鳴らしながらビールを煽るキッド。いや、ふりふりした可愛いのも憧れるし正直好きだけど……すっごい恥ずかしいんです。と縮こまるロー。キッドはなんでそんな趣味もないのにノリノリでこれ着ようとかできるんだろう…とキッドのノリの良さもちょっとうらやましくなってきます。
「お前さー、いまいちおれわかんねェんだけど」
「…?」
「女装とかはしねえの?」
「!?な、なんで!?」
「えー?かわいいのとか好きなんだろ?」
「す、好きだけど…女になりたいとか女の服着たいとかじゃなくて……ぬいぐ…るみとか着せ替えたりとかかわいいのを…(小声でごにょごにょ)」
「着せ替え?え、それおれに可愛いのを着せたいの?」
「えぇ!?そ、そういうわけじゃ…」
ないわけじゃないんだけど…メイド着てくれようとしたのは嬉しいし好きなの(キッド)と好きな(可愛い)のの組み合わせも見たいけどと心の中で言いたいこと言うロー。でも乙女趣味をキッドに全部言うと言うのも勇気がいることであって。
「人形遊びとかすんの?シルバ●アファミリーみてぇのとか、バー●ー人形とか、あ、お前セーラー服着た女戦士のアニメとか好きだった?」
「う、う…えっと…それは…」
シルバ●アファミリー…それはローが幼少期から欲しくて欲しくてたまらなかったもの。でも親は勿論買い与えてくれなかったし、買ってほしいとも強請れなかった。だから将来自分で稼ぐようになったらきっと集めてやるのだと今でも夢に思っているローくん17歳。
「…おれ、外でボール遊びするより…男の子だけで走り回ってるより…女の子とおままごととかしたかった方で……」
「ふーん?」
「子供の時、友達の女の子の家に遊びに行ったら子供のキッチンセットとかあって羨ましかったな…」
「…へぇ…そんなもんか」
「変だってわかってるけど」
「いや……別に、ようするにあれだろ?…イメクラが好きってことだろ?」
「なんでそうなる!?」
「え、ままごと…」
「おままごととイメクラは違うだろ!?」
「えー?だってごっこ遊びだろ?」
「そ…そうだけど、そうじゃなくて!!」
「あー??」

そんな、一応キッドなりにローの趣味は理解していくつもりで。
「じゃ、メイドらしく奉仕しろよ」
「誤解しすぎだユースタス屋……」
「ご主人様って呼べ」
「……」
「上手くできたらご褒美やるぜ?」
怪しく笑うキッドに圧され、淫靡な夜は更けていきました…。



・クリスマス当日
「おう、今日終業式だったんだろ?」
「ああ。もう冬休みだ」
「いいことだなァ、学生は」
平日なのでキッドさんお仕事でした。クリスマスデート。キッドさん仕事終わって待ち合わせてイルミネーション眺めてご飯食べて。ローくんが憧れてそうなことをかなえてやるキッドさん。
ローからクリスマスプレゼントにと革のキーケースをもらってさっそく使っているキッド。
「家くるだろ?」
「うん」
一頻りクリスマスの雰囲気を味わって寄り添って歩きながらご帰宅です。
部屋が温くなるまで暫くいちゃついて、まったりしてきたところに
「そうだ、プレゼントやんなきゃな」
と立ち上がるキッド。「え?!」今日のデート代はキッドさんが全部出してくれました。それがプレゼントで十分だったのに!と慌てるロー。
「気にすんな。それに大したもんじゃねーから」と、やけにでっかいプレゼント箱を持ってきました。
「これ持って帰れねぇだろうからよ…もうここで開けて、おれん家に置いとけ」
「??」
開けていいのか?と目で聞くローに頷くキッド。包装紙を丁寧に外して中のものがちらっと見えました。
「!!?」
「何やろうかって迷ってよ…アクセサリーつっても好みもあるんだろうし。だからそれで勘弁してくれ」
「これっ!」
シルバ●アファミリーの大きなお家…それがローの手元にあります。
「そっちのどっか…棚の上にでも置いとけばいいだろ。おれ触らねェから好きに遊べ」
「あ、ありがとう!!」
「おう。どういたしまして」
本当に憧れてたんです。涙目になるほど嬉しいのです。
「うおっ、ちっせぇなんだこれ…」
「ふふ、全部据え付けかとおもってただろ?これ1つ1つなんだぜ」
「お前それちゃんと落ちねェ様にしとけな?おれうっかり失くしちまいそうだから」
「うん…ちゃんとしとく」
ああ、嬉しそうな顔しちゃって。レイアウトし始めるローのきらきらしい顔を見ながらキッドはクリスマスの夜を過ごすのでした。



   

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