乙女の夢と男の欲と弾ける花火

キッドのところへ向かう途中のスーパーにて、花火大会のビラに目をとめました。ああ、今日お祭りか…屋台とか出るんだろうな。
ユースタス屋ってこういうの好きそうだけど、それだけになんか怖いお兄さん(キッドの友達)をつるんで満喫しそう…と、誘いたいけど誘っていいものか…とテトリスみたいに上手に買った物を袋に詰めながら考えます。
暑いな…セミが一生分を必死に鳴いている中、がさがざと袋を揺らし夏の日差しを受けながら歩いてキッド宅へ。
キッドさんはお世辞にも規則正しい生活をしているとは言えません。休みの日ならばなおさら好きな時に寝て好きな時に起きます。
寝ていればいくらピンポンならしても気が乗らなければ居留守も辞さない…そんな性格なのを自覚しているキッドはローに合鍵を渡していました。
別に金目のものは置いていないと言うのと、恋人をないがしろにしては可哀想と思う(のだったらピンポンしたら出迎えればいいのにそれは面倒だから…うにゃうにゃ)ので。
ローはローで恋人でも余所の家に勝手に入るのは結構躊躇うしドキドキするのですが、でも気になるしでもピンポンしてキッドを起こすのもはばかられるし…と葛藤の末、極力音をたてないように合鍵で「おじゃましまーす…」と小声で。

「おう。ごくろーさん」
「あれ。起きてたのか」
「おー」

と、静かに靴を脱いで上がると、そこにはすでに起きてベッドに腰掛けているパンツ一丁のキッドが。どことなく眠そうな間延びした声をしています。

「もうちっと早くくりゃあなー…」
「どうかしたのか?」
「んー、朝勃ち…どーにもムラムラしていま抜いたとこだったぜ」
「あ…っ!?」
「おしいなー」
「〜〜〜っ」

賢者タイムながら、ヘラヘラ笑って茶化すキッドにローは耳を赤くして、動揺しながら買ってきたものを仕分けます。

「悪ぃ、買い物してきたのか。ポカリ冷えてんぞ…アイスも好きなのあったら食え。つーかお前暑くねェ?」
「(いろんな意味で)暑いけど…」
「もちっと涼しい格好すりゃいいのによぉ」

27度設定の冷房の効いてる部屋でパンツ一丁のキッド。確かにいまキッドほど涼しい格好してる奴ってそうそういなさそうだよな…と冷凍庫を開けて冷凍品を直すついでにアイスを物色するロー。某お高いアイスの箱が未開封で突っ込んでありました。アイスはこれしかないのでこれ開けていいんだよな…っと自分の好きなアイスをもらうことにして。
(実は、ローの為のアイスであることをローは気が付かないしキッドも言わなかったりするんですけど)
そんなローの格好は、綿麻ジャケット(7分丈)に濃紺のデニム(ロング)。格好としてはいいんだろうけど…家に来るだけなのにいつもしっかり服着てるローにキッドは関心もするけど、抜け感も必要だよな…と思いつつ。

「脱げば?」
「え?ああ…」
「いや、下も」
「えっ?」
「下もー。ほら、こっち来い」
「い、へっ!?ちょ、ユースタス屋っ…!!」
「なぁんもしねーって、いま抜いたばっかだからエロいことしねぇよ」
「あああ…っ!」

歩いてきて暑かったのか、ジャケットだけでも脱ごうとしたローはさらにキッドの手によりズボンまで脱がされる。

「バンザーイ」
「っ…」

ジャケットの下のシャツまで脱がされてキッド同様にパンツ一枚まで剥かれたロー(何故か両手で胸元を隠す)。キッドは満足していい笑顔をしながらここに座れとばかりに自分の傍らをぽんぽん叩く。
ローは居心地悪そうにしながら、アイスとスプーンをそれぞれの手に持ってキッドと心持離れた位置に腰かけてみる。

「なんだよ、バニラしか食えるのなかったか?」
「?おれ、バニラが好き…」
「へー?フツー、なんか混ざってたり味が違うの選びそうなもんだけどな」
「抹茶もチョコも嫌いじゃねェけど…バニラがいい」
「そっか」

お互いパンツ一丁で、ベッドにただ並んで座ってお話して『なにやってんだろうな…』と未だ賢者中のキッドは思うけど美味しそうにバニラアイスを食べるローを傍らに、まぁ悪くもないか…と。

「うひっ!?」
「ホクロ」
「きゅ、きゅうに…!」
「ははは」
「あわっ…ユースタス屋あんま近づく…」
「あー?なんでだよ」「おれ汗かいてっ」
「んなのへーきへーき」

なんていちゃつきながらお家デートを楽しんだりして。(ロキドだよ)

夕方。

「ロー。起きろよ」
「ん…」
「そろそろ準備しようぜ。シャワー浴びるだろ?」
「…?」
「なんだよ知らねえのか?今日花火大会だぜ…行かねぇか?」
「い、行くっ!」

いちゃいちゃ〜さわりっこしながら午後を過ごし、いつの間にかお昼寝へ突入した2人。先に起きたキッドがローを起こしました。
勿論お祭りごとが好きなキッドです。今日のことを忘れているはずがなく当たり前の様にローを誘いました。キュンキュンと胸を高鳴らせて喜ぶロー。
「ほら早く仕度しろ」とペチンとキッドにお尻を叩かれなんとなく恥ずかしくなりますがわたわたと仕度を始めました。

「やっぱあちーなァ…」
「人がどんどん集まって来るな」

賑やかな人の流れに乗って連れ立って歩きながら、ローは珍しげに周りを見ます。
身支度をしていると、キッドにやっぱり暑そうな格好だと言われ足元はロールアップに上はキッドに借りたので来ているローには心持ち大きいように感じる(でも見た目には許容範囲)ポロシャツといった装いに。キッドはハーフパンツに薄手のブイネックシャツと言う簡単な格好。

「こうしてみると男も浴衣って多いな」
「浴衣なァ…着たかったのか?」
「ええっと…」
「脱がせやすそうだよなあ、浴衣」
「ユースタス屋…」

にまにま笑ってローの耳元に顔を寄せるキッド。人前でも構わず隠さず接してくれることに嬉しいような恥ずかしい。しかも、自分が脱がされる側になってるし…(ロキドですよ)
屋台の並ぶ道を、何食べよう、何に食べたいときょろきょろしながら。

「お、ちょっと待て」

屋台の前で立ち止まるキッドに手首を掴まれて足を止めるロー。テンポの良いやり取りにあっという間に用が済んだようで、キッドはローに向き直り今買ったばかりのものを差し出しました。

「ん」
「…ありがとう?」

反射的に受け取って、ローはそれを手にしました。なんの変哲もない色とりどりのチョコレートスプレーが散りばめられたチョコバナナ。

「…なんだ?」
「いいから。早く食えば?」
「…(はむ)」

カシャッ。ローがバナナの先を含むとキッドのスマホがこちらを向き、写真を撮る音が。

「なっ」
「おー、伏し目がちな感じがいいな」
「な!」
「ほら、よく撮れたぜ」
「な!?」

撮った画像を見せられて漸く意図を察したローは言葉も出ずただただ狼狽えます。え、これって所謂疑似フェラ…撮られた!!?気づいた時には遅いです。

「ゆ、ゆっ…!」
「道の真ん中で止まると危ねーぞ。歩け歩け」
「酔っぱらってんのかユースタス屋!」
「ああ!そうだビール買わねぇとなッ!」
「〜〜〜!!」

再び手首を掴まれ、今度は腕を引かれ歩くロー。からかいにからかいを重ねながら少し前を歩くキッドに文句も満足に言えぬまま、ローは『なんてもの撮ってんだ』とぐるぐる回る恥ずかしい思い。
あー、でもユースタス屋のそういう写真なら絶対欲しい!つーかユースタス屋をおれのそんな写真撮ってどうするんだろう。面白がるだけ?からかってるだけ!?おれだったらユースタス屋のそんな写真で……ッ。

「お、ここビール売ってら。お前焼きそば食べる?」
「…うん。…おれ、ちょっと」
「あー?なんか食いたいのあった?」
「うん」
「買ってやろうか?」
「いい」
「そ?」

キッドが焼きそば待ちをしている間に、そばの屋台に向かったロー。チョコバナナをそれでもキッドが買ってくれたものなのでちゃんと美味しく間食済。

「お、来たな。あんま離れねェほうがいいかもな…人多くなってるしはぐれそうだ」
「そうだな。結構人にぶつかりそうになった」
「何買った?」
「イカ焼き。おれ一匹まるまま食ってみたかったんだ」
「あー、いいな。あとでちょっと寄こせよ」
「いいぜ」
「お前飲み物いらねぇ?カキ氷は」
「ああ…けど、おれ朝アイス食ったしさっきはバナナ、…イカも焼きそばも食べる前にカキ氷…」
「はは、いいじゃん…こんな時くらい食い物の順番とか考えんなよ。食いたいもん食おうぜ」
「なら食べる」
「何味がいい?」
「ユースタス屋は?」
「おれビール買っちまったし。食うならお前の貰う」
「……パイン」
「…ほらよ。先にいろいろ買っちまったけど、どうだ?クジとか射的とか…」
「射的か」
「勝負すっか?数と…大物は捕れねぇだろうがもし取れたら5発分、取れやすい景品5個分ってことにしてよ」
「じゃあ2回分10発勝負な」
「おし!」


「お前射的てんでダメだな」
「ユースタス屋だって2つだろ」
「おれは最初でかいの狙ったからだろ。あれ全然動かなかったな」
「普通に無理だってわかるだろ…数撃っても絶対無理だぞあんなの。輪投げは勝ったのに…」
「輪投げは賭けするとは言わなかったからな」
「むー…」
「いいじゃん、クジでいいの当たったんだからよ」
「よくない…」

射的をはじめ、遊び屋台を回った2人。ローは辛うじて景品にかするだけで結局は1つも落とすことができず、キッドはローにハンデを与えるべく最初の5発は大物を狙ってみたものの、やはり落とせず。残りは打ち抜けそうなものを捕りました。
輪投げではローの方が特典が勝り、クジではキッドは下位の懐かしのおもちゃ(ガラクタ)を、ローはなんと3等が当たりクジの景品の中で一番大きなビニール人形(黄色いクマのだっこ仕様)をもらいしました。抱えて歩くのが恥ずかしいと思いながらローはうなだれます。

「どうすればいいんだ…」
「抱えて寝れば?おれの代わりに」
「…ユースタス屋は赤色だろ…」
「そういう問題なんだな」

祭りを十分満喫しながら、花火をゆっくり見れそうな場所へ移動し、腰を落ち着けました。周りにも人は居ますが、他にもいくつかあるスポットへ分散しているようで混雑と言うほどではありません。

「さっきもう1本買っときゃよかったぜ」
「それ2本目だろ?」
「飲み終わったけどなー」

キッドはビールを飲みながら歩いていたので、ここに来るころには2本目のビールも飲みほしていました。

「ユースタス屋」
「んー?」
「はい」
「お?」

花火はそろそろだろうかと撃ち上がる方向を見てキッドの視界にずいっ、と目の出されたもの。

「……うまそうじゃん。冷えてっけど」
「……」
「食っていいの?」
「う…ん」
「いただきまーす…ん」
「っー!」

冷めてはいるが季節がら冷たいと言う訳ではない大きなフランクフルト。
ローは串ごとキッドに渡すつもりでいたのに、キッドは何を思ったか自らは受け取らにローが差し出す手から食べ始めた。
祭りのざわつきに掻き消されてはいるがローには辛うじて聞こえるほどの音でちゅ、とフランクフルトの先にキスをし、唇をその太く長い肉の棒に滑らせた。
油に濡れる上下の唇を摺合せ、ペロリを舌で舐める。あーんと口を開きはむっとそれを銜えたキッドはどうだ、とばかりに上目づかいにローを見つめた。

「それでは今より第○回、〜〜花火の…」

遠くでは花火前のアナウンス、そしてカウントダウンが始まる中、ローは目の前のキッドから目が離せず、また耳にはフランクフルトを舐めてしゃぶる音しか届いていなかった。
こっちを見つめていたキッドの目が伏せられ、フランクフルトを深く銜えた口元がもぐりと動く。

「ユ――…ッ」
――ヒュルル、ドォン、ドォオン…!
「ぅあ!!?」

ビリリと肌を震わせる振動と耳を劈きそうな破裂音にローは驚き、真っ暗な空に大輪の花を咲かせる花火を見上げた。瞬くうちに咲いては消え、四方に散っていくそれを呆けてしばらく見た後、はっと我に返り慌ててキッドの方を見る。

「おー、すげーな」

いつのまにか自分で串を持ち、もぐもぐと頬を膨らませながら既にフランクフルトを半分以上腹に収めているキッド。

「あ、ああー!写メ……ッ!!!」

アプリを起動させ、連写のスタンバイまでしていたのに。見蕩れている間にすっかりスマホを握ったままその用途を忘れていたローは、花火の音に掻き消されながら一人騒ぐ。
キッドは最後の一口をゆっくり咀嚼して飲み込み、満足そうにローへ笑顔を向けた。

「花火、キレーだなぁ!」
「綺麗だけど!ッ…くそー!!」
「あー?なに、聞こえなかった!」
「うううーーー!!」
「あはははは!」

何十発と撃ちあがる花火に嘆きと笑い声、他から上がる感嘆の声は飲み込まれ、ローは完全に敗北した気持ちでしんみりと夜空に咲く花を見上げた。
遊ばれてばかりだ…でも、嫌じゃないんだけど、負けっぱなしで悔しくて…ああ、花火も終わりそうで…。

「まー、そうがっかりすんなよ」
「……」

花火が少し静かになった時を見計らい、キッドが耳元に顔を寄せて話しかける。

「帰ってからまだチャンスあんだろ?」
「……?」
「フランクフルトなんてもんじゃねぇ…もっと熱くて、太いの食ってやるからよ」
「!」

三尺玉が打ちあがり、締めの花火が一気に夜空を湧かす。
腰を抱き寄せられ耳を食まれたローは理性を振りきりそうな妄想が一気に駆け巡り、最後に打ちあがった花火を見ることなく顔を掌で覆い隠すことになった。


   

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