学生の本業、即ち…勉学


「フフ…よぉ。不真面目が祟ったなァ、ユースタス屋」

楽しげに笑う白衣を着た教師に、生徒は苦く顔をしかめた。


ユースタス・キッドはムスッとあからさまな不機嫌顔で別館の特別教室を訪れた。さかのぼること、それは今朝のSHR後から始まる。
教室移動の為に教室を出かかった時に「あー、」なんて気の抜けたような声が頭上から降って来た。降って来た側からがっしりとヘッドロックを食らわされ「うがっ!?」と思わず奇声を上げつつ、反射的に反撃をしてやろうと拳を握りつつ、見上げれば担任の青雉がなんともやる気なさげな顔で見下ろしていた。

「あんだよセンセー…なんも呼び出されるようなことしてねぇぞ!?……多分」
「ユースタスゥ…今多分て聞こえたぞー。ま、いいや。結局は呼び出しだしね」
「アァ!?」
「凄むんじゃない…。もーねぇ…、先生は胃が痛いよ?他の先生方から聞いたが」
「?」
「授業に真面目に出てないらしいじゃないの」
「…あー…」
「教科担の先生方がせっかく提出物出せば目を瞑ってやるって言ったのも守ってないんだろ?」
「う゛…」
「はぁ…今日中に、教科担の先生のところを回って来なさい。もう一回1年生やりたくなきゃ今からでも頑張んなさいや」

ヘッドロックを外し肩を叩く青雉はキッドに呼び出しを掛けている教科担の名前が書かれたメモを渡す。「すっぽかすなよ」とやる気のない声を掛けてスタスタと廊下を歩いていく担任をキッドは面倒臭そうに見て、もう一度メモに目を落した。


面倒臭いと思いつつ放課後にでも回ればいいかと過ごしていると2限目の休み時間に社会科の教科担と廊下で鉢合わせてしまい、キャスケットなんてあだ名の付いてる社会科の先生はキッドを見るなり下がり眉を更に下げて苦笑いを浮かべた。

「ユースタス〜、お前もうちょっとでもいいから俺の授業ちゃんと聞いてくんねェ?授業中、教室に居ねぇし…居ても居眠りするし。渡したプリントも出してくれねぇんじゃ点数付けられねェよ」
「はは」
「笑いごとじゃねェぞバカ野郎。俺たちセンセーも、お前らに一教科も落とさせないようにってしてんだ。俺の教科だけなら、まぁおれもガキんときの覚えがあるからよぉ…なんとかしてやるけどお前他の教科もやばいんだろ?」
「はぁ…」
「放課後、特別にプリント課題出すからな。テストも平均点以上取んだぞ!」
「へーい…」

生徒と変らないノリのキャス先生に額を弾かれながらキッドは気のない返事をすると「全くテメェはよー」なんて小言を食らいそうになったのでキッドは再び適当な返事をして逃げた。

4限目の授業は英語で、ついでとばかりに授業終りに訪ねることにする。ホーキンス先生…抑揚のない喋りのお陰で全く授業内容が頭に入って来ない。そしてたまに黒板に書くマスコットキャラがブラックユーモア的なのが印象で。

「ホーキンス先生」
「…ユースタス。今日も気持ち良さそうに寝ていたが何か用か?理解出来なかったところがあるわけでもないだろう。寝ていたのだからな」
「う゛…いや、ちっとは聞いてましたって…マリエ描いてるとことか見てたし」

いつものように藁人形だとかなんとか、それを所謂可愛らしくデフォルメしたような絵は白いチョークで描かれ赤いチョークで色付けされたリボンを首に巻いているのが特徴のMarieちゃん

「…。ユースタス」
「なんすか?」
「マリエ、ではなく…マリーだ。ローマ字読みをするな」

何となく残念そうな顔つきのホーキンス先生は放課後に基礎から教えてやると少しだけ優しく言ってくれた。


そんなこんなで出遅れて購買部に行くと隣接の自販機前でまた、1人教科担を見つける。売れ残りとも言える人気のないパンを買いながらここはバックレようかと思っていると

「ユースタス」
「あー、センセー」

残念なことに声がかかり、渋々、振り返った。国語のキラー先生…

「逃げようとするな。なんにしたって呼び出しだからな」
「わーってるっつの…」
「全く、…身内だからといって大目には見てやれないんだぞ?いや、身内だから余計にだ。本当に分かってるのか?」
「……」

なにを隠そう、従兄弟のキラーには昔から大概のことは許してもらえたが流石にこっち方面はダメだった。甘える気はねぇけど…

「何すりゃいんだよ…つーか、お前の授業割りとちゃんと出てんだろうが!」
「…確かに授業は出てる…だがな、提出物とテストの点が悪過ぎるんだ」
「…」
「古典を、重点的にしような」

諭された…。


憂鬱な気分で迎えた放課後のSHR。副担任の通称ペンギン先生が、担任の青雉よりもしっかり要項を伝えてクラスは解散となる。SHRに来た時から覚悟していたがやっぱり、と言うべきか。
呆れ顔で俺の席まで来た先生は数学の教科担だ。俺の、一番出席率の悪い…

「あれ?今日は流石に逃げないのな、ユースタス」
「ははは…」

この副担任から何度逃げたことだろうか…逃げても特に怒らねぇし追っても来ないし課題を無理にやらせようともしねェからついつい逃げちまう。

「ユースタス自身の問題だぜ?キャスケット先生は一生懸命してくれる先生だろうけど、俺はお前にやる気がないならいくら教えても無駄だって思ってる」
「……」
「あるか?やる気」
「ハイ」
「…うん。じゃあ俺もちゃんと教えてやるから一緒に頑張ろうな」
「ッス……」


かくして俺は、自分の不逞により特別授業と言う居残り勉強をするハメになるのだった。
<<ピンポンパンポーン>>

『2年C組、ユースタス・キッド。今すぐ理科準備室、トラファルガーのところまで来なさい』

「……」
「スピーカーを睨んでも仕方ないぞユースタス。ほら…早く行ってこい」

副担任の笑いを含ませた口端がまた腹が立った。



「2-C、ユースタス…です」
「…入りなさい」

別館の理科準備室までわざわざ呼び出すなんて本当に嫌な先公だ。
口には出さず胸の中で悪態を吐きながらピッタリと閉じたドアを2度ノックして名前を告げると奥から嫌味な声が返事をした。

「フフ…よぉ。不真面目が祟ったなァ、ユースタス屋」

椅子に座ったまま振返った理科担当のトラファルガー、先生。
人を小馬鹿にしたような笑い方も喋り方も、全部。
苦手で嫌いな先生だった…






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各エピソードへ続く(と、思う)
トラファルガー先生との話は確実に続きます。
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