芽が出てつぼみが膨らむとき

キッドとローが知り合った時にはローは学生で、キッドの相手をするのには良かったけど、ローが会社に入ってしまったらキッドの相手はそんなにできなくなります。
ローはきっと真面目だから会社にいるときは仕事をしてるから、とキッドを見かけても挨拶をする程度。学生でバイトをしている時は、仕事量もそんなにないし、キッドの子守りも一緒にって感じだったので隣に座らせて絵描きとかお話とかに付き合ってたけど社員、しかも一応専務(見習い)って立場になったのでそうもいきません。それにキッドにも分別を付けて貰わないと困ります。
ローも最初は心苦しく思うけどキッドにはそれほど構いません。
と、なってくると余計に膨らむ思いがあります。優しいだけじゃないローを知って、仕事をしっかりするローを知ります。スーツ姿のローだって。飄々としてるけどやっぱり仕事で頭を悩ませたりすることもあって、それでも仕事を楽しんでるロー。
構われなくなって、邪険にされて最初はむぅっとなったし、しょんぼりもしたキッドだけどだからこそローが気になるのでローのことをいろいろ改めて見てみたら、顔がぽっと熱くなりました。
鰐やドフラに諭されるまでもなく、ローは仕事頑張ってるから自分には構えないことをちゃんと自分で理解してローに邪魔はしないようにしようって決めます。
ローはたまにキッドの家に偶に来りますが、その時はちゃんとキッドに構うしローの方からいっぱいコミュニケーションをとってくれる。ローにはそんなつもりはないかもしれないけど、される方にとってはとても嬉しくて、ぐっときます。
好きになってしまいます。こんなローを誰にも取られたくないな、と思います。

キッドもいろいろいっぱい考えて、でもやっぱりローに構ってもらうのは楽しくて嬉しくて、気まぐれにぎゅーっとしたら、ちゃんとぎゅって返してくれる腕から離れたくなくなります。「ロー大スキ」「…ああ、おれもだ」一瞬面喰いながらローは笑ってキッドの頭を撫でてくれる。でもキッドはきっとローはケーキとかおかしをスキって言ったのとおんなじようなスキだって思ってるだろうな、と気が付いています。そして、おれもだとは言ってくれたけどローの読んでる本と、おれとどっちの方がスキなのか、ローにはスキな人いないのかな、とか切ない気持ちになります。
キッドも、会社のパーティーなんかに連れてってもらうかもしれないですよね。その時に会社の人間として出席するローが大人の顔で他の大人たちと話して、会社関係の連れの人、令嬢や、他の会社の女の人と話すローに、キッドのちっさい胸がぎゅうぎゅう軋むのではないでしょうか。

「おい、ロー」
「社長。何か?」
「キッドの奴見てねェか」
「…いないのか?おれは見てないが…いつから?探しに…」
「ああ。そうか…わからねェ。その辺にいろとは言ってたんだが見渡しても姿がなくてな…いや、いい。下の奴らに探させる。邪魔したな」
鰐が視線をやった先、ローが話をしていたどこぞの社長とそのご令嬢。鰐は会社のパイプつなぎになればいいと思う傍ら、ローも良い歳だしも気に入った女が出来ればそれで構わないと思っている。それについて鰐やドフラが噛んでやるのも安い用だ。なのでその機会を潰すような無粋な真似はしない。
「いや…あんたの息子の行方が知れない方が事だろ。探すよ」
と、鰐の親心ではあるが。ローは正直会社の顔立てのために声を掛けられる度ににこやかに挨拶を心掛けていたが、この社長親娘にかれこれ15分以上掴まっていてうんざりしていた。気にもならない令嬢の趣味や学歴を聞かされ、どう話を切り上げようかと考えていた時に鰐が来た。
それに、確かにこのくだらない話よりずっとキッドの方が大事である。大企業の社長息子だ。
ローは丁寧に相手方に挨拶をし、さっそくキッドを探し始める。声を掛けられても断る口実があるので楽だ。
会場のホールから出て、まばらに休憩や談笑をしている人を見て回る。トイレから子供か好奇心から行ってしまいそうなところを周り、この階にいないと判断すると、下の階への階段へ。

「…退屈だったか?」
観葉植物の置かれた、壁のくぼみの奥に置かれたソファーに座っているキッドを見つけた。
「!…ロー…」
「ま、それにしても黙っていなくなるのは感心しねェな…心配した」
「…ごめん、なさい…」
「フフ。素直に謝ったなら、もう怒れねぇな」
キッドの隣りに腰を下ろし、ローは鰐に電話を掛ける。
「ああ、見つかったよ…退屈だったし疲れたんだろう。…ああ、しばらくしたら連れて行く」
「…ワニ、おこってる?」
「いいや。鰐も退屈してるからお前の気持ちをわかってるさ」
「ワニも?」
「そう、鰐も…社長だから仕方なくここにいるだけだ」
「…ローは?」
「うん?」
「ローは…たいくつしない?」
「ああ、退屈してた。早くどっか行きたかったんだ…だからお前を探しにこれたのはラッキーだったな」
「…ほんと?」
「ほんと。お前何か食べたか?喉渇いたり、腹減ったりしてねェ?」
「んー…」
「下に軽く食えるところがあるんだ。…つーか、お前が一緒ならおれも怒られねェから付き合ってくれ。煙草が吸いたい」
「…うんっ!」
切実そうに言うローに、キッドはぱっと明るい顔で頷く。よし、と言って立ったローに合わせてキッドもぴょんとソファーから降りる。
「行こう」
「んっ」
差し出したローの手をキッドはぎゅっとつかんだ。
「なんでも頼んでゆっくり食ってくれ」
「ローは?」
「おれはコーヒー」
「おれ、これ」
「ハニーワッフル…なぁ、こっちにしておれと半分こしよう。これアイス乗ってるぞ」
「ローも食べるのめずらしいな」
「冷たいの食いたくなった。飲み物は?」
「あったかいのがいい」
「じゃあミルクティーにするか」
「うん」
キッドが最初に指したものより、大きなワッフルに2色のアイスとミックスベリーの散りばめられたそれを注文するとさっそく煙草を吸い始めるロー。ひと心地着いたような表情に、ローの方が疲れてたんだと思わず笑ったキッド。
「ロー疲れた?」
「ああ…知らない相手の話を聞くのは疲れる」
「ふうん?」
「おれはこう言うのは好きじゃないしな」
注文したワッフルが運ばれてくると、言わずとも用意してくれた2人分のカトラリーでローはワッフルを食べやすいように切り分け2人でつつく。
「そのアイス何味だった?」
「これブルーベリー。美味しい、あまくないよ」
「ん、ほんとだな」
「ロー、これなに?」
「…?これがラズベリーなのはわかるけどな…なんだ?」
数種類のベリーに2人で首を傾げる。一番小さく、丸い赤い実。キッドが食べあぐねているのでローが先に食べてみる。
「……。キッド、食べてみろ」
「…?…!、すっごく、すっぱいッ」
「な。酸っぱかったな」
「言って!」
「それじゃ楽しくないだろ?」
時間からか他に客も見えないので少々はしゃいでも問題ない。店員も微笑ましくこっちを見ているし、とローはゆっくりと時間を潰した。

「さて、もう少しだろうから我慢しようぜ」
暇を潰して、漸くホールへ戻ってきた2人。戻りも手を繋いで帰ってきたが、そろそろ離されそうになるローの手をキッドは少し強く握る。
「…ロー」
「うん?」
「…あ、のね」
「…?」
「……、ロー…」
「キッド?」
「ロー、大好き」
「…どうした?」
「でも、おれ、ローが女の人と話すのキライ」
「…」
「…きらいっ」
ぱっと手を離して、驚いているローを背に走って逃げていく。鰐の姿を見つけると鰐の背後から腰に抱き着く。
「っ、…キッド。どこいってやがったんだテメェ…」
「……」
「…おい?」
「…ぐずっ」
「……はぁ」
わしわし、とキッドの頭を撫でこれ以上ここで泣かれるわけにもいかないので話を聞くに聞けない鰐。
帰宅しても、今日のことは結局語られず仕舞いいになるのだけど、これがある種、波乱の幕開けであったことは確かだ。

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