たった今おれ、遭難


ユースタス屋が浮気をした。
「だって、おまえもシただろ」
…うん、そうだ。心の中でだがそう返事をしてしまった。
だって、あまりにもユースタス屋は悪びれずに、無感情な声で坦々というから…ああ、よろしくない。雲行きが非常によろしくない。

どうしたって、ことの始まりはおれの浮気からだった。ユースタス屋のことは大好きだけど遊びもしたい。ばれなきゃいいかな、と…思うこと数回。完全に調子に乗っていたおれが悪い。
「お前が浮気して、3回目のとき、おれは別れるんならさっさと別れてやるって言ったよな?」
うん。そう…1回目でばれてしまった遊びの後、ユースタス屋は浮気するくらいなら別れると言った。
でもおれはユースタス屋に本気だからと別れないでくれと縋ったのだ。
ユースタス屋はわかった、と別れずにいてくれて、しばらくはおれも大人しくして…。
「で、思ったんだよ。お前、1ヶ月も待てずにさ…浮気?しだして?もう…何言っても無駄だなってさ」
だから、ユースタス屋は気づいていながらおれはわざとほったらかされていたのだ。
わざとほったらかさせれているのに気付かずに、そしてユースタス屋の浮気にも気づかずに…おれがユースタス屋の浮気に気づいたのはもう大分、ユースタス屋がその回数を重ねてからだった。
「お前がしてんのに、おれが一人でおまえのもんになってんのとか、不公平じゃねェか」
ごもっともだ。お前が何様だってんだよ、ってユースタス屋に言われるまでもなくおれは何様のつもりでいたのだろうか。
「で…?お前、さっき、おれに、なんつった?言えた義理か?」

さっきのこと。
ユースタス屋が浮気をしたと知って…それもおれの知人が相手で、その男から聞いたのだ。お前ら別れたのか?なら、今度はおれが――…なんて、そんな世間話みたいな感じで。おれは頭にキてユースタス屋のマンションへすっ飛んで行き、何食わぬ顔で出迎えたユースタス屋の胸倉を掴み詰め寄ったのだった。なに浮気してやがるんだ、と。
ユースタス屋はきょとんとして、しらばっくれるなと噛みつくおれに「いや…今更かよ、って思って」と呆れた顔で言ったのだ。
そして、この状況である。
そもそも…と切り出すユースタス屋はおれの悪行を並べた上ですんなりと浮気を認めたのだった。

だけどだ…俺たちは男同士なわけで、まぁ…おれは女を抱い楽しんでいたんだが、ユースタス屋は男に抱かれて浮気をしていた。
ユースタス屋はゲイってわけじゃない。おれと付き合う前は女が好きで彼女もいたし女に苦労したことないはずだ。おれと付き合ってどっちが上になるか下になるかでも揉めたのだ。
男に抱かれるのに慣れたわけじゃないだろうに。せめて、おれと同じように女抱くとかしてくれたら…そしたら、男だから女を抱きたくなることだってあるだろうって…自分勝手だけどそう思えたのに。
だから、言ってしまったのだ。「おれへの当て付けに抱かれたのかよ」と。
「それ以外に、何があんだよ」
ユースタス屋は、そこで初めて苦そうに一瞬だけ顔をしかめた。ほんの一瞬だけ…それ以降は無表情になってしまう。
「おれが女抱いたって、お前は痛くもねーじゃん。お前とおんなじことして、男と女の抱き心地の違いをむざむざ感じて、女役のおれにとって何が楽しいってんだよ。女抱いての浮気ならカウントしねぇってそんなこと言い出すんだろ、お前」
図星と言う奴だった。ユースタス屋が女をいくら乱そうったってなにを思うわけではないが、ユースタス屋が誰かに乱されるのは……。
「みじめだろうが…そんなの。男に抱かれんのだってみじめでたまらねェ…けどな、お前に少しでもしてやったって思わせられるんならヤればキモチイイしどうってことねぇって思った」
メンソールのタバコを一口吸い込み、ユースタス屋はため息とともに吐き出した。喋るのに疲れたと言い出しそうだ。

「別れたいんなら、別れるぜ」
一呼吸おいて、ユースタス屋は言う。あの日と、同じように。
「もう…しない、ほんとに…ユースタス屋…おれは、別れようなんて……」
思っていないんだと、自然と、深々と頭が下がった。
バカみたいに首を垂れて許しを乞うた。
「今更、それ信じろって言うのか?」
「……ほんとに、しないから」
「ふーん」
勝手に頑張れば、と聞く耳を持たない様子。まったく信用されてないのはこうなってしまっては仕方のないことだ。
だが、しかしこのままでは。おれが続ける限りユースタス屋も続けるわけで。それは我慢できない。

「約束する。だから、」
「おれは約束しねぇぞ。」
「え…」
「別れたくなったら、いつでもそう言え」


短くなった煙草をもみ消し、明後日の方に紫煙を吐き出すユースタス屋はもうおれを信じるとか信じないとかの次元ではなかった。

ああ、もう取りつく島もない。


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聴く耳もたんキッドさんとしょうもないローさん。
ローが改心するのかは謎。
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