小さな器から零れ落ちて行く
日に日に腕の中に収まり良くなる身体が愛おしくて疎ましくて
何度、抱き潰してしまおうかと思ったことか
大人しくじっとおれに抱かれてる身体も、きっといっそうのこと抱きつぶして欲しいと淡く願ってる筈だ
「おれの服までぶかぶかになってきたな」
「ああ…動きにくくて仕方ねぇな」
袖の余るシャツ、裾のだぼつくジーンズ。それが可愛いと思える自分と泣きそうになる自分とがいる
いつの間にかおれより低くなった目線。見上げてくる目には不思議なほど不安も恐怖もなく、ただおれの情けない顔を映してた
「ユースタス屋をこんな風に抱けるなんて思ってもなかった…いい気分だ」
「おれはとてつもなく胸糞悪ィ」
軽く持ち上がる身体をしっかりと抱き上げて薄い胸に顔を埋めると細い腕がきゅっとおれの頭を抱きしめた
「体調、大丈夫か?」
「ああ、問題ねぇよ」
「心臓の動きが早い」
「てめぇに抱かれてるからだ」
「フフ…そうか」
他愛ない話をしながらずっと抱きしめ合って、できる限りの時間を共有する。
ガラじゃない、そんなのはもうどうだっていいんだ
少し前、おれと同じ背丈のユースタス屋を掻き抱いた夜
情事にのぼせながらぐずぐずとぐずるように悶えながら"忘れるのが怖い"と泣いたユースタス屋はそれ以来少しずつ中身を無くしていく。
「トラファルガー」
「うん?」
「トラファルガー」
「ああ」
「トラファルガー、…ロー」
「ロー」
「ロー、ロー、…ロー…ッ」
最近ではふとしたときに名前を繰り返し呼ぶユースタス屋にその都度その毎、おれは返事をする。
「ユースタス屋。ユースタス…キッド」
「トラファルガー」
忘れたくないとすがる身体はもう随分と小さくて
「苦しいか?ユースタス屋」
「…、もっと…つよく、」
「潰しそうだ」
「…いい、つよく」
単語を必死で紡ぐ唇にそっと口付けて俺の腰丈もないユースタス屋の身体を抱きしめる。
「とら、ファル…ガ…わすれ、た、くな…」
「…いいよ、もう、忘れろ。」
「い、や…」
「いいんだ。悪かったな…おれが、忘れんなとか言ったからテメェは頑張ってくれてんだな」
「ロー、ロー…」
「おれが、覚えてるからいいんだ。ユースタス屋…忘れても、また覚えりゃいいんだ。だから忘れろ」
潰れてしまえばいいと加減なく抱きしめるとくぐもった声が胸元から溢れだした
ゆっくり落ちる言葉が呻きになってユースタス屋の身体から一切の力もなくなって
空っぽになったユースタス屋が瞬きをした
「…?」
「ユースタス屋?」
「ユー…?」
「……ユースタス・キッド。お前の名前だ」
それ以降、後退の止まったユースタス屋の身体を毎日抱きしめた
明日になったら忘れる名前を、それでも根気強く教えて
別れの愛してるとキスをすることがおれの日課になった
「…ロー?」
はじめましての言葉を飲み込んだ日
小さな手で目元を擦りながらユースタス屋がおれの名前を呼んだ
「……おはよう、キッド」
手始めに挨拶を、そして、愛してるを。
おやすみ、また明日
そしてまたおはようを。