おやすみ
 



はぁ、と耳を撫でる悩ましいため息に心拍数が上がる。

明る過ぎると雰囲気が出ないからと、ワンルームを照らす電気の明かりを消して炊事台の手元を照らす明かりだけを灯す。
ベッドまでうっすらと明かりが届いて何も見えない暗闇でするよりも雰囲気が出た。
ユースタス屋は明かりを消せとは最初から言わなかった。戸惑いはありながらも割りきった様子で身体を預けてくれた。
今でも、ひっくり返そうと思えば容易い情事の位置関係はおれに任せてくれるがままだった。
それなりに時が過ぎてから不満はないのかと聞いてみたら「あったら今まで黙ってねェよ」と笑いながらユースタス屋は言った。
ユースタス屋は意外と言葉にしてくれる。
今の関係で悪くない、満足ですらある…そんな言葉におれは甘やかされていた。

ん…、と擽ったそうに吐息が零れる。
痕を付けないように気を付けながら首筋に唇を触れさせるとおれの項をユースタス屋の長い指が擽り返した。
襟足を弄ぶように指に絡めてたまについ、と引っ張る。
喉仏を食んで舌先で舐めたり、鎖骨をしゃぶる。胸元あたりに辿り着いて漸く、ジュウと音がたつほど強く吸い付いた。
ユースタス屋の白い肌に赤く色が付き、おれは一旦満足する。面白そうにユースタス屋が静かに笑うのを気にせず、再びユースタス屋の身体に触れた。

ユースタス屋の脚が腰に絡み付き、頭を抱え込むように腕を絡ませる。
汗ばんだ肌同士が触れて、心地がいい。
気持ちよさに瞼を閉ざしたり、さ迷ったりする視線が合わさる度、ユースタス屋から蕩けそうなキスをしてくれる。
唇を食むだけでは足りず、濡れた舌先を触れさせて絡み合う。
ずくずくと、下肢に重みを増していくような煽るキスにくらくらと目が回りそうだ。
搾るような体内の動きにも翻弄されて大きく息を吐く。
ユースタス屋の鼻に掛かった細い喘ぎ声。
慣れた行為でもユースタス屋が自然に射精するのは難しい。耳元に喘ぎで途切れ途切れになる言葉が少しだけ羞恥心を含んで囁いてくる。
熱を孕んだ欲を掌に納めて少しだけ荒っぽく擦った。
気持ちいいと、快感に没頭した譫言を吐き「ロー」とおれの名前を呼ぶ。
嬉しさと愛しさと、このままユースタス屋が泣いてしまうまで腰を穿ち続けたいと思うほど暴力的な感情が胸を一杯に満たして、ユースタス屋に当てつけるように欲を放った。
掌と二人の腹を濡らす迸りを見届けて、お互いの息が調うまで暫く抱き合った。
「ん…はは、お前の汗落ちてきた」
「え、悪い」
「や、べつに……きょう、ちっと暑ィもんな…」



ぽそぽそととりとめのない会話を楽しみながら、雰囲気に任せて再び身体を蕩けさせた。
お互いに焦らしながら濃厚な時間を過ごしたので、終わった時には逆上せたようになっていた。
微睡みそうなユースタス屋を会話で引き止めながら翌朝困らない程度に綺麗にしておく。
身体のべとつきがとれてユースタス屋もひと心地ついていた。
横になりブランケットを被るユースタス屋は眠そうにゆっくり瞬きをした。
心地よい気だるさはあってもおれはまだ目が冴えていて、ベッドに腰掛けながらブランケットの上からそっとユースタス屋の身体を撫でる。その間にもユースタス屋は意識を手放していた。

寝たかな…と、薄明かりに照らされるユースタス屋の顔を覗きこんだ。
そう言えば、炊事台の電気も消さなければ…と立ち上がる。
ついでとばかりにテーブルに置いていた煙草とライターを拐って換気扇をつけた。
深く吸い込んだ煙草がこれ程旨いのはこの時だからこそだろうな…と、ベッドの上の膨らみを眺める。
換気扇の音、煩くねェかなと思いながらもゆっくり煙草を吹かすのを止めようとは思えなかった。
染々と、幸せだな…とのろけてしまう。
「……、…」
「ユースタス屋?」
「あ、…なんだ…たばこ吸ってんのか」
寝たと思っていたユースタス屋が急にもそりと動き、頭を動かした。
どうしたのかと声をかけると眠たげな声が少し安堵を含ませる。
「……べつに…かまわねーのに」
眠たいからなのか、小さくてくずついた声音に聞こえる。
なにが、と聞き返す前に煙草のことだと察しがついた。
まだ他にも呟いているらしいが換気扇の下にいることと、小さくて不明瞭なボヤきは聞き取りにくくて「電気消すついでにと思って」と返事をするに止めておいた。

ユースタス屋の眠りを妨げるのも悪いのでまだだいぶ長さのある煙草を諦めようと考えていると、ブランケットの中からユースタス屋が手を出した。
「…ん」
「うん?…水?」
問い返せば違うとパタパタ手を振り、それを寄越せとハンドサインだけで物を言ってくる。
フィルターを叩いて、煙草の火の先を灰皿の縁で削ぎ出来る限り灰を落としてからユースタス屋の手に吸いかけの煙草を差し出した。
指先に煙草を掴まえ、起き上がったユースタス屋は軽く一口吸い込みため息を吐くように煙を吐き出した。
その姿を見届けつつ換気扇と小さな明かりを落とす。
ユースタス屋が煙草を吸うと、煙草の先が燃えて赤く灯るのを目印にして灰皿を手にベッドに腰掛ける。
元から部屋が薄暗かったので暗闇にも直ぐ目が慣れてある程度輪郭は見えていた。
「昼はどっか食いに行こうぜ」
「ん」
「昼からの方がいいだろ?」
「んー…だって起きれねェよ…たぶん。ゆっくりしたい」
灰皿を差し出すと灰を落とすユースタス屋は眠くて間延びした返事をする。
なんとなく、甘えた口調に聞こえてユースタス屋を甘やかしている気持ちになるから眠気を孕んだユースタス屋との会話は貴重だ。
「わかった。昼前には起こすけどそれまではゆっくり寝てくれ」
「おう…」
吹かしただけの煙草をおれに返して、ユースタス屋は欠伸をしながらブランケットに潜った。眠たげな視線がこちらを向いてるのに気付きながら、ユースタス屋の吸い残した煙草を吸い、灰皿の中でしっかりと揉み消した。
他所を向いて煙を吐き出し、ユースタス屋の隣に身を寄せる。

「おやすみ」
「ん…おやすみ」

また、あした



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いつもの休日前夜


   

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