踵をあげて、ズルなんてしない
 



「トラ―…、寝てんのか?」
「ん、いや?起きてるぜ。どーした?」
「買い物行かねェか。日用品買いてェし荷物持って」
「いーぜ」

ソファに長々と横たわるトラファルガーに声をかける。見れば目を閉じていたので、寝ているのかと問うとパチリと片目が開き、視線を寄越してた。そして直ぐにしっかりとした返事が返ってくる。
こうしていつもソファーに寝そべっては目を閉じているが、微睡んで居るわけではなく大抵の場合ただ目を閉じているだけらしい。初めは寝てばかりいる男だと思っていたがそうではないことを一緒に過ごしていくなかで気づいた。
ただ、本当に寝ている時もあるから声をかけて確認するしかないのだが。
立ったまま、ソファーもとい、寝ているトラファルガーを見下ろしていると「よっ」と掛け声とともにトラファルガーが立ち上がった。

「ふぁあ〜」

わざとらしい欠伸をして、腕を上げてぐーっと伸びをした。

「…、お前…」
「んあ?」

目の前のトラファルガーがポカンと俺を見る。今しがた伸びをしたと言うのに脱力した体は直ぐ背が丸まった。

「てめぇは…一時でもシャキッとしてらんねぇのか!」
「いっだ!?」

ついイラッとして丸くなった背中を平手で打った。バチンッと高い音が鳴るが、加減はしたし音ばかりで痛みはないだろう…と、思う。
トラファルガーもいきなり背を叩かれたので少々つんのめって片足を前に一歩踏み出していた。

「た、叩かなくともいいだろ!?」
「あぁ、悪ィ…なんか勢い余ったっつーか…ほら、ちょっとちゃんと立ってみな。しゃんとしろよ」
「…?なんだ…?」

うー、と少し呻いたあと言われるがままにトラファルガーは背を伸ばしてしっかりと立つ。
途端に近くなった視線に、トラファルガーが目新しい物を見つけた時のように目を瞬かせた。

「お…」
「やっぱ、ちっと背が伸びてんな」

出会った頃はこんなに目線が近くなかったはずだ。
付き合い初めた頃にやはり身長差が気になったらしく一度比べたことがあった。
それから、普段から比べることもなかったし、隣に立ってもトラファルガーもだが、おれ自身も常にまともな姿勢でいるわけではないからなかなか気づかなかったが。
一年と少し、トラファルガーはまだ背が伸びていたらしい。

「マジか!」
「おれが縮んでなきゃな…。腰とか背中が伸びねぇのかなァ?座ってばっかだし」
「縮んじゃいねぇだろ…ぬか喜びさすようなこと言うなよユースタス屋ッ」

あまりにも嬉しそうな顔をするトラファルガーに、何故か悔しいような気もしてくる。
おれ自身、身長差は気にしていないがどうして身長と言うのは追い付き追い越されそうになるとこうも悔しいのだろうか。
追い付き追い越そうとする方はただ少しの伸び幅でも嬉しそうにする。
そんな風に思うからこそ面白くないので少々意地悪なことを言ってやった。
トラファルガーもでかくなったのだろうが、自分の姿勢の悪さも多少なりと…と、胸を張るように背を少しだけ反らすと背中の骨が鳴った。
こんな小さいことで張り合おうとするなんて我ながら子供染みている。

「これは180きたかもしれねぇな」
「お前、前はいくつだったんだよ」
「178.5」
「0.5なんて測るときの誤差に依んだろ」
「フフ…ユースタス屋。よほど認めたくねぇらしいな…ユースタス屋は?」
「186…去年の会社の健康診断の時だな。でも高校から変わってねぇよ」
「6cmか…」
「バァーカ、諦めろ。もう伸びやしねぇよ…これで終わりだろ」
「いいや、わかんねぇぞ…寝る子は育つって言うだろ?」
「子供じゃねぇんだ、それに不規則でだらしねぇ生活してる奴がなにいってやがる。今伸びたのだってお前…奇跡だろ。お前よくそれだけ身長伸びたな」
「学校の授業中もよく寝てたからな」
「良いことじゃねぇんだから胸張んな馬鹿。上手くもねぇ」

皮肉交じりに額を軽く小突いても、嬉しさが勝っているらしくへらへら笑うのみだ。

「おら、とっとと買い物いくぞ」
「牛乳買ってこようぜ、牛乳。あと今日から飯多目に食う」
「だから馬鹿かって…肥えるだけだぞ、運動もしねぇのに。横にでかくなる気かよ。おれの体重でも追い抜くつもりか?」
「ユースタス屋体重何キロだ?」
「68…調子いいと70触る、かな?」
「…!?うそぉ…」
「うそぉ、って…嘘じゃねぇよ。お前は?」
「64前後…」
「普通に標準だな」
「ユースタス屋とそんな変わらねぇのか…」
「なにショック受けてんだ。…行くぞ」

体重差が思ったよりもなく、トラファルガーはさっきと一変しショックを受けたらしい。
見た目ほど痩せではないトラファルガーは、だらしない生活をしてる癖に羨ましいものだ。

「ユースタス屋、意外と体重ねぇな…」
「高校ん時は70なんて余裕で越えてたんだけどな」
「へぇ?なんで今70切るんだ?」
「運動しねぇからだろ…筋肉が痩せちまってさ。学生だと学校行って運動してバイトして…動くから飯も結構食うだろ?けど今仕事行ってそんだけだしな」
「…?筋肉…あるだろ?腹とか割れてんじゃん」
「服捲んなっ…いや、もっとまだ厚みが…太股とかまだ筋肉張ってたんだけどよ」

確かめるようにトラファルガーにシャツの裾を捲られるが、出かけの玄関ですることではない。
腹を触ろうと伸びてきた手を叩き落としてやる。

「ふぅん…や、でもユースタス屋良い身体してるよな…」
「舐めるように見んじゃねぇよ気持ち悪ィな」

ジロジロと無遠慮な視線を寄越すその顔の、真正面に張り手をするとくぐもった声が上がった。

「ふがっ」
「ったく…、おい!?こらっ」
「〜、恋人に気持ち悪いとか言うなよユースタス屋…それにちょっと触るくらい」

むくれた面をしながら背後から抱きつくトラファルガーに胸元や腹回りを撫でられてげんなりしてくる。
玄関で、目の前には外に繋がるドアがあると言うのに。
買い物に行くと言ってからいつまで経っても行けやしない。

「…テメェ、せめて後にしろよ…買い物に行けねぇだろ」
「後でならいいのか?」
「良いも悪いも…今更じゃねぇか?昨夜だってお前」
「昨夜は昨夜…んー…、そう思って触ると確かに身体はでけぇけど薄いな」
「……お前、骨太だよな…」
「そう?」
「ん……、なぁ。ホント…あとにしろって」

耳の後ろや首を食む唇が痕を残さない程度に吸い付いてくる。
躰に触れればそういう方向に流れ着くのもわからなくもないし、昼間だから嫌とかではなく、昨夜もヤったから嫌…とかでもなく……切実な問題があるわけで。

「ボディソープ切れたんだって…お前、後で一人で買いに行くか?」
「あー…」
「今日、ドラッグストア安売りなんだぞ。トイレットペーパー、シャンプーも買ってあと…」
「え、そんなに?」
「傍のスーパーで米も5キロな。食うんだろ?沢山」
「………買い物から行きましょうか、いますぐ、一緒に」
「お前が買ってきてくれるんなら、買い物は後でもいいんだぜ?」
「悪かったから意地悪言うな…」
「じゃあいつまでも腹に手ェ回してんじゃねぇよ」
「いててててて!」

服の上から臍を弄る手の甲を抓みながら引きはがすと耳元で煩く騒がれ、煩さのあまりに更に肘で引っ付く体を押しのける。
漸く背中から離れたトラファルガーに目もくれずにやっと玄関のドアを開いた。

「鍵締めてさっさと来いよ!」
「待て…、おれなんも準備できてねぇ」

そんなの知るかと無視をしてさっさとアパートの階段を下っていく。2階に下るまでに小走りで来たトラファルガーが追い付いた。
下まで降り切って、平坦な道を並んで歩く。
いつもより、背筋を伸ばして隣を歩くトラファルガーを横目で見れば腹立たしくも揚々とした顔をしていた。

「なぁ…」
「もう伸びねぇぞ」
「…。まだなんも言ってねぇだろ」
「じゃあなんだよ」
「…、………。…伸びねぇかなぁ……?」

結局は、目的のドラッグストアまで延々と身長についてトラファルガーはぐずっていた。
そんなにおれの身長を越したいのかと思う。でも、おれはそんなの御免だと思うわけで。
(過ごしていく内に、お前が年下だってこと忘れそうになるから…身長くらい)






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出会った頃より大人になるローにちょっと淋しいと思うキッド。
高校卒業したばかりのローと比べたらやっぱ内面も成長します。それに加えて背まで伸びるとか面白いけど、キッドにとっては複雑です。


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体格のいいキャラが好きで、原作キッドの身体つきは大好きですが、現代パロとか普通を意識すると原作キッドさんは洋服買うのも大変そうになるので、いつも隣りににおいてはコンパクトな感じで。
胸囲があって腰が括れているメリハリボディは健在ですが筋肉は薄いです。
ローは骨太で筋肉が重たい至って普通の身体。脱げば以外に筋(すじ)張った筋肉質だなと思いますが、着やせするタイプってことで。

2人とも食は食べる方ですが、キッドは太りにくく、ローはガッチリになります。
ローはまだ若いので今は平気だけど…このまま幸せばかりを喰らっていると将来恐ろしいことになるんじゃなかろうか。


   

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