転がっていた指輪を拾い上げると俺の中指にハマる指輪と重なって小さな音を立てた。



ユースタス屋の後に見覚えのある銀が転がっていた。
それは俺の右手の中指にあるものと同じものだ。
初めてだった…誰かに何かを送ったのも揃いのものも。
ただ柄にもなくて、ユースタス屋の左手の小指にハメるのが精一杯で、緩いそれを勝手な言葉で「外すなよ」とそこに止どまらせていた。

思えば明確な言葉も何もなく俺たちはこの輪のように緩い関係で、俺はユースタス屋を自分のモノだと思い込んで、俺自身もユースタス屋のモノだと思い込んでいた。
それでいながら俗に言う浮気を楽しんでいた俺は、愚かだ。
この輪を贈って俺は身勝手に安心していたのかも知れない。

そう考えたら自分から離れておいてユースタス屋に捨てないでくれと縋りついた自分が酷く滑稽で、自嘲した。




「なぁ、ユースタス屋」

少しでも、ユースタス屋からの信頼が欲しい。
この輪が、まだ…ユースタス屋を繋ぎ止める術を持っていたら。
少しでもその意味と決意が伝わればと


「緩くて…外れた」


鼻を啜りながらユースタス屋は言う。
小指には余るこの輪…当たり前だ。大分サイズが違うのだから。

手を取って、俺はその輪を今度こそ誂えたその場所に滑らせる。

「今度は抜け落ちたりしねぇから…」





ひやり、と纏る銀がゆっくり体温に馴染んでいく。
目の前で、トラファルガーが自身の指輪を別の指に差し替えていた。



(次にこの指輪が地面に転がった、その時は)
(そんな日が来ねぇように努めるさ)





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