現実逃避にはうってつけの午後


「……」
蝉は煩い程に鳴きアスファルトは日の照り返しで揺らいでいる
八月も数日過ぎたある日、数日前から連絡の取れないアイツが心配になって自宅へと行ってみる。インターホンを押しても無反応で、暫く佇んだ後に試しにドアノブを回してみた。
不用心にもスンナリ開いてしまったドア、出来た隙間から中を覗く
何故、こうも胸がざわつくのか。
また日を改めて来ようとする意思に反して身体か動く。キィイ、とゆっくりドアを引いて1人すり抜けられる幅に開いたそこに一歩踏み入れた。
あぁ、きっと俺はよからぬモノを見てしまうに違いない。

キシキシと微かに板間を軋ませて短い廊下を進むとドアに突き当たる。ク、と息を飲み一度呼吸して息を止めながらドアを開いた。

夏特有のむっとするような部屋の温さに顔をしかめて視線だけ動かして部屋を見回した。あぁ…
「…ユースタス屋」
「……」
探していたヤツを見つけてひとまず安堵した。思わず普通に呼吸して吐き気を呼ぶような異臭を嗅いでしまった。
「っ…ひでぇ臭いだ…」
「ト、ラファルガー…?」
異臭にグッと鼻先に皺が寄る程顔をしかめているとユースタス屋が嗄れ声で俺を呼んだ。
「この有様はなんだユースタス屋」
「…」
「正直に言え…お前が、やったんだな?」
「…あぁ。そうだ」
黒ずんだ赤紫色に口端や頬を腫らしたユースタス屋が痛々しくそこを引きつらせながら笑った。
夏だから薄いタンクトップと膝丈のズボンを着てるユースタス屋は、剥き出しの肩にも痛々しい痣が見える。
「いい、触んな…」
「…」
「…そこだけじゃねぇし…背中とか腹とかのが、まだひでぇよ」
「…そうか」
「……もう、…耐えられなかった…」
「うん」
「後悔はしてねぇ…怒鳴り声もしねェし、殴られもしねぇし…大分、楽」
「いつやったんだ?」
「…わかんね…3、4日前…?」
俯けていた視線を少しだけ上げてユースタス屋は家具や物が倒れ散乱している床に横たわるそれを見た。
腐乱して溶けたユースタス屋の父親。
蛆と蠅が涌き、辺りにも米粒みたいな奴等が這って歩く。
「最初から、こうしとけばよかった」
「…ふふ。そうだな…」
ユースタス屋を抱き締めると風呂に入って無かったらしい身体や髪はべとついていたけど臭いは気にならなかった。

「逃げようか…」



中学3年の夏。
酷暑となった午後2時半。
床まで腐らせる腐乱死体と愛しい友人。


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