リップケア 2

そんな季節です。親父を送り出して、ローにメールを打ちました。学校が早かったことと鰐と少し顔を合わせたことを簡潔に書いて。

「仕事切り上げてきたのか?」
「もともと今日の分は午前中には片付いてたんだ。時間の開くもんばかりだったんで半日は雑用だ…ただ、来週からちっと忙しくなるが」
ローにメールを打ったらすぐに電話で帰ってきました。それからすぐに夕食含めたデートをすることに。ローは丁度仕事の切れ間で暇をしてました。
キッドが着替えて鼻歌を歌っている間にローは迎えに来ます。「おかえりキッド」「ローお疲れ様」なんて軽く抱き合って、車までの短い距離でもお手々を繋いで行きます。
「何食べたい?」
「前行った店のさ、チョコのすげー果物いっぱい乗ったケーキ食いたい」
「夕飯だぞ…?まぁ、じゃあその店に行くか」
なんて、夕暮れの街に繰り出す2人です。あたりは燈り始めたイルミネーションでキラキラ。
おしゃれなレストランで食事して、デザートもぺろっと食べました。
「寄りたいところは?あんま遅くまで連れてるとお前のとこの親父がうるさいからほどほどにして帰るぞ」
「んー、あ。リップ買うんだ」
「リップ?使い終わったのか?」
「んーん。親父にやった」
「…は?」
「親父、唇がっさがっさだったんだよ。なんか可哀想だったから」
「……はぁ、そう」
鰐がリップクリーム?ローは想像してみますが、リップスティックははっきり思い浮かぶのに、それを握る手と鰐らしき姿の輪郭は作れても顔にはもやがかかりどうしてもこれが想像の限界値のようです。
社長がリップケア…合わない、というよりもうそんなことあり得ないという気持ちです。
ローはあまり仕事でも悩ませたことのない頭をそんなことで悩ませながらキッドと共に薬局へ。季節柄、コーナーが設けられ多種多様の商品がずらっとならんでいます。
「…すごいな」
「どれにしようかな…いっつも悩むんだよなァ」
「これは?」
「ヤだよ。それすっごいテカテカするんだぞ。天ぷら食ったみたいになる」
「ああ、そういうやつか…お前、イチゴ好きだろ?イチゴのはどうなんだ」
「えー、家とかローといる時だけならいいけど学校でおれイチゴの匂いさせてんのとか嫌だ」
「あー…それもそうだな」
「この辺かなー…」
「……」
キッドが無難なものを選んでいる横で、ローも真剣に吟味します。ふんふん、なるほど…。
「ロー?」
「ああ。決まったか?貸せ買ってきてやる」
ローは少し楽しそうにしながら、キッドの選んだものを持ってレジへ向かいました。

「んっ、ふ…」
車中。ローは人気のない街燈もないような場所に車を停車させて、車のスモールも消し暗い道のくらい車中でキッドにキスをしました。
突然のことに驚くキッドは、嫌にしつこいキスに苦しそうにあえぎます。
「っは…けふっ、けふっ…ロー…?」
くってりと蕩けてしまったキッドくん。苦しさと気持ちよさに目も潤みきっています。
「悪い悪い…苦しかったか?」
キッドの横髪をかき上げてやりながらローは口先だけで謝ります。ぱっ、と点されるルームランプに一瞬目がくらむキッド。目をチカチカさせながらローを見ると薬局の袋をがさがささせています。
「…?」
「しー。そのままな」
なに、と口を開こうとするキッドに口を閉じたままでいるように言うと手に取った小さな容器を開けて中身を指で掬い取り、キッドの唇にそっと滑らせました。
「…フフ。甘酸っぱい匂いがするな」
「マスカット?」
「そうだ。悪くない匂いだな」
ちゅむ、と再び重なる唇。
「…味はいまいちだけどな」
「当たり前だろ…へへ、ばぁか」
ぎゅっと、キッドが首に抱き着くのと同じく、ルームランプはふつりと消える。再び暗くなった車中では、しばらく甘ったるさが充満したままだろう。

「これは、おれとキスしたあと用な」
「ローが持ってんの?」
「そ。おれもたまには使おうか…可愛い恋人が匂いに誘われてくるかもしれねェからな」


*お約束、社会人ローさんと中坊キッドくんでした。
ありがちですけどね。

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