御伽噺のようにはいかない



俺が殺されることがあるとすればユースタス屋に殺してほしい。
じわじわとなぶり殺されるのもいいだろう、一思いに吹っ飛ばされて終るのもまた一興だ。


頭から、何処かしこから血が溢れた。打ち付けた身体は全身打撲で呼吸さえ辛くてそれでも俺は理想を語り笑った。
目の前で俺を見下ろす赤色は面白そうに口許に笑みを浮かべるとコートが汚れるのも構わずにすとんとしゃがみ俺の顔を覗き込む

「死んだか?」
「…フフ……ばかをいうな…生きてるさ……まだ」

コフッと、喉に突っ掛かる血を吐き出す。きっと内臓の損傷も激しく肋骨の骨は何本も折れて砕けてるだろう。
折れて尖った骨が肺を悪戯に引っ掻いてるのか呼吸するのが辛い

「おれは…ユースタス屋に、殺されるから……まだ、死なねぇんだ…」
「…で?」
「ユースタス屋…おれを殺して」

海軍から襲撃を受けた。兵力差に敵わずおれは仲間を次々に失っておれ自身もずたぼろで……

「おれが殺さなきゃテメェは死なねぇんだろ」
「……」
「寝るんじゃねェ…喋れよ」
「…、…、ケフッ…」

ヒュー、と情けねぇ音しか出ないおれの喉。
視界は真赤なフィルターで覆われてそれも徐々に霞んで行く。
あぁ…おれが死ぬことがあるとすれば…ユースタス屋に…

途切れ途切れの意識の中
血を吐き出す口を塞がれて、鼻呼吸もままならないおれは酸欠に陥った。
ぽたりと頬に落ちる水は温かくて
それはとても優しい殺し方だった




壁に添い、ぐたりと座るトラファルガーの息が細くなって行く。
おれが殺さねぇと死なない、なんて言ってた男は今にも消えそうな虫の息だ。
血の零れる唇にキスをすると喉がヒクリと動き小さな痙攣を起こしす
きっと、この口付けに込めた思いは伝わらないんだろう。

トラファルガーは死んだ
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