ただそれくらい、俺もそう思う


衝動的だった。


ザァー、と頭から冷水を降らすシャワーが煩い。
バスタブの中、ユースタス屋は目を閉じて淵に頭を寄り掛からせている。血の気の無い冷たい身体。青ざめて黒い影が濃く落ちる目元。
まだ、鮮やかで艶のある髪が水に濡れてその頬に張り付いたり雫の重みに揺れてみたりしているのを綺麗だと思った。
淡い浴室の電灯に照らされた色のない頬が蝋で固められた人形のようだ。

パタリ、パタリ。窓を叩く霙混りの雨…一段と冷え込んだと思えば雨は結晶を残して地に落ちて来た。
冷たい浴室で震えながら出す息が白く色付く。
あぁ、ユースタス屋。愛してるのに。

あの時、深々と腹部に突き刺したナイフを再び引き抜いた。抜かずにいたらまだユースタス屋は助かったかもしれないけど、俺は…。
ユースタス屋だって、助かったとしてもこれから先俺に殺されかけたって事実を背負って生きるよりも死んだ方が良かったと、きっと思ってくれてるだろう?

水分を多量に含んた冬物の服が体内の熱を奪いながら身体に重く纏わりつく。
ユースタス屋の残僅かな血が冷水に溶けて渦を巻きながら排水口に流れて行く。

「ふ、ふ…け…ケンカ…のっ理由は…な…はぁー…なん、だったっけな…ユースタス、屋…」

やけに熱い水が頬を伝い落ちた。寒さで上ずる声に返事なんか返ってくるわけはないのに。

「思い…はっ…だせねぇなァ……」

悴む指先でユースタス屋の硬い頬を撫でて冷たい唇に俺の紫色になった唇を押し付けて、額を擦り合わせた。


朝方には雪に変わるんだろう霙雨の降る夜に、浴室で冷水を浴び続けたら凍死するくらい、容易いのではないだろうか。

「ゆるして…ほしい、わけじゃねぇんだ…」

今から追いかけて行ったら、逢えるだろうか。
逢いたいな。

「おこって、いいから…さぁ…ユースタス屋ァ……」

ユースタス屋の死体を抱いて目を閉じて、深呼吸した。
自分の息はまだまだ温い。

「もう…嫌いって、言うなよ」


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