君の部屋もこの部屋も
 



「お前なぁ…いい加減しっかりしろよ」
「だって持ち慣れねぇからさぁ」



トラファルガーはバカだ。そうとしか言えねぇし他になんか適切な言葉があるなら誰でもいい、教えてくれ。

トラファルガーが大学へ通い始めて2週間経っただろうか。
仕事を終えて家に帰るとトラファルガーが共同通路に座り込み携帯を弄っていた。

「何してんだテメェ」
「あ、おかえりユースタス屋」

俺の顔を見るなりへらっと笑い携帯を放るように鞄の上に投げ置いたトラファルガーは立ち上がって抱き付いてこようとする。それを額を押し退けるようにして回避しながらもう一度聞くとまるでガキかと飽きれるような言葉が返ってきた。

「うぜぇから引っ付くんじゃねーよ…ほんと何してんだ、んなとこで」
「うぜぇとか…。何ってユースタス屋の帰り待ってたんだ。鍵なくしたから」
「はぁ?」
「鍵なくした。どっかに落としたのかもな」

そう言って他人事に喋るトラファルガーに溜め息しか出ない

「家に来てどうすんだよ…鍵屋か大家には言ったのか?」
「いや?窓の鍵多分締めてねぇからそっから入ろうと思って。偉くねェか俺」
「…俺はお前の母親になるつもりはねぇ、けどな…戸締まりと鍵の管理はしっかりしやがれ!」

少し強めに頭を叩いてやり反省を促すと呻きながら生返事をするトラファルガーに2度目の溜め息を吐いて部屋に招き入れた。

「結局、鍵どうすんだ?どっちみち呼ばねぇといけねぇだろ」
「んー、最初鍵2本貰ったから合鍵残ってるしそれでいいだろ」
「…」
「大丈夫大丈夫。もうなくさねぇよ」

そう言ってベランダ伝いに自分の部屋に帰るトラファルガーに一抹の不安と嫌な予感を覚えたが、俺は流石に子供じゃねェしいくらトラファルガーでも…とあいつを信じることにした。




「裏切るよなァ…お前」
「俺も俺に裏切られた気分だ」

それから数週間。数週間前と同じ事を繰り返すトラファルガーがいて、付き合わされる俺がいる。

「おかえりユースタス屋」少しだけ笑った顔を強張らせながら、共同通路に座り込むトラファルガーは俺を見上げた。

「………バカだろ」
「いやいや。俺だって少しは学習したんだぜ?戸締まりはしっかりしたから今日は窓開いてねぇし」
「鍵屋来るまで外で待ってろこのバカ」
「ユースタス屋ぁ…」
「ったく…」




◇◇◇


「ユースタス屋これ預かっててくれ」

鍵も出来て数日後。クマのキーホルダーのついた鍵を寄越された。

「またなくしたらたまらねぇからさ…合鍵作ってもらった」
「もうなくすな…あー、いいのか?」
「あぁ。ユースタス屋が持ってた方が確実だし、それに俺ん家もユースタス屋ん家も同じ家みたいなもんだろ」
「お前が勝手に俺の家に来るんだろうが」
「ふふ…ユースタス屋んとこ居心地いいからな」

こうして今日もベランダ伝いにやってきたトラファルガーは定位置のソファに座って自分の部屋のように寛ぐ。
仕事から帰ってまず窓の鍵を開ける習慣が身に着いた俺は本当にこいつには甘いんだ

「…ん」
「え?」
「絶対になくすなよ。なくしたら2度と家に入れてやらねぇからな」

この部屋を借りた時から引き出しに仕舞っていたスペアキーを久し振りに取り出してなにも付いていないそれをトラファルガーに放った。

「これ…」
「なくすなよ」

鍵を握り締めて抱き付いてきたトラファルガーが「絶対なくさねぇ…!」なんて、真剣な顔で言うからきっともう鍵をなくすことはないんだろう。





(でも、窓の鍵は開けてろよ)
(合鍵の意味ねぇなァ…)




----------子供の成長を願うなら何か特別な役割を与えて責任感を持たせるのもいいでしょう。的な?





   

- 39 -

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -