焼き付け絵心(恋心)
「絵描きにでもなりてぇのか?」
「いや?これは趣味だ。おれは建築とか、そう言うの習ってる」
トラファルガーが大学に通い始めて何が変わるわけでもなく、それなりに過ごす日々。
今日は仕事が休みのおれの部屋にトラファルガーが何時ものようにやって来た。スケッチブックと鉛筆を持って…
「なんだそれ宿題か?」
「ふふ…宿題ってユースタス屋。小中学生じゃねぇんだから課題って言えよ」
「どっちも同じゃねーか」
「そうだけどな。でも宿題でも課題でもねーよ。これはおれの落書き帳だ」
「落書き帳?」
ペラペラと捲りある1ページを見せられた。鉛筆で書かれた…ぬいぐるみのベポだった
「…上手いな」
「ふふ…で、これが大学で見つけた面白い集団だ」
「……」
「すげーだろ?珍妙極まりねぇ…宇宙(そら)のお友達を探してるらしくてな。なんかしらんが勧誘されたから丁重に断った」
「あぁ…お前誘われそうだな、なんとなく」
「ユースタス屋おれに謝ろうか」
トラファルガーが特になんとも言わないのでペラペラと他のページも見てみた。
脈絡なく風景や建物、植物、人物動物、映画ポスターの模写…様々なものが描かれ、決ってタイトルと思しきものと日付が入れられていてトラファルガーの意外な一面を見た気がした。
「これ1冊だけか?」
「ん?いや、他にもあるけど」
トラファルガーの部屋に移動して適当に積み重なったそれを渡される。
「これが前のやつで、これが色付けてたりするやつ…」
「結構あるんだな」
「高校んときに描いたのも少し持って来たからな」
「ふーん…、…?…!?」
「どうした?虫でもはさまって……あ。」
しまった。と呟き今更おれの手からスケッチブックを取り上げた。
「…おい、それ」
「違う、違うぞユースタス屋これはその」
「……」
「…頭から離れなくて…」
苦い表現をするトラファルガーの頬が目に見えて赤くなった。
取り上げられたスケッチブックを取り返し、問題のページを開こうと紙をめくるとおれはさらに複雑になり、トラファルガーは身構る。
最初に見たのは、クマのぬいぐるみを抱いて寝るおれの姿だった。
◇◇◇
「気が付いたら描いてた…消したくもねぇし捨てたくもなかったんだ」
俺に怒られる覚悟で話すトラファルガーは珍しく俺から顔を背けクマのぬいぐるみに顔を埋めていた。
絵の日付は俺がクマを抱いて眠った日から数日が経っていてどうやら俺が寝ている所を見ながら描いたのではなさそうだった。
「お前さ…俺に後ろめてぇとか思うなら頼むからちゃんと隠しとけ…複雑過ぎる」
ぱらぱらと流し見ると料理している後ろ姿だとかそんなのまで描いてあって気恥ずかしい。
携帯やらで写真を取られたんなら今すぐ消せと言いたいが…これは捨てろとも言いがたかった。
「ユースタス屋…」
「見なかったことにする。今度からちゃんと退けとけ」
ぬいぐるみを取り、代わりにスケッチブック返すとトラファルガーは少し驚いた顔をしてからそれを大事そうに抱き締めて頷いた。
「あ、トラファルガー」
「ん?」
「この絵、嫌いじゃねーよ」
ある視点から、ベッドの添う壁が描かれていた。
その壁の向こうに俺の部屋にそっくりな部屋が描かれていて何故だか愛しいと思った。
(ユースタス屋モデ)
(やらねぇよ。精々目に焼き付けやがれ)
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トラファルガーの趣味。
写メもしょっちゅう撮るけど写メ撮れなかったり目に焼き付いたりしたのはいつの間にか絵に描いちゃってる感じ。
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