なかったことにしたくはなかった


ゴウン、ゴウン、と古い洗濯機が重い唸りを上げて稼動する音だけが古びたアパートのこの部屋に響く。
洗濯機と対面する洗面台に寄り掛かりガタガタと震えて唸るその箱をただぼんやりと目に映した。

身体が酷く痛む。背中も股関節も軋んで身体が重い。
昨晩、酷い抱かれ方をした。
大した言葉も無く、粗雑に組み敷かれた身体を荒く揺すられ息も調わないうちに静かに耳元に囁かれたのは別れの言葉。

「別れよう…」

耳にこびり付いて離れない優しい声は残酷だ。
痛みを伴う情行に涙も出なかった。声も出なかった…。
この日、ただ一度も俺に口付ける事はなくトラファルガーは夜明け前に姿を消した。




ゴウン、ゴウン、と今にもバラけて壊れてしまいそうな音を立てる洗濯機が耳障りな電子音を鳴して稼動するのを止める。
薄っぺらいフタを開けて丸めて放り込んだシーツを引っ張り出して広げてみた。
漂白剤と共にガラクタな箱に押し込んだくたびれたシーツには、情痕など裏腹に残してくれてはいなった。
脱水の利きかない洗い上がりの湿ったシーツに顔を埋める。
冷たさが心地よくて、水を吸い込む余地のないそれがジワリと頬を濡らした。



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