悪霊騒動


同棲していないので会うときはお互いの家か外でデートかするキッドとロー。
その日、このあいだの埋め合わせに…とローが用事があると言って潰したデートの代わりに、仕事帰りのその足でローはキッドのマンションへやってきました。ちょっとお高い洋酒とおつまみ持参で。
ピンポン押して、キッドの部屋のドアが開きました。
「ユー…っうわ!?」
ドアが開き、ご機嫌伺いにやんわり笑顔を作っていたローの顔にバッ!と無数のなにかか降りかかります。
「ゥ…ッ!?、甘ェ!?ユースタス屋!?」
「あ、間違った」
「なっ…ブフッ!!・・・・・・・しょっぺェ!?」
再び、ローの顔だけにとどまらず頭からもザァザァと振り掛けられ撒かれるそれらにローはたまらずたたらを踏みながら後ずさる。
口の中に入ったことで察するに、どうやら塩らしい。そして最初に撒かれたのは砂糖らしかった。
「なにすんだ!」
「塩撒いた」
「嫌がらせか!?」
「…お祓い的な?」
「ハァ!?」
頭や服を払いながらローは折角顔を見に来てやったのになんだ、と不機嫌な顔をします。キッドの手には普段使う調味料入れではなく、スーパーで売っている500gの塩の袋が握られていれその程んどをローに撒いたらしく空に等しかった。
「おれな、見たんだよ」
「幽霊とかいうんじゃねェだろうな…んな馬鹿げたことで、」
「おれも自分に霊感があるなんて思ってなかったぜ?だけどよ…この間、デート決めてた日にお前仕事だって言ってたじゃん?仕方ねぇな、応援してやるか…っておれは思ってたんだ。だからなんか手料理でも差し入れてやろうと思ってその日買い物行ったんだよ。したら、お前を見かけたんだよな。おれがお前見間違う訳ねェし、急な仕事の上、外回りだったんだなァ、可哀想だなー…ますます労ってやろうって思った訳だ」
キッドの大げさにも見て取れる身振り手振りに表情に、ローはどんどんと冷や汗を流し口元を引きつらせる。
「で、お前に声かけようかどうしようかってちょっと考えてたらよ…お前の腕にくっついて肩に頭寄せてる女みたいな幽霊見ちまってさ。いやァ…ビビった。お前仕事だって言ってたしそんなワケねェだろうし、だからおれはアレは幽霊なんだろうと思ったわけだ。一生懸命頑張ってる恋人が憑かれてるとか可哀想になってな…おれは調べたんだよ。悪霊退散っての?取りあえず塩撒いて見たわけだが、なんか変わったか?おれ的にいろんな『念』を込めて撒いてみたんだが…500gじゃ足りねェかな?」
「や、あ‥うん!すっげー肩がッ肩が軽くなった気がする!!!」
「気が、する…か…やっぱ足りねェっぽいから…」
と、足元の袋からさらにもう1袋の塩を取り出すキッドは大雑把に封を開けると手で塩を鷲掴みに。
「ちょ!やめッ…ウソ嘘!マジ軽くなった!すっげー肩軽い!快調!!」
「あ、そ?」
残念そうに小首をかしげるキッドにローは何度も頷いてやんわりとキッドの手を握り塩を撒くのを阻止する。
「あれ、かなりの悪霊だと思うんだよ…趣味の悪ィ濃い化粧に毒蛾みてェなワンピース着ててよ…おれまで寒気がしたんだぜ?ただ事じゃねぇよな?」
「あ、ああ…あの、その…」
「ん?大丈夫かよ…顔色わりぃけど…もしかして悪霊がまだ頑張ってんのか?お前に憑きなおそうってしてるんじゃ」
「大丈夫だ!いま、引き離すのに体力使っただけだから!もう平気だッ」
「ふうん?…霊って、『集まる場所が』在るんだってよ、そういう『体質』の奴もいるらしいし……だからお前も、なにか引きずって来る様なとこに、むやみやたらに行くなよ?今度憑いてきたら、お前の身体に経をびっしり書いて1晩御堂に閉じ込めなきゃならなくなるからな」
「あ…ああ…」
「耳なし芳一は、耳を持っていかれたわけだが」
「……(汗ダラダラ)」
「無くなったら、嫌だよなぁ?去勢にならねェことを祈ろうぜ…?」
「ハイ」
ローの返事を聞いてからキッドは調味料入れの蓋をあけ、ローの頭の上に容器を傾ける。もっさりと頭上に落ちる雪のようなそれ。
「おれって甘いだろ?」
「………悪かった」
「土産は受け取ってやるよ。ハイ、ここ片付けてこいよな」
ローの手から土産を取ると、その手に箒とと塵取りを持たせる。
「風呂、どうぞ入っていってくれ。給湯付けてねェから水しか出ねェけど……滝に打たれると思えばマシだよな」

ニコ、と笑って部屋の奥に消えるキッドを見届け、ローはがっくりとその場に膝をつくのであった。


この後、浮気番組とかTVで見て「悪霊ってどこにでもいるんだなぁ」ってチクチクとげを刺してくるキッドさんと、針の筵状態でもひたすら耐えて(本当にキッドが好きなのには変わらないので別れる気はない)過ごすローさん。
このキッドは男でも女いいけどローは何だかんだで尻に敷かれればいいな。これはある意味キッドに怒られたいローの心なのか、それとも……

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