追ってくるだろうか。

汗が冷えて気持ちも心臓も落ち着いた。
それまでの間、何処に焦点を合わせる訳でもなくただボーッとしてた。
そして頭を過ぎった期待に少しやるせなくなる。転がっていった指輪…外してはみたが捨てる気なんて更々無い。
ただ今すぐ拾って指にハメ直すなんてことはしたくなかった。
「…ふー…」
泣くと言う行為は疲れる。瞼は重くなるし塩分混じりの水は頬をべとつかせるし鼻も垂れるし。
ぐす。と鼻を啜って引っ張った袖で頬や目元をゴシゴシと擦る。また、溜め息がでた。
「ふー…。…はぁーあぁ。」
わざとらしく声に出したらなんだか面白かった。
馬鹿らしくもあった。
わざわざ傷付く自分が滑稽だ。
そんなに好きだったのか…あいつのことを、俺は。
これで、今すぐでも今日中にでもあいつが謝りにきたら、俺は泣くよりも"したり顔"で笑ってやればいいんじゃないのか?
俺の所に、アイツが戻ってきたら…打算的な考えでもってして俺は……
現実逃避な考えにまた胸が苦しくなり一度緩み切った涙腺が再び水を溢れさせようと目論む中、ピンポーン、と軽快な呼鈴が鳴る。
馬鹿らしくも期待に騒ぐ胸を押さえて暫く立ち尽くす。
ピンポン、ピンポーンピンポンピンポンピンポンピンポン…
ダンッ!

連打される呼鈴に確実に来訪者はアイツだとわかる。
痺れを切らしてドアを叩き始めたアイツ。
因みに鍵は開いてる。
「ユースタス屋…居るんだろう」
勿論居る。やっと呼鈴を鳴すのもドアを叩くのも止め大人しくなったアイツに胸の中で返事をしながら、ドアを開けた。
左頬にくっきりと手形を張り付け、頬に首筋に汗の玉を浮かべるトラファルガーがズカズカと押し入って来る。
荒々しく閉じるドアの音がトラファルガーの言葉と重なった。


まんまと傷付いた俺は



強く抱き締められた俺はその言葉をむざむざ聞き逃すような事はなかった。
「キッド」
許したはくない。
なのに黙って涙は落ちて行く。





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