後ろの正面だぁれ?


じとり。背後から嫌な視線を感じるようになって随分経つ。
しつこく張り付くようなそれに気味が悪く振り返ってみても案の定…いない、誰も。
「…」
一人で歩く道も、変わらずに背中に感じる視線が首筋を悪戯に撫でる気がして不快。
どのタイミングからか、わざと足音を俺の物とはずらしてついて来る。
振り払うように走れば足音は止み、視線は感じなくなる。
嫌だ…嫌だ。気味悪い。
怖い。振り返って、目が合ったらと思うと
最初の頃のように、違和感だけでは振り返れない。
むしろこのまま、振り返らずに過ごした方が何事もなく何時かは……。
今はそんなことを浅はかに願うしかない。
しかし、数日の内に俺の願いを知っているかのように背後の視線はエスカレートする。

最初は気がつけば背を刺していた視線が
じとりと撫でるように変わり、
歩けば音も無くついて来た視線が
足音をずらして主張する。
立ち止まればそれに倣っていた歩みが、止まらずに

一歩、一歩、…一歩
近付いてくる。
直ぐ後ろで立つ気配。そして遠のいた。




いつもの様に感じる視線。
昨日、直ぐ側に迄せまった恐怖が足元から這い出てくる。
見るな、怖い、気持ちが悪い。
ジリ、ジリと勝ってに足が動く。
ジリ、ジリ、ジリ、ジリ…

「ユースタス屋っ」
「ッ…!?」

肩を捕まれ無理矢理身体を反転させられた。引かれる腕に反応が遅れてふらつく足元。

「なにしてんだ…落ちるぜ?」
「………」

気がつけば白線の向こう側。
あと、一歩で線路へ転落…

「…オイ、顔色悪ィぞ」
「…ぅ、あ…」
「ユースタス屋」
「ァ、…ッ!!」
「っ!?ユースタス屋っユースた……」


けたたましい警告音ともどかしいほど緩く長い刹那。
浮いた俺とトラファルガー身体が、あの時トラファルガーの後ろに見えた顔が、俺の指に絡む金の絹糸のようなそれが。






白い世界にぼたり、ぼたり。
俺を生かすそれが、俺の生きる証しが電子音で時を刻む。
トラファルガーは腕を残したまま跡形も無くなった。
俺はこうして意識の中でしか物を言えない塊になった。

「キッド」

右の手を優しく握るその手が全てを奪ったのだと、俺は死んでも言えないのだろう。
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