「捨てないでくれ…」


すぅ、と勝手に一筋涙が頬を滑って行った。
「テメェが俺だけなら、俺もお前だけだ」
「あぁ…。」
「そうじゃねぇなら…お前なんか、必要(いら)ねェ」
口から出た言葉は本心だ。トラファルガーが必要らないわけではないが、俺だけを必要としていないトラファルガーに縋り付いて居られるほど図太くも強くもない。見ない振りももう出来ない。
けれどそう思いながらもトラファルガーが俺を要らないと言わない限り、俺はずるずるとこの関係を続けて行くんだと何処かで気付いている。
だからさっさと、その場限りの謝罪と約束聞かせろよと、ねだりたい。
俺はそれを受け入れて馬鹿な振りをして、……一時の幸せを願いたい。

そう思いながら女の匂いのするトラファルガーの胸板を押し返すと抱き締める腕に力が籠った。
「悪かった…」
「…」
「捨てないで…必要らねぇなんて、言うな…」

お前に捨てられるのかとおもったら怖くなった。


上ずった声で言われたその言葉に、急に左手の小指の軽さに手が震えた。
自分の後方に、転がっているだろう銀色の輪。
勝手に抜け落ちてしまいそうだったそれを気に掛けながら、意地でも指に付けていたそれを外したのは先程の己自身だったのに…案の定、惜しいと思っている。
捨てる気なんて更々ない…ただ外してみただけ。
そう、ただ…
少しだけ…浮気心を


トラファルガーが俺の後方の床に転がる指輪を見つけた。
抱き締めていた身体を離して確かめれように俺の左の小指を撫でる

(指輪…緩くて外れた)

嘘をついた。
本当は自分で外したのだけどいいだろう。
それはいつだって自分から抜け落ちて俺から離れて行こうとしていたのだから。






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