プティ


おれには大切な友達がいる。一般的には理解されがたいおれの"友達"はシロクマの縫いぐるみ…名前はベポだ。
体長70cmはあるそいつは、物心ついた時からずっとおれの側にいてくれた。
こうして高校生になっても手放せないでいるベポを、ユースタス屋は受け入れてくれたんだ。

「触ってもいいか?」

初めて部屋に招いた日。ベッドに座るベポを見てからかうでもなくそう聞いてきたユースタス屋におれは頷いた。
頭を撫でて触り心地を確かめ、耳を触り、前足を握って、口許を緩ませながらベポを抱き上げる。

「すげぇ可愛いなこれ。抱き心地最高」
「そうだろう?そいつの名はベポ。おれの友達だ」
「ベポか…気に入った」
「おい、やらねぇぞ?おれのベポだ」
「ケチケチすんじゃねェよ。なぁ?」

ベポにモフりながら笑うユースタス屋にベポを取られやしないかと冷や冷やしたけど、ユースタス屋があまりにもベポを気に入った様子だから少し貸してやるくらいはわけなかった。




「これつけてやってもいいか?」
「ベポにか?…いいぜ」

ある日ユースタス屋が手土産にコンビニスィーツとベポへ何かを持ってきた。
ベポを膝に抱いてユースタス屋がベポの首に何かを巻き付けて満足そうにする。

「似合うだろ」
「ふふ…ああ。ピッタリだ」

濃い青に散らばるペンギン柄のバンダナが、ベポの首元を飾った。

「そう言えば…ベポに何か付けたりしてやったのそれが初めてだ」
「薄情な奴…ベポだってたまにはなぁ?」

ベポの鼻を擽るように動くユースタス屋の指先。
おれはそれを見て少しだけ嫉妬した。
ユースタス屋がベポに構うと、甘やかすと、触れると…
羨ましいとさえ、思ってしまった。




「ベポって」
「?」
「お前のにおいするよな」

おれとユースタス屋の間に、気兼ねないと言う言葉が馴染みだした頃。
ベポの腹を枕にしておれのベッドに寝そべるユースタス屋が何の気なしに呟いた。

「……ふふ…おれの部屋にいるんだから当たり前だろ?」
「や…お前の部屋のにおいとはちょっとちげェんだよ」

ベポの丸い耳を触り鼻先が触れ合う程に顔を寄せたユースタス屋とベポ。
おれはなぜだかカチンと来て、無意識に顔をしかめた。

「おれだけのにおいじゃねェよ」
「は?…っと、あ?なに…」

ユースタス屋が頭の上に疑問符でも浮かべてそうな顔をしておれを見る。
それと同時にベッドが揺れ軋む音に驚きの表情に変わるユースタス屋の顔。
ユースタス屋の腹に跨がってベポ越しに目が合う。

「最近、」

そう、ユースタス屋がベポに構い過ぎるから。甘やかすから

「ベポの野郎…ユースタス屋のにおいさせやがって」
「ト、ラ…?」
「ムカつく」

ベポ諸共、ユースタス屋の上に被さると胸元から腹部にかけてベポが柔らかく押しつぶされる感触と鼻先をユースタス屋の髪の毛が擽って微かな温もりを感じた。

「ずるい」

呟きを漏らすとおれとベポの間で押しつけられていた手をユースタス屋がもそりと動かした。

「ベポばっか…」

ずるい。そう繰り返す俺の背に、温かな手のひらが乗る。
「トラファルガー…」

丸めた俺の背中は思いのほか優しい手つきで甘やかされた。





「またベポばっか構いやがって」
「そう言うわけじゃ、お前っ…」

ユースタス屋がベポに触れる度におれは嫉妬した。ユースタス屋も飽きれ顔する。

「トモダチなんだろ?」
「今は恋敵でもある」
「儚ぇ友情だったなァ…」

そうベポに話すユースタス屋の唇を塞げばぐっと眉を寄せ顔を背けられた。

「おい…」
「ベポなら気にすんな」
「んっ、ッ…ふ…」

ベポをユースタス屋の手から取り上げてベッドサイドに降ろす。ユースタス屋が手持ちぶさたにしている手は俺の肩に導いてやりながら何度も唇を啄む。
ギュッと腕を回してくるユースタス屋に満足しながら胸元や脇腹を撫でて服を捲るとユースタス屋はものすごく困ったような顔をした。

「…トラファルガー…」
「…なに」

ちらりと視線をやる先にはベポがいて、こちらをじっと見ていた。
ベポは、当たり前だが動けない。ユースタス屋にベポからは触れられない、声もかけられない。
そんな、おれの友達の前で。

「っあ、あ…」

ユースタス屋が頬を赤くさせて、声を湿らせて、瞳を潤ませて、おれを求める。
それをじっと見守るベポの視線に、むず痒くなった。

「…悪ィな…やっぱ、見るなよ」
「っ…ばぁか」
「うるせぇ」

ベポを回れ右させて、こちらを向くなんとなく淋しい、友達(ベポ)の背中。
ユースタス屋は相変わらず困ったように笑って、おれにキスをくれた。





「ユースタス屋はおれのモンだ。だけどお前との友情は変わらねェ。そうだろ?」

ベポと腹を割って話をする。そんなことを言い出したトラファルガーが、ベポに一方的な話をし始めた。

トラファルガーとベポ。
いつだってトラファルガーだけが語り、勝手に約束を取り付ける…。
だけど、ベポとの友情はそれでいいんだろうと俺は思う。
「勝手な奴…」

そうやって笑ってやればムッとするトラファルガーを軽くあしらいながら、おれはベポの隣りへこの子を座らせた。
トラファルガーはなにも言わずベポと隣りに並ぶその子を見ていた。

「トラファルガーのこと、取って悪かったな」

俺がベポに話しかけるとトラファルガーは少しだけ驚いた顔をして、笑った。






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