知らない振りをしていたら、それで上手くいくと知っていたから。

誰でも、好きな奴の1番でありたいと思うのは普通だろう。
俺も、あいつの1番は俺だって思ってたし、思っていたかった。信じて疑いたく無かった。
俺にはあいつだけだったから…。

けど、いつだったか…あいつが俺の他に女のことも相手をしてるってことを知って、かなりのショックを受けた。
浮気してるのかと責め立ててやりたかった、けど…ふと。
浮気の相手にされてるのは…俺なんじゃないのかって、思った。
女の身体の柔らかさの方が抱き心地だって連れて歩くのだって…良いに決まってる。
そう考えて女々しくも涙が浮かんだ。そんなとこだけ女を被っても仕方ないのに…。

あいつは変わらず俺の所へと来た。
途絶える事も減ることもない電話やメール、甘い言葉の数々がズルズルと関係を保たせる。
俺は…臆病にも何も切り出せず知らない振りをし続け、吐かれる嘘にはノッてやった。
それで、俺があいつの1番なんだって思い込みたかった…
「…く、…っ…」
クッ、と喉が引きつり、呼吸が乱れる。
半ば走るようにして自宅へ駆け込むとボタボタと涙が溢れ出た。
「はっ…ッ…ぅ、くっ…」
オモチャみてぇなもんだけど、と柄にもなくはにかんだあいつが寄越した指輪は揃いだから外すなとあの日から左手の小指に或る。
水仕事をする度に抜け落ちそうになって、何度焦っただろうか…
その度に、此を寄越したあいつを想いながら。

右手で軽く固定してスライドさせた。
つっ掛かりもせずに呆気なく指輪は外れ、震える指先から落ちた銀はことりと落ちてくらりくらりと回って止まる。

知らない振りも罪だと…

知っていることを、知られた…。
知らない振りはもう通せない。




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