赤いバラ一本


*お花屋さんキッド





某通り沿いにある贔屓の花屋。
「よう」
「おう。久し振りだな」
「バイトしたり学校卒業したりだったんでな」
「そうか、そりゃおめでとう」
「フフ、ありがとう」
「で、今日は?」
「あぁ…告白してェやつがいてさ。すげぇ花束を作ってくれよ」

そう頼むと茶化すように笑いながら花を包み始める。それを見ながら俺はメッセージカードにペンを走らせた。

高2になりたてのある日だった、この花屋を見つけたのは…

「あいつほんと馬鹿だな」
「そう言うな…馬鹿だけど」
その日の放課後、帰ろうと鞄を肩に掛けたとこれでペンギンがわざわざクラスにやってきた。
首を傾げると「キャスが入院した。見舞いに行こうぜ」と、本屋に寄るくらいの気軽さで誘う。
「足、骨折したらしい」
「興味はこれっぽっちもねぇが、なんでだ?」
「友達の単車借りて、跨がって10m進んだらぶっ倒れて足が下敷きになったそうだ」
「…救いようがねぇ馬鹿だな」
軽く10歩歩いた先じゃねーか。
馬鹿らしくて馬鹿にすら出来ねぇとは…
「ロー、見舞い何にする?」
「花でいいんじゃねぇ?」
「あぁ、そう言えばあそこに花屋あったな」
「…本気かよ」
冗談だったと言うのに。たまに、ペンギンが真面目過ぎてわかんねぇ。
だがまぁいいか、と歩く先に花屋を見つけて適当に立ち寄ってみる。
菊とバラとユリと蘭、カーネーションと…そんくれぇしか見分けがつかねぇなァ花なんて。菊の10本くれぇでいいんじゃねーのかカスケットには。
「いらっしゃいませ」
「あ、……ども」

これは俺の妄想やら想像で誠に申し訳ないが、花屋なんてのは女の人がやってそうなイメージだった。てそれも清楚でこう…自分を持ってる芯のあるそんな、女の人が。
しかし、いらっしゃいませと聞こえた声はいい感じに低く愛想も欠片程入った男の人のそれで、その姿もやっぱり男の人だった。
それも胸板暑く背も高い、髪の毛真っ赤な…
「プレゼントか?」
「いや…友達の見舞いに…」
「へぇ…」
「男友達ですよ」
「なんだ…今時珍しいな、男友達の見舞いに花選ぶなんて」
確かにそうだろうと思う。植物の花より食い物の団子、団子より性的欲求が頭を占める健全な男子高校生が見舞いの品に花とは…贈る側も贈られる側も逆に不健全過ぎる。
「こだわりがねェなら予算に合せて包むぜ?」
「…じゃあ」
お願いします、と赤い髪のお兄さんに丸投げした。
「少し時間もらうぜ。それ、好きに使っても構わねぇから」
花の飾られたテーブルの上に置いてある籠を進められのぞき込むとメッセージカードが並べてあった。
ペンギンと顔を見合わせてそれぞれ手にとってみる。
取り敢えず、罵りの言葉でも綴ってやった。

「待たせたな。ちゃん花瓶に移してやれよ?」
「どうも」
随分可愛らしく包んでくれたものだ。少しだけ気恥ずかしいが花を潰さないように受け取った。
「贔屓に頼むぜ?母親にでも彼女にでも贈ればきっと喜こぶ」
割安にしてやるからよ、とニッと笑って店先まで見送ってくれた赤い髪の花屋の店員さん。
後に、名前と年齢その他いろいろなことを聞いて話す程に親しくなるのだが。



「トラファルガー、どうだ?」
「あぁ、すげぇな…。綺麗だ」
「これでラッピングして構わねぇ?」
「頼む。すげぇ可愛いリボン掛けてくれよ」

ユースタス・キッド
某通り沿いの花屋の店員さん。
俺よりも2つ上で、身内の花屋を手伝い中。
ある程度金が貯まったらしく、今春から服飾の専門学校へ通うらしい。

「待たせたな。ほら、花潰すなよ」
「おう、サンキュ」

俺、トラファルガー・ロー
某高校を昨日卒業。3年の半ばより始めたバイトは引き続きやって行く予定。
今春から大学へ通う。

「ユースタス屋」
「あ?」

高2の母の日に母親にカーネーションを贈った。翌年、高3の時も。
父母の結婚記念日も、イベント毎に俺は花を用意した。
ユースタス屋に見立てて貰った綺麗な花を。

「はい」
「…は?」
「好きだユースタス屋。だから飛び切りの花を用意した…不満か?」
「…、はははっ!」

花束を抱えて笑ったユースタス屋が「意外にロマンチストだな」と言った。

「嬉しいもんだな…花貰うって」
「俺にはくれねぇのか?」
「図々しい野郎だ…なら、一本だけやるよ。何がいい?」
「わかってんだろ?」

赤いバラを一つ

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