父親との出会い

キッドくんはクロコダイルが引き取った子です。キッドが3歳の時でした。
鰐はでっかい会社の社長さんやってますが、大きい会社だけあって支援を求める団体とかも多いわけです。でもロクすっぽ工面もしねぇで何言ってやがる、と大体蹴るんですが。本当に試行錯誤の限りを尽くしている優良なところにはその支援も惜しまず、手の限りを尽くすのが鰐です。その、鰐が支援していた施設に入ってきたのがキッドでした。
そして、運命の日。鰐は子供に興味はないが慈善活動も仕事のうちと施設訪問へ。施設もきれいだし、部下に調べさせても黒いものはなさそうなので惜しみく尽力する…みたいなお話をしていると騒がしい声が。
どうしたのかとさして興味な下げにしていた鰐の目の前に真っ赤な子が。
若干3歳ながら癇癪持ちのようで派手に暴れています。その目つきの良いこと。誰も信用せず、何もかもに憤りを感じているという顔です。ガキでもあんな顔出来るもんなのかと感心の鰐。
施設職員も鰐の手前暴れる子供を無理やり取り押さえて…には踏み切れず暴れる子供と鰐の顔色をうかがいながらただただ宥めるだけ。
子供の直観です。今日の大人は自分に無理強いしないとわかると小さな怪獣が如く暴れます。自分と同じくらいの子供を泣かせ、少し上の子でも容易に殴り泣かせてしまいます。
玩具なんかも手当たりしだいに投げて、とうとう鰐の左の眉上に投げつけた(両手投げだったので子供なりにスピードと距離が出ました)玩具が当たりました。
施設関係者と鰐のお供は凍りつきます。ただでさえ切れやすく、血が出やすい場所…つー、と血が垂れます。さすがの子供も血に驚いて茫然。
「気が済んだか」
「っ…!?やっ…はなせっ」
シンと静まり返る中、鰐が言葉を発し子供の肩が跳ね上がりました。鰐の手が伸び、子供の細い二の腕を掴みます。当然、また子供は暴れだし、ついにはひっかいたり、噛みついたりオーダーメイドのスーツの袖を引っ張ったりと暴れたい放題するもびくともせず。
「おい」
「あ…は、はいっ!」
顔だけ振り向かせた鰐と目があった施設代表はひっくり返った返事ををします。この施設も今日までだ…と地獄の門の前に立ったような気分の施設代表。
「これを引き取りてぇんだが」
「…は…、といいますと…?」
「養子に取る。どうせこいつがいても厄介なだけだろう」
これまで通り援助はする、今暴れて壊したものも全て立て替える。その代りまどろっこしい手続きなんかはナシだ。必要な書類はあとでまとめて送ってこいと勝手に話を着けてしまう鰐。
じたばたするキッドを肩に担いでお持ち帰り。社長はいつだって自分勝手です。
車の前まで連れてきて、鰐はキッドを下しました。これはチャンスとキッドは足を縺れさせながら逃げようとします。暴れまくったので体力も消耗してるのでついに転びました。
どこに行く気だ?またどこかの施設に戻るか?今逃げてもてめぇの行く場所なんてないぞ。
ため息交じりに鰐は声を張るわけでもなく、独り言のように淡々と述べます。キッドだってわかってます。よくわからないけど覚えのある時から痛いことや嫌なことがいっぱいあって、大人なんか大っ嫌い、ただその思いだけが強くて、たくさんの子供がいるところに連れてこられて意味が分からなくて、安心できるところなんて知らず、ただただ誰も彼もなにもかもが嫌で嫌で堪らない。衝動的に暴れたり逃げたりしたくなるのです。
幼い故に何もわからなくて、でも嫌で、不安で…キッドは転んだままの形で地面に突っ伏しながらぼろぼろと泣き出してしまいました。
うえぇん、と殺せない声まで上げて泣くキッドを鰐は抱え上げて大きな手でキッドの背をトントンと叩きました。泣き止ませたくてそうしたのに、涙は更に溢れ、声は大きくなるばかり。耳の傍で堪ったものではないですが、ぎゅっと力強く上着を握る締める手と、しがみ付くように胴を挟む細く短い両足に鰐は感じるものがありただ背中を撫で続けました。


そして数日後。ドフラミンゴが社長室の奥へやってきました。
●余談的に説明しますと、この頃の鰐、自宅は一応あるものの行き来が面倒で社長室の奥に部屋を作ってしまって、そこで過ごしていました。シャワールームももちろんトイレ、簡易キッチン、生活に必要なのは揃っています。
キッドを引き取るのは良しとして、仕事がある鰐です。幼保に預けるとしてもまだ養子縁組など済んでいないのでまだまだ必要な手続きが終わっておらず、暫くは付きっきりで面倒を見なければなりません。部下にさせようにもキッドは人見知り(大人嫌い)があるし、癇癪は持ってるし目が離せず。
仕方がないので、キッドを引き取ったその日から社長室の奥の部屋で共に生活をしています。(この話でキッドが社内をうろちょろできていたのは、ある程度社内のことを覚えていたからである)
土日です。会社も休みのこの日、ドフラミンゴは鰐を探してやってきました。会社が休みでも、鰐は忙しく好きで働くタイプです。社長室にはいなかったので、こっちだろうと奥の方へ勝手知ったように入ってきます。で、ドフラが目にした光景は。
まだパジャマ姿で、前髪も額にかかった姿で火のついていない葉巻を咥えうつろにしている鰐の姿。
なんてこった。こんな鰐初めてみたドフラは自分が仕事投げたせいか?それともなにか多大な損失が?危ない営業がついに…?と考えをめぐらせます。
「…テメェか」
「…フッフッ…随分と憔悴しきってるようだなァ、クロコダイル」
鰐はドフラに気づくと深い溜息をこぼしました。ドフラは何かおかしいと感じつつも、いつもの調子を崩さず返します。途端に顔を顰めた鰐は「静かにしろ」と咎めると、ソファから立ち上がり、社長室へ続くドアを潜って行きました。ドフラも鰐を追って行きます。
「どうした?」
「…寝不足だ」
「寝不足だァ?おいおい、今に始まったことじゃねぇだろテメェのそれは。新しい事業に手ェだしたなんてのはおれの耳には入ってねェしな」
鰐は社長専用の椅子に腰かけ、ドフラは黒檀の机の上にどかりと腰を下ろします。
「…てめぇ、何の用で来た?」
「最近、お前が買ったもんについて見にな」
「…」
「フッフッフッ…どういうつもりだ?」
「どうもこうもねェ…それに人聞き悪ィな。買ったんじゃねぇよ…引き取った」
漸く葉巻に火をつけて鰐は紫煙を揺蕩わせる。ドフラが口を開こうとしたその時、乱暴にドアノブを開ける音がした。
「んんんやぁああだぁぁああ!」
「…、なんだ…どうした」
きーきーと甲高い声を上げながら泣きじゃくる子供が鰐に飛びついた。ドフラは驚き閉口する。
「あー!あぁああっ…うぇぇえんっ」
「わかったわかった…喚くな」
キッドを引き取って数日、この調子である。思い出したように癇癪を起こし、時にはずっと抱っこをせがみ、腕から下ろすと泣くを繰り返す。夜に突然泣き出すのは毎夜のことだった。


名前を避けて書いてきましたが、子供はもちろんキッドくんです。もしかしたら、さらりとキッドと書いてしまっているところがあるかもしれません。
お話風に書くのに疲れてきたのでこっから説明調に。
お気づきかと思いますが、保護者からの虐待等で施設へ入ることになりました。本当の親は死んでいると思ってください。キッドのような特徴的な赤い髪をした親となれば、鰐やドフラの情報網を駆使すれば見つけてしまえそうですので。
3歳ですが、怖い思いだけ覚えてて一番大事な赤ちゃん〜幼児時期にロクな扱いを受けなかったので不安定な子になってます。3歳児あたりまではとくに暴れたり叫んだりが厄介な時期らしいので、拍車がかかってもう大変。
鰐、1日2日ほどなら不眠不休で仕事もこなせますが、ちびっこスーパー怪獣相手に夜も寝かせて貰えないとなると憔悴もします…白髪が増えてないですか、大丈夫ですか。
ドフラは、これでもいろんな情報網がありますので鰐のことなんて逐一。なんと施設から子供を…なんて言うからどんな商売する気だ?!と乗り込んできました。でも様子を見るに本気で育てる気で引き取ったらしいので…そんな鰐見てしまったら「よせ」もなにも言えなくなってしまいました。
こうして、ドフラもキッドを可愛がりたいと思いが芽生えるのでキッドを構い倒しに行きます。鰐の負担も半減。鰐と違い、ドフラはキッドをあっちこっち連れまわして、いっぱい遊ばせて発散させるので子供の体力では電池切れはあっと言う間。たっぷり7時間は寝てぐずりもなくスッキリとしたお目覚めです。
キッドはものに当たったり、癇癪おこして噛みついたりと激しかったけど、1年かけてたっぷり愛情注いで(ミホークは出すタイミングがなかった)、いつの間にか漠然と抱えていた「怖い、不安」って思いがキッドの中から消えていきます。
馴れなかった部下の顔も、いつも鰐とドフラの周りにいる数人なら覚えました。
キッドが漸く周りの大人を怖がらなくなった頃、いつまでも会社に住んでるわけにいかない(一応自宅に帰ってもいたけど距離がネックだった)しと、鰐は会社のごく近くの土地を買ってお家を立てました。すぐ行き来できるように。マンションだと、いい部屋(高い部屋)は総じて上の階になってしまうので、いっそのことと家を作ってしまった鰐。いつの間にか子煩悩すぎる。でもお金あるからいいよね。2階建ての庶民の我々からすればとても大きな家。(でも鰐やドフラは控えめとか小さ目とか言うんだよ。土地が足りなかったとか言うんですよ。)キッドの部屋も勿論作ってありますが、キッドが1人寝するのにはまだまだ時間がかかりそうです。家を作ってから鰐は極力家に帰るし、帰れない日はドフラかミホークいずれかがいてキッドと寝ます。
ミホークは忙しい人(でも要請すればすぐ来てキッドの面倒を見てくれる)で、なかなか会えない。…ので、
「ミホークはなァ、妖精さんだから普段はみえねぇんだぜ。でもいつもお前の傍にいるからな…フッフッ!いつでもいい子にするんだぜ。悪ィことすると全部見てるぞ」
ってドフラが適当なこと言ってたらいい。
「ミポたん、ようせいなのか!?」
「そーだとも。キッドがいい子にすれば、出てきてくれる回数も増えるぜ」
ミポたんとはミホークのことです。ミホークをいたくお気に入ってるキッドくん。もうレアキャラのような扱いです。

クロコダイルは鰐。ドフラミンゴはドフラ。ミホークはミポ(たん)。キャラ崩れを起こしてますが、ギャグ要素を求めた結果ミホークにお鉢が。これはツイッターで仲良くなった方とお話ししてできた設定でした。
キッドの鰐って呼び方はドフラのせいです。マネっ子したいお年頃でもあるので仕方ないね。
でも、お家で2人で過ごしてるとき、キッドが親に愛情を求めたくなった時には素直に「おとーさん」つって甘えてます。いいですよね、おとうさんって響き…。
おとうさん、おとーさん。足にひっしとしがみついたり、低いところに座ってると、背中にどーんって抱き着いて来たり。父性が爆発してしまう。

中坊キッドの方がサイトでは早く浸透してしまったのですが、この3人の親父と4歳のキッドの話の方が早くできた話です。ローとの恋愛はサブタイトルのようなものでした。
このへんで、親父たち…つか、鰐?の奮闘記を終わっておこう。ざっと、こんな感じです。親父たちにとって濃い1年でした。

そして、ローとの出会いになります。お家に帰ったらお手伝いさんしかいなかったのでこの日は、普段鰐にはダメって言われるけど会社へ1人で乗り込んで行きます。一階から、鰐のいる社長室のフロアの道順は覚えていました。子供はの記憶力と行動力は意外と侮れないです。あまりにも自然にてってって…と入ってきたお子様。でも社長の息子だから…いいのよね?と受付嬢はキッドを見送りました。
エレベーター乗って、廊下進んで社長室に直行。が、いない。しょぼん…とするかと思いきや、ここにいなければ…と、社長室の並びにドフラとかが暇を潰す専務室みたいなのがありそこに入って行きます。そこでバイト中のロー、突然勝手に開いたドアにビックり中。(うまい具合に棚や資料の積み重ねでキッドくらいの大きさだと見えなかった)
そんなこんなで出会いました。キッドはもう鰐とドフラが偉くて、会社にいるのは鰐とドフラよりも偉くない奴ばっかり、と言うのは認識してるので初対面のローにも人見知りせずに鰐かドフラの居場所を聞きました。

以上、父親たちとの出会い編です。ミホークは勘弁してください…キャラを忘れてしまいました。
ミホークはどちらかと言うと、鰐、ドフラの兄貴…みたいな。感じで。
鰐とドフラは父と母役のようなもの…でしょうか。

キッドがローに好き…と思い始めるのは10歳あたりです。お初は12歳くらいってとこに。ランドセル卒業祝いに…だとロマンティックなような気がします。気がするだけです。
その10歳頃までは愛情=親だったのでちょっとでも親子関係に悩んだら不安定になって泣いたり怒ったりすればいいな。10歳で恋を知ってからは親に愛情求めるだけじゃダメだってわかって、一生懸命ローを好きになって、「ローを愛してるんだ!愛してるの!」ってローをいっぱいいっぱい愛して、ローからの愛情も欲しがればいい。
不思議と、ローには癇癪も噛みつきもしないのは自制心ではなくて満ち足りてるからだろうな。
あくまでもキッドに足りなかったのは親から与えられるもだからローには矛先が向かないんだ。この先、親父とは何度も衝突を繰り返すキッドだろうけどそれが甘えなんだろうな。


- 3 -
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -