種は地に落ち芽吹きを待つ

鰐の会社はとにかくでっかいってことにしています、会社ですから縦、横の繋がり等もあるんだろうってことで、なにかしらのパーリー的ななにかもあるのではなかろうか、と。
鰐は別に息子(キッド)を跡継ぎに考えてるわけではないので跡継ぎのお披露目や紹介とかはしないんですけど、せっかくのパーリーだしとキッドを連れて行ったりとかもするのではないでしょうか。
とはいっても、あまり進んでパーリーとか出席しそうではない鰐。でも、キッドが小学生になったくらいで鰐の会社が創業20周年とかになってあちこち義理立てのためにもパリー開くことになってな。この時ローは大学生で、徐々に鰐の会社の手伝いの幅を広げ(研修のような)る頃。
鰐はキッドをどうするかって渋い顔するけど、ドフラミンゴが「連れてきゃいいだろ。おれたちの息子だ」ってキッドの頭を撫でまわしながら。
まぁ、そうだよな…ってキッドも連れて行くことに。でも1人で平気だろうか?「ローを連れて行けばいい。後学のためにもよォ」と、ドフラミンゴはニヤつきます。

「おれの甥で、大学を卒業後にゃウチの会社で即専務って肩書きだ…どこぞのご令嬢様と出会うチャンスだぜ?」
「ご令嬢ね…だがキッドのお守役で行くんだろう?チャンスがあるとは思えねぇがな」
「フッフッフッ…テメェにその気があるんなら、いつでもキッドを預けに来な。今回呼ぶ爺ィどもには顔が利く…話は取り持ってやるさ」
「フフ…まぁ、気に入ればの話だ」
「ご令嬢様に気に入られる場合もあるぜェ?」
「それも、おれが気にいればの話だ」
ドフラとローの会話です。パーリーではキッドを頼むぜ…の話から、こちらに話が流れました。見目よし、頭よし、将来有望、会社での立場も申し分のないローです。
いわば選り取り見取り…ローにはまだその気はないですが、運命の出会いもあるかもしれません。

そんなこんなで、パーティー当日夕暮れ時。キッドくんもおめかしして臨みます。
一丁前に誂えて貰ったフォーマルスーツのセット。それに身を包みながら、普段ちゃらちゃらした格好とは違い、ラフに着崩してはいるもののスーツを着こなしたドフラと手を繋いでローを待ちます。と、かったるそうにやってきたロー。
青基調のストライプのシャツにベスト、ベストに合わせた少し光沢の入った黒のスラックスを着てローは困り顔です。
「いいのか、こんなラフな格好で」
「似合ってるぜ?ただの創業パーティーだ構いやしねーよ。お前はただのお呼ばれだ、気楽にしときゃいいのさ…なァ、キッド」
「…」
「おーい…キッドくーん?」
「ッ、わっ…!」
ローの衣装は鰐とドフラが用意してくれました。自分たちのスーツとキッドのを新調するのに合わせ、キッドのお守を頼むローの物もついでに。
会社に入ればそれなりの格好を求められるけど、今はただの御客のローだしまだ二十歳そこそこなので親心として遊ばせた格好させてやりました。
と、そんなローを見上げたままぽかんと固まってしまったキッドくんです。ドフラが目の前で手をひらひらさせてみるとハッとしてドフラの足に抱き着き、顔を埋めてしまいました。
「どうしたってんだ?」
「…?」
「……っ」
首を傾げるドフラとロー、そしてチラッとローを見てはさっと顔をそむけるキッドくん。
「なんだなんだ。照れてやがんのかキッド?」
「〜〜〜っ」
「照れる…?」
そう、数回高校の制服姿を見た以外は普段着のローしか知らないキッドくんはローの割とフォーマルにキメている様を見たのは初めてでした。
今日は髪の毛もワックスで整えているローです。割増な気がします…「何が」とは今の時点ではキッドくんは言い表せないですが、今日のローはちょっと違う。なんか照れてしまいます。
「まぁいい、ロー。自由にしてかまわねェがキッドから目ェ放すなよ。鰐野郎がうるせぇからな」
「ああ…キッド」
おいで、とキッドに向かい両手を広るローを見上げ、そろそろと手を伸ばしローの手を握る。
ドフラはキッドの背を軽く押してローに預けるとまばらに人が集まりつつあるホールへ。
「退屈だと思うが暫く我慢しようぜ。疲れたりトイレとか行きたかったらすぐ言え」
「うん」
「…今日は一段とカッコイイな。似合ってるぞ」
キッドの頭を撫で、子供心にも嬉しがりそうな言葉をかけるローに、照れと気恥ずかしさにほっぺたを赤くするキッド。
『子供でも褒められると照れるのか』となんとなく感心しつつ。
パーティーは始まり、プログラム的挨拶が済んで各々が個人的挨拶をして回る中。
「ロー」
「ん?」
「のどかわいた」
「そうだな…オレンジジュースでいいか?」
「うん」
ローはボーイに飲み物を頼み、適当な皿に料理をとりわけキッドを連れて壁際へ。
「腹も減っただろ。自分で食えるか?難しいなら食べさせてやるよ」
立食なので、皿を持って上手に食べれるかを聞くが自信がなさそうにするキッド。グラスをしっかり持ってるように言い聞かせながらローが食べさせてやることに。「あーん」「あー、ん」フォークで食べさせてやりながら、雛鳥みたいだと思うロー。一生懸命もぐもぐ動くほっぺを見届る。
「おいしいっ」
「そうか?」
「うん!」
「…うん。確かにうまいな」
2人で暫く料理をつつき、キッドがケーキを食べたいというのでそれを叶えてやっていると。
「フッフ…!壁の花にゃもったいねーぞ、お前ら」
「ドフラッ」
「よう、キッド。料理くったかァ?美味いのがあったぜ」
ドフラがやってきて、周りを気にすることなくしゃがむとキッドの頭を撫でる。
「何だロー。お前飲んでねェのか?今日振る舞ってるワインもシャンパンも飲まねぇと勿体ねぇぞ?」
「一応子守りってことだからな」
「固ェこと考えるんじゃねーよ。1杯ずつ飲んだって酔いやしねェだろうに…おい、シャンパンとワイン持ってこい」
ボーイを顎で使うドフラの後ろに控える中年とローと変わらないような歳の女にローは気づくが自分から聞くことはなくドフラとの言葉を交わす。
「ああ、△△んとこの社長と、令嬢だ。話したら歳がお前とかわんねぇっつーから連れてきたぜ。これがさっき話してた甥だ。ロー」
「…トラファルガー・ローです」
やっぱり、とローはドフラにしか見えないところで顔を顰め、余計なことしやがってと視線を送った。相変わらずニヤニヤと笑うドフラから視線を外し、当たり障りのない挨拶を交わす。ボーイがワインとシャンパンを持ってきてドフラは軽く顎をしゃくるとローへ暗に指示をする。
ローは気が進まないものの、自分で遊び、自分を試しているドフラにも負けたくないのでドフラが望むとおりにします。
「…どちらが?」
「あ、えと…シャンパンを」
「どうぞ」
「ありがとうございます…」
令嬢にシャンパンを取って渡し、ローはワインを取る。
「…」
話をする4人の大人の輪の中に入れずキッドはドフラの足にくっつきながらローと令嬢に視線を行ったり来たり。知らず知らずにほっぺを膨らまし口を尖らせました。
「あら…、あの。こちらの子は?」
「鰐…、クロコダイル社長の息子です。キッド…挨拶できるか?」
「…こ、んにちは…」
尻すぼみな挨拶をし、顔をうつむかせるキッドの頭にローの手が乗り、褒めるように撫でる。
「社長は息子をこういうのに呼ばないんだ。今日が初めてで…な、キッド」
「…う、ん」
「まぁ、そうなんですか。私は――…」
と、令嬢の話をローは作った表情で無難に聞き流し、適当に相槌を打ちながら、そろそろどうにかしろとドフラに念を送り続ける。
しかし面白がるドフラは知らん顔をしどこぞの社長と会話中です。
「それで、トラファルガーさんは…」
「〜っ、ロー…っ!」
令嬢の話を割るようにキッドが声を上げ、ローの腰に抱き着きました。
「うん?どうしたキッド」
ローは少し驚きながらキッドを受け止めて首をかしげる。
「トイレいきたいッ」
「…ああ、わかった。行こう」
ドフラに飲みかけのワインを押し付け、相手方に軽く頭を下げるとキッドを抱き上げてホールの外へ。キッドはぎゅっとローの首回りにしがみ付き、首や肩に隠れながら遠ざかっていく令嬢をじっと睨みつけました。

「1人で出来るか?」
「ん」
「じゃあ行っておいで。ここで待ってる」
キッドを下ろし、トイレ前で待つロー。1人になるとあからさまな大きなため息をついて胸ポケットを触り、視線を動かします。
「ロー」
「おかえり。すっきりしたか?」
「うん」
「戻るか?」
「んー…」
キッドが戻ってくると見下ろして、着崩れた服を直してやりながら聞いてみると渋った返事が返ってきます。それに少しだけ笑みを返しながら、手を差し出します。
「少し付き合ってくれ…立ちっぱなしで疲れただろ?」
キッドの手を引いて、ホール外の広間に据えてある椅子に腰かける。キッドを隣りに座らせ、ローはテーブルに置かれた灰皿を引き寄せると足を組んだ。周りにもチラホラと会場ホールから出て休憩をとっている人が見える。
「煙たいか?」
「んーん。へいき」
ローは煙草をくわえると一口を深く吸い込み天井に向けて吐き出す。その姿を、キッドはぽかんとしながら見ていた。
「ん?どうした…」
「ローもたばこ?」
「ああ…もう堂々と吸える年になったからな」
「ローなん才?」
「んー、…そう言えばキッドはいくつになった?」
「おれ、7才」
「そっか…おれはキッドよりも14つ年上だぞ」
「んー、と…?」「足し算してみ?まず、4と7足したらいくつになる?」
「んっ、と…んっと、11!」
「そう、それに10を足したら?」
「えっと、21っ」
「正解。おれは21歳だ」
「たばこ?」
「酒と煙草は20歳になってからな。だからおれは酒も煙草も呑んでいいんだ」
「ふーん」
「ふーんって、なんだよ」
「んー。へへッ、ロー、たばこカッコイイなっ」
「…フフッ…、そーでもねェよ」
ローは思わず声に出して面白そうに笑い、キッドの頭をわしゃわしゃと撫でる。キッドは初めてローの屈託のない笑顔をみてなんだかドキドキ。なんでこんな顔をして笑ったんだろうか。『かっこいい』と言ったから笑ってくれたのだろうかと一生懸命考えます。
「ロー、かっこいいっ」
「ふふ…おだてたってなんもあげるものなんかねェぞ?」
「なんもいらないもんっ」
「ふうん、そうか?」
ソファに座り、じゃれ合いながら暫し時間を潰し、ローが煙草を1本吸い終えるとそろそろ行こうかと立ち上がる。
「まだー?」
「そうだな…飽きちまうよな。とりあえず中に戻って鰐のところに行こうぜ。どうしても疲れたなら抱っこしてやろうか?眠そうな目ェしてる」
「…だっこ」
ローの腰に抱き着くキッドをひょいと抱き上げ、ローはホールへ戻る。

「クロコダイル」
「…おう。どうした、寝ちまったか?」
「いいや、まだ起きてる…が寝ちまいそうなのは確かだな」
「ワニ」
「お前には詰まらねぇしな…なんか食ったか」
「少し摘んだ程度だ。キッドは後で腹が減るかもな」
「部屋は取ってるからお前らもう引き上げな。テメェはキッドが寝ちまった後また出て来ても構わねぇぞ…上のバーもやってる」
「いや。キッドを1人にするわけにいかないだろ…頼みを訊いてくれるんなら、ワインとシャンパン1本ずつ部屋に届けてくれ」
「飲んでねェのか」
「美味い酒なら相手を選んで飲みたいんでね」
「ハッ。一丁前に言いやがって…わかった、それも持っていかせる。あとはルームサービスに頼め」
「好きにしていいのか?」
「ああ。…キッド、今日はここに泊まりだ。ローの言うこと聞け」
「うん」
「先におやすみ言っとけよ」
「ワニぃ、おやすみ」
「…ああ。おやすみ」
頭を撫でられふにゃ、と笑うキッドに柔らかい表情を向け、ホール外まで鰐は見送りました。
ボーイに案内され、そこそこのランクではあるが2人には十分すぎる部屋に案内される。
キッドをソファに下ろす。すでに運び込まれている荷物がベッドの片隅に、ワインとシャンパンがテーブルに冷やした状態で置かれていて、暫くするとつまみと軽い食事が運ばれてきた。
自分で頼まないまでも、鰐の用意したもので事足りそうだったのでローは他に用入りを訪ねるボーイに断りをいれ、やっと腰を落ち着けた。
「これ、お前の鞄だよな?」
「うんっ」
「まだ起きてる間に風呂に入るか。それとももう眠たいか?」
「おフロはいる」
「1人で平気か?」
「ウチとちがったらわかんない」
「ま、そうだよな…一緒に入るか」
ソファの上に立たせキッドの着込んだ服を脱がせると自分もその場で上に着ているものを全部脱ぎ、皺にならないようにソファの背やハンガーに掛けそれから風呂へ2人して連れ立った。
「おなかすいた」
「シャワー浴びたら眠気も飛んじまったな。食べ物はあるから、それを食べよう。今日は夜更かししていいぜ?起きてられるだけ起きててみな」
「いいのっ?」
「ああ。今日は特別…明日は学校休みだし、せっかくのホテルに泊まりだ…つまらないパーティーなんかに出たんだから、少しくらい泊まりを楽しんでも構わないさ」
風呂から上がり、キッドを着替えさせローも寝間着ではないがキッドが見慣れている普段の服に着替えた。
「ローだ」
「はぁ?」
「いつものロー」
「今日はいつものおれじゃなかったか?」
「ちがった」
「っはは…!そうか」
難しい顔をして頷くキッドに可笑しくなり、ローはおどけた様に笑う。キッドを抱き上げてソファに座らせると目の前の料理を皿に盛ってやる
「はい、好きに食えよ。食べれそうなのがなければ別なのを頼むから」
ローもつまみを手づかみで食べながら手はじめにシャンパンを開け、グラスに並々と注いでグラスの持ち方も気取ることなく飲んでいく。
さっきとは違い、自然にしているローをみてキッドはどことなくホッとした。

「キッド…?」
暫く他愛ない話をしていたがキッドがくてんとローに凭れかかる。ローはグラスに残ったワインを煽り、キッドをそっと抱き上げるとベッドへと運びます。
2つあるベッドの1つにキッドを下ろしたが下ろそうとするとキッドの手がローの服をぎゅっと掴みました。
「…仕方ねぇ…」飲み足らないが、ローはキッドを抱えてベッドに横になると照明を落とします。どっかの令嬢の相手より、子供(キッド)の子守りをした方が何倍もマシだと思いながら、ゆっくりと往復する寝息と、ひっついたところからジンワリと広がるぬくもりに誘われるままそっと目を閉じました。





子守りローさんでした。キッド初めてのヤキモチですが、無自覚…と言うかそのもやもやの意味を分かっていません。ただ、ローとお喋りする女の人はなんか嫌だったし、って言うか自分の頭の上でお喋り楽しむ大人にぷんぷんしてるといいです。ドフラもローもおれとお喋りしてたのに!と。

まだ大学生のローなので、叔父たちは青春謳歌しろとばかりに余計な気まわしばかりしてきます。鰐の会社に大きな影響の出そうな会社の娘をそうそう引っ掛けてポイされるのは考え物だけど、その辺の切り捨てても構わないようなところの令嬢あたりならローが遊んでポイしても構わない。それが許されるローでもあります。
ドフラはドフラでローをいろんな意味で可愛がりたいので面倒くさそうな女を押し付けてローがそれをどう捌くのか、それをみて楽しんだりと…意地悪な叔父さんです。でも愛はあります。
ローは、それこそもう早い歳でいろいろ済ませているので今更遊び相手はいらないです。きっともう中学とかの頃にはドフラに子供がいけないようなところに連れて行かれてるので酸いも甘いも、冗談も、可愛げないくらいに知ってる。
ドフラは良い歳しても品行方正全然落ち着かない、むしろわざと堕落してるので、おれは絶対あんな風にはならない。と嫌に真面目振るところがあります。あと、ちょっとだけ鰐を尊敬してるので、鰐のいいところ(ローの目で見て)を取り入れたい。(俗にいうドフラを傍で見てると鰐に憧れてしまう現象)
そもそもご令嬢あたりは面倒くさいしタイプではないロー。

と、まぁ…芽吹く前の出来事でした。
こっちのが先に出来てたので、…と言うかこれが元で芽が出てが出来たので内容はそのままです。起きるイベントが違うだけで。
ただ結果として、学生ローの場合、社会人ローの場合の話が出来たのでよかったな…とポジティブになってみた。ややこしいのだけどもね。

煙草のくだりと、鰐にワインとシャンパンを要求するローをどうしても書いておきたかったのです。堂々と大人の嗜好品を楽しむローだけど、それをキッドにかっこいいと言われて、嬉しく、照れてはにかんでしまうまだ大人になりきれてないローってのを出しときたかった。

これが中学生のキッドに「ローが煙草吸ってるのみるの、好き…かっこいい」って言われると「煙草吸ってるとこ限定か?」ってもう余裕あるローになってるので口元にちょっと笑みを乗せてキッドの頬を撫でるくらいになります。
キッドくんもすくすくと成長するけど、ローの成長も見守りたい。


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