彼が、父親になった日


キッドくんが父親であるクロコダイルを、幼少期はワニ、小坊あたりにお父さん、ワニ、中坊以降は親父呼びをする…なんてのを大まかには最初から決めています。

キッドくん。3歳終わりくらいに鰐に引き取られますが、経緯はシリーズまとめの「父親との出会い」を見て貰うとして。
けして、キッドくんの投げたおもちゃの当たりどころが悪かったとか言うのではなく。本当になんとなく、この子はここに居させたらいけない…なんて鰐らしくもないことを思って、つい引き取ると言ってしまいました。
それも、傍から見ればまるで犬猫を拾うようなそんな様子だったけれども。
暴れるキッドを肩に担いで、施設職員に強引に話をつける鰐。
キッドは「今度はこの大男にどっかに連れて行かれる!」くらいにしか理解していません。
こんな鰐です。勿論優しい言葉なんて持ち合わせていないので「おれが愛情持って育ててやる。」なんて言葉をかけてやるはずもなく。

そういう訳で、キッドくんからすれば施設で暴れたその日、大男に連れ帰られたその先で、その日共同生活が始まると言う少し考えればとても恐ろしい境遇に見舞われています。
おしっこちびってもおかしくないと思う。

でも施設から連れだされた時、逃げ出そうと試みた時。
「今逃げてもてめぇの行く場所なんてないぞ」そう言った男は、地面に突っ伏して静かに泣いているキッドを、驚くほど優しく、不器用に抱き上げてくれました。背中を撫でてくれる大きな手。さまざまな感情が溢れていっぱい泣いたキッドくん。大人なんて嫌いなのに、怖いのに。
どこかへ向かう車中。ずっと鰐の胸にくっついて抱っこされ泣き疲れてぼんやりとしながらもなぜかこの手を離さないでほしいと、そう思いました。

車が止まって、キッドは降ろされたらいやだなと思っていると男はキッドを抱えたまま車を降りて大きな歩幅でずんずん歩いて行きます。なんか大きな建物と人の気配が怖くなってぎゅっと男の胸に顔を押し付けてやり過ごす。
エレベーターに乗り、ちょっとふわっとした特有の嫌な感じがするけど我慢しているとシンとしたフロアに出ました。大きな扉が開かれて、どこに来たんだろう…キッドは不安だらけです。
「…起きてたか」
キッドが不安にしていると、抱かれていた腕から下ろされてしまいました。ふかっとしたなにか(ソファ)の上に降ろされて、キッドが反射的に不安そうな表情で男を見上げます。鰐はキッドは寝ていると思ってたのでちょっとびっくり。
「そこで大人しくしてろ」
キッドが不安そうにしているのを抱っこをやめたからだとは気づかない鰐はそのままキッドから離れて行きます。コートを脱いで、ワイシャツがキッドの涙で湿ってるのはこの際見過ごして。
鰐も、実は社長室(ホーム)戻って来てからおれ何してんだろ。って思い始めました。自分のテリトリーに子供を連れてきて初めて「マズった」と気づきます。
自分が子育てしようとしていることをだんだんと自覚してきて、今さらどうすればいいのかと思うけど、子供を見れば施設ではあんなに暴れてたのに今はソファの上でぽつんと大人しく座ってます。
くしゃくしゃに乱れた髪と、涙の痕の残る頬。泣きはらして重そうな瞼。
鰐は子供相手に何を話していいのかわからなくて考えていると、ダズがやってきます。
キッドはさっきの運転手の人だとなんとなく覚えているけど、慣れないのでびくっとしながら縮こまっています。
ダズがやってきて、鰐はこれ幸いとキッドのことはちょっと置いておいてダズと話しをし始める。
主に引き取ったキッドのことや、仕事の話をあれこれ話つつ。ダズも社長が子供引き取るとか無茶な…とは思うけど何も言いません。ひたすら、社長のバックアップに努めます。まず、鰐は気が付かないだろうから子供服買いそろえて、他にも必要なものを…そもそもどこに住居するのかも考えていらっしゃるのかどうか。考えていなさそうだ…なんて鰐と話しながらいっぱい考えるダズ。勿論、ダズも子供との交流がないので勝手がわからずにいます。考え事も多くて鰐におろそかな返事をするけど、そこは鰐も同じようにいろいろ考えながら喋ってるのでお互いにどこか浮き足立っています。
そんなこんなで時間はあっという間に流れて行きました。

気が付けばキッドは寝ていました(緊張と泣き疲れ)。ソファは大きいのに本当に身を小さくして。鰐はダズとの話が終わって、ちょっと仕事を片付けるだけのつもりがいつもの調子で仕事に没頭しキッドをすっかり忘れてしまっていました。
しまった、と思いつつキッドを抱き上げて、奥の自分が寝泊まりする部屋に連れて行きます。そう言えば飯も食わせていない…時計は20時を指そうとしているところです。
そう言えばダズが何度か部屋を往復していたな…と思えば、簡易クローゼットに子供服とかが少し入れられて、テーブルにはどこかの料亭の弁当と冷蔵庫に酒以外の子供が飲めそうな飲み物が。
ああ、そう言えば子供の服も…それ以外もいろいろ必要か。なんて漸く思い至って、ベッドに転がしたキッドを見ます。
思えば随分早まったことをした…でも、子供の寝顔見ていると和む自分もいました。

鰐がまた社長室に戻って暇つぶしの仕事(キッドを起こさないようにしていたとも言える)をしていると、「〜、〜〜!ぅ…!…ーッ」ガチャッ、ガチャ!といたずらにドアノブを捻る音と喚き声が。
鰐はキッドが寝ているはずの部屋からそんな音が聞こえるので怪訝そうにしながらドアを開けました。社長室側からだと内開きのドアが開いた瞬間、べしょっ!とキッドくんが倒れ込みながら出てきます。
この扉はキッドくんにはまだ少しドアノブが遠く漸く捻ることが出来ても、今度は重みのせいで開かないのです。
足元から、鰐を見上げるのは今まで見たことないほどの感情の入り乱れた酷い泣き顔でした。キーキー喚いていたのと、しゃくりあげて呼吸が上手くできなかったことも加えて汗びっしょりの真っ赤な顔。

「うぅ…うえっ…−…っく…ひっ…く」
「…どうした」
「うー…う゛ー…ッ!」

両手を伸ばしてわんわん泣いてるキッドを抱き上げるとぎゅうぎゅう縋り付いてきてびっくり。
キッドは知らない間に知らない場所に移されて一人にされていたのでいろんなものが爆発しました。半ばパニック状態でしたが、今度は鰐がいたのでホッとして泣いてます。
抱きついて離れないキッドに、淋しかったのか?と簡単な理由を思い浮かべる鰐。
でもまぁそう言うことにしておこう…とひたすら背中を撫でてあやしました。

泣きはらし過ぎて目も溶けたようになって、非常に痛々しい。でも落ち着いてきたので住居スペースの方の椅子に座り、一先ずキッドにごはん食べさせようと思う鰐。
弁当を前に好きに食え、と言っても反応せず鰐のシャツを握りしめてるだけ。
ため息をついて、冷えたお弁当だけど味は確かなそれらを、まずは出汁をいっぱい吸った高野豆腐を少し箸で取ってキッドの口元に。「む。」と頑なに口を閉じてたキッドも唇に押し当てられればしぶしぶ口を開けました。
美味しい…キッドはじゅわっと出てきた出汁の美味しさを素直感じることが出来ました。
とにかく好き嫌いもわからないのでいろんなものをキッドの口に入るサイズに箸で切って与える鰐。
保冷剤の乗っていた新鮮な状態の刺身もあったけど、それを食べさせようとすればそれだけはしっかりと顔を背けて拒絶を見せるキッド。
でも焼き魚は食べたし、ホタテやエビのしめ物を与えれば一つずつ全部食べたので、どうやら生魚が嫌いな様子で。
ちらし寿司はまぜ込んであったレンコンをシャクシャク言わせながら食べましたが、食事風景をみていてどうも一生懸命、早く食べようとするキッド。「ゆっくりでいい」と鰐が声を掛ければよく噛んでゆっくり食べるようになりました。

「ん…」
「もう食わねェか?」
「……ん」
「ならいい」

2人して黙々と食べさせ、食べさせらをしていましたが、キッドは最後に一口分のご飯を飲みこむと、次に差し出された大根の煮物を顔を背けてイヤイヤします。
お腹いっぱいになったようで、鰐もそれがわかったのかもう食べさせることはしませんでした。
キッドは施設に入る前の義理親の元で食事は碌なのを与えられず、施設に入ってからは出されたものを時間厳守で食べなければいけないことを強要されていたのでこの時点ではご飯の時間があまり好きではない、と言うか苦痛にも似た時間です。
それに加え、ここでは驚くほどいっぱいご飯が用意されてたのでこれ全部食べるの無理だと絶望してたキッド。
勿論食べれる量じゃないのは明らかなので食べれた分だけでいいのです。
鰐も小さい子の食べる量なんてわからないのでエビの一匹と飯の茶碗半分くらいを最低食べてくれればいいほどに思っていました。
いろいろちょっとずつ食べて、鰐の考える最低ノルマはクリアしたので褒めてもいいくらいでした。
りんごジュースの入ったコップを鰐に支えてもらいながら自分で一応ちゃんと持って飲みます。こんなにちゃんと大人の人についてもらって一緒にご飯を食べさせて貰うのは施設に入った最初の頃以来。
キッド君の記憶では、初めて有意義な食事の時間となりました。

鰐とキッドは最低限のコミュニケーションを取りつつ、お風呂も一緒に入りました。施設では決まりもあって年長の子たちが入れてくれそうだけど、それもあまりいい時間じゃなかったはずです。
不器用だけどなんとか優しく扱ってやろうとする手に洗ってもらって、お下がりでもなんでもない真新しいパジャマを着せられて。
洗面台が高いのは椅子に乗ってなんとか高さを調整して歯を磨いて、さっき自分が寝てたベッドに、今度は2人で。
眠くはないと思うのに、お風呂で温まった体に泣きすぎて慢性的に重い瞼と鼻詰まり。それからくるぼーっとした感じ。

「んー…っ」
「寝ろ。どこにも行きやしねぇ」

鰐が居なくなるかと思って、でも言葉に出来ないのでぐずるけど、鰐はキッドを宥めて自分も横になります。
頭を撫でる手が、おでこも目元も覆ってしまうけど心地よかったし、蛍光灯が消されても間接照明のほのかな明かりが優しげに灯っていて怖くありません。キッドはいつの間にか穏やかな気持ちで寝入っていました。

と、かなりここまで長いですが。出会いの1日でした。この時点では鰐は施設職員が呼んでいたので赤毛の子がキッドって名前であることを知っている程度です。
そしてキッドくんは鰐の名前すら知りません。だってお互いに自己紹介などしていないのだから。運転手の人(ダズ)は鰐を見ては「社長」と言うし。シャチョーって名前ではないだろうな…とは、薄々思っているキッドくん。

翌朝になって、ハッ!として起きるキッド。昨日のことは…と、考える前に自分がくっついていたものを見れば嘘でも夢でもなかったことがわかります。
ずっと怖い顔してた男の人。寝ててもやっぱりちょっとだけ怖い顔だけど、幾分和らいだ寝顔。
どうしようか、とキッドが考えていると鰐が目を覚ましキッドは慌てて目を閉じて寝たふりをします。

「…なにを寝たふりしてやがる。目ェ覚めてるなら起きろ」

寝乱れた髪をかきあげながら鰐がベッドから出るのでキッドも慌てて習おうとします。そしてまた一緒に顔洗って歯磨きして。
鰐は朝ごはんコーヒーとかで済ませそうだけど子供は…と考えている間にダズが朝ごはん持ってきてくれる。
キッドは鰐の足に隠れて(隠れきれてはない)ダズを見ないようにする。ダズもキッドが鰐以外を嫌うのをわかっているのでささっと要件を済ませます。
主に朝刊を鰐に渡してついでにコーヒーを用意していく。昨夜の食べ残しなどを片付ける。
この時点で考えるよりも結構ゆっくりな朝です。8時とかでしょうか。
普段ならダズは9時に出社して社長に朝刊とコーヒーを用意しますが、心配だったので早めに来ました。
社長の朝食はともかくお子様は。サンドイッチとフルーツヨーグルト…と言うより、フルーツにヨーグルトが掛けられているもの(明らかにフルーツが多い)。フルーツだけでもお腹いっぱいになりそうな量ですが、まぁ好きな方を好きなだけ食べてと言う感じで用意してみました。
ダズが気を利かせて早く退室し、ご飯の時間です。鰐も朝刊読みたいけどまずはキッドに食べさせなければ。
食べたいのを取って食えって言ってみたけど、またキッドが手を出さないなら食べさせるつもりでした。でも、今朝は自分でフォークを取ります。フルーツの方がいいみたいでした。
鰐は小さ目のサンドイッチをつまみつつコーヒーを。因みに社長も自分でコーヒー淹れられます。というかメーカーがあるので難しいことではないけど、鰐が自分で用意していない時にはダズが気を利かせます。
キッドはごろごろとした一口大のくだものを頬張ります。食べてることにほっとしながら、キッドの挙動を見ていると。なんだかすごくたどたどしい。フォークの使い方もまだおぼつかない年齢だろうか…と思うが、まず握り方が酷く不器用だとか、フォークを握らない逆の手が慌てたりと様子をみせるキッド。

「…おい」
「ッ」びくっとしながら鰐を見ます。

「…そんなに難しいか?」
「う…ごめん……なさい」
「……食いやすいように食ってみろ」
「…?」
「持ちやすい手で持って食え」
「…!」

本当は利き手が左のキッド。施設で右手に矯正を強いられたのでどうもぎこちないです。鰐にフォークを取られ、左手に持ち替えさせられます。キッドは鰐の顔色をうかがいながら、まだ少したどたどしいながらも右手よりは上手にフォークを扱い食べはじめました。

「うまいか」
「うん」
「食えるだけでいい。食えよ」
「うん」

行儀は悪いかもですがローテーブルに向かい膝立ちして食べてるキッドくん。仕方ないです、行儀よく座って食べたら座高が届かないのだから。
そんなこんなでキッドは落ち着いた朝をすごしました。

こんな日が数日続きます。最低限の会話をして、一緒にお風呂入って、寝起きして。日中は幼児向けのTVなどを見てただ長い日を過ごすキッド。

そして、ドフラがやってくるわけです。その時キッドは癇癪を起して泣き喚きぐずっているのでドフラは目に入らないけど、落ち着いた頃に漸く、人がいたのに気付いて人見知り(人嫌い)をします。
ドフラが居なくなるまで鰐の首に顔を埋めてじっとしてやり過ごします。
それから度々鰐とキッドのところに訪れるピンクの男。キッドは逃げるか鰐に引っ付いて離れないかをしますがドフラは気軽に声を掛けるのではないでしょうか。
キッドが返事をしようとしまいと話しかけ、一人で喋っては笑って。

そして、たまたま鰐が不在で、キッドがビクビクしながら一人で留守番をしているときに無遠慮に仮住まいにしている社長室の奥にドフラがやってきました。

「おい鰐」

がちゃ!と乱暴に開く扉と男の声にキッドはびっくりしますが最近ではドフラを見慣れてきたこともあり、特に害はなさそうなので逃げたりはしませんでした。ただ、本当にびっくりして固まったまま茫然とドフラを見上げます。

「おう。一人か」
「……」
「鰐はどこ行った?」
「…わ…?」
「クロコダイルだ。お前の親父のことだろ?」
「……(あせあせ)、う…んん(いろんな意味を交えて知らないと首を振り)」
「どこ行ったかわかんねェか」
「(コクコク)」

居ないのか、どこ行きやがった、と悪態をつきながら鰐をここで待つつもりかドサッ!とわざわざキッドの隣に腰を下ろすドフラ。
キッドはもう不安でドキドキして居心地悪そうにしながら、ドフラの横顔をチラッと見上げます。

「なんだぁ?」
「っ……、わ、に…?(ちょっと首を傾げつつ)」
「おう、鰐捜してんだ」
「クロ…(難しい顔をしつつ)」
「おめぇ、親父の名前も憶えてないのかァ?」
「おやじ…?」
「父ちゃん…んん?」

ドフラはたどたどしいキッドの言葉とも普通に会話を重ねながら、どうもおかしいことに気が付きます。キッドは鰐を父親とは理解していないし、その前に鰐の名前すら認識していないのではないか?。

「……なるほどな。フッフッフッ…知らねェ男と暮らすのも難儀だったろ」
「!!……?(笑い出したドフラに狼狽え、言葉の意味も難しくて理解できない)」
「おう、キッドだったな」
「…う、ん」
「お前がいつも一緒にいる男がクロコダイルだ」
「…う…わに…?」
「フッフッ…おれはそうとも呼んじゃあいるがな」
「わに…」
「お前の親父だ」
「おやじ…おとーさん?」
「おう。そうだ」
「……」

キッドくんには雷に打たれるほどの衝撃でした。知らないおじさんがお父さんだったなんて。
まだまだあとからゆっくり時間をかけて、血のつながりはないけど父親なんだよってことを鰐からもドフラからも話を聞かされて行くのでしょうけれど。
そうやってちゃんと家族になるのではないでしょうか。
ただ、今はちょっと顔の怖いおじさんの名前を知れたことと、あのおじさんがお父さんなんだってことが分かっただけでキッドは満足です。
いつも見上げたり、服を引っ張ったりすれば自分に気づいて返事をしたり腰をかがめてくれるおじさん。彼は、

おとうさんだった。なまえは「わに」だって。ぴんくのおじさんは、ドフラミンゴ。でもドフィってよんでもいいっていってた。

暫くして鰐が帰ってきて、ドフラが要件を済ませて帰ったあと。小さな歩み寄りがあります。

「わ…」
「?」
「…わに…?」
「……」

鰐よりずっと低いところから声が掛かりました。キッドが鰐を呼ぶ時と言えば泣きじゃくった聞き取れない喚きくらいで。
何か用があるときは鰐が気づくまでじっと鰐の方を見つめてくるだけ、それでも気づかない時は服を引っ張ってくるだけ。
そんなキッドが、遠慮がちに呼んできます。まぁ正直呼び名は不本意だけど。きっとドフラが教えたのだろうと思いながら。

「なんだ」
「…」
「…どうした?」

しゃがんでキッドと視線を合わせて返事をする鰐に、キッドは嬉しくなって初めて見せる笑顔で鰐にぎゅっと抱きつきました。鰐の銜えていた(火は着けていなかった)葉巻がぽろっと落ちる。
鰐はキッドの笑顔をみて呆けてしまいました。人間笑うことは当たり前だけど、この子供がこんな笑顔を見せたのが本当に信じられなかったのです。
キッドはただ呼んでみただけの名前でしたが、それでも呼ばれた鰐はとても嬉しいと思えました。

後日、この頃の鰐には珍しくドフラに注意をされると思います。引き取ったという癖に立場も教えないとはよろしくない、そんな至極まともなことを言われて鰐も大人しく小言を聞くのではないでしょうか。
鰐だって、いっぱいいっぱいだったとはいえ至らなかったのは事実だし。
キッドの癇癪だってまだあるけど、大分ちゃんとした疎通ができるようになりました。やっぱり呼ぶ名前があるというのは大きいです。
「わに、わに」呼びながら足元から見上げてくる、我が子にしようって決めたこの子に愛情が湧かないわけがなく。
これから仲が深まる事に、里親を試す時期や、子供特有のウザったさなどが始まる時期に入って行きますがそれも家族であるからこそ。
それにつれ、鰐も至極まともなことでドフラに小言をもらう頻度も上がっていくのではないでしょうか。
男親って、至らないところも多いですしね。


ローと出会った時に、鰐を「ワニ、オヤジ」と呼んでいたのはこれが要因です。ドフラが教えた言葉だからね、オヤジって。
そして、よくある里親を試す様に、何処まで生意気なことをしても許されるかを無意識に計ろうとするキッドくんがヤンチャっ子の様にオヤジ、オヤジと生意気な口をきいて、その度に鰐に「テメェ…」とすごまれるのをきゃっきゃっと笑って躱して、小学生になって落ち着いてくるとワニはワニでも、鰐と2人の時にはお父さんって呼んだりして甘えるのではないでしょうか。
ちゃんと父親だと認識してるし、甘ったれになりたい日だってあるだろうし。

中学になるとほぼ親父呼びに固定になります。年頃ってやつです。そしてもうワニって呼んだりしない。
友達感覚…とはまた違いますが、幼少期のキッドなりに素直にお父さんって言えない部分もあったのかもしれません。
高校になると尊敬、敬意、親子愛をもって親父と呼びます。偉大なる父。昔みたいに甘えたりはしないけど、真っ向からぶつかって親子喧嘩して血の繋がり以上のもので繋がっていればいい。

しかし、そうね…学校参観とか先生との面談の時とか「父さん」とか言う呼び方をしたりするのだろうかって考えた時になんだかわからないトキメキが。鰐もだろうな…。
キッドもキッドで学校での顔と、家族にだけ見せる顔があって鰐の前では気が緩むし先生や友人達にはそんな顔見せたくないけど学校での顔も鰐に観られたくないわけで…「あー!も〜〜〜ッ」と一人でわたわたしてるキッドを想像するのもまた可愛い。

キッドは家と外(友人たち)に見せる顔は結構違うと良いなと思います。
なんてったってさ、鰐と言う偉大な父と、ローって言う男としての理想の恋人を持つキッドだ。
だからちょっとだけ友人たちやクラスメイト(学校生活)の前では慕われ兄貴的なさ男になっちゃったりして。
キッドは親父たちや、会社の人とかから可愛がられる存在なわけだけど、その反面、キッドも後輩とか可愛がりたいんだろうって思うんだ。
そんなキッドを親父たちが知ったら、それこそキッドは生暖かい笑みを向けられてしまうね。「あー、お前も下の奴を可愛がるようになったのか…フッフッ。」
ちょっとだけ居たたまれないと思うキッドくん。

キッドの思春期には、親の干渉がエロ方面よりも一番つらいかもしれませんね、男の友情物語ってやつが。
むず痒くってしょうがないっていうか。
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