バージルが拾ってきた少年を見てこいつは重傷だな、とか両手を拡げながら言うダンテ。 バージルの部屋のベッドに少年を寝かせ双子があれこれ考える。毒が回ってるのをどうにかしなきゃ始まらないと渋い顔でもらすダンテにバージルは暫し考えおもむろに部屋の外へ。 グラス片手に戻ってきて、無色透明の入ったグラスを煽り少年に口づける。 「ピュウッ」と目を丸く見開き口笛を吹くダンテを後目に口移しで数度それを飲ませる。 「…っく!」 「あんたそれ聖水を普通の水で割ったのか?」 低く呻くバージルにダンテは苦笑してやれやれと首を振る。 魔帝の配下にされていたせいでより悪魔に近くなったバージルには聖水は毒にもなる。 唯の水で薄めているとは言え身体は重く、臓腑を焼くような痛みを感じていた。 「俺がしてやってもよかったけどな」 ダンテも半魔ゆえ聖水が効くがバージルよりは効果は薄く、更に水で薄めるのだから症状は軽いだろう。 「・・っは、ゥ、アァ!」 双子が話していると今まで毒により昏々と眠っていた少年がふと目を開け、毒のせいで体温が上がっているのか上せたように潤んだ瞳が視線を彷徨わせる。 「…よぉ、目が覚めたか?」 ひら、とキッドの目の前で手を振り声を掛ける。バージルも覗き込むように見下ろした。 「…、」パク、と唇が動き何かを伝えようとする。「?なんだ…」「どうした」双子そろって少年を見、その掠れた声に交じる言葉を聞き逃さないように耳をそばだてる。 「…らに、腹に!なにか……い、るっ」 苦しげな言葉を言い終える前に素早くダンテ動き掛けていたシーツを剥ぎ、少々乱暴ともいえる手つきで服の裾を鳩尾までまくり上げた。 左の脇腹に近いあたりに毒虫に刺されたようなどす黒い赤紫色の痣があった。 「…こいつは…」 「倒した悪魔は生物に寄生する植物のような奴だ。これは種子が芽を出したのかもしれん」 うぞ、と皮膚の下に何がが動く気配がる。浅い呼吸を繰り返し胸を上下させる少年は苦しいのか、痛みがあるのかシーツを掴み玉のような汗を浮かべていた。 「参ったな…これがあんたなら、すぐにでもこいつ(リベリオン)で掻っ捌いて中身を引きずり出すんだけどな」 「…深いな。臓腑に居着けば厄介になるぞ」 「あんたの血でどうにかならねェのか?回復力アップとか一時的に悪魔化とかってさ」 「出来るわけないだろう。血の契約など――…」 「その顔、なんか手があるってことだな」 「…確証はない」 「OK.上等、待ってても悪魔化しちまうか死んじまうだけだぜ。おい、聞こえただろう坊主」 「う、く…」 「死なねぇさ。仏頂面で愛想はないけどこいつは上手くやるから安心してな」 「……っ、ぅん…!」 「…、回復力は上がらん。だが、深くにいる悪魔をできる限り体の表面に浮き出すことはできるかもしれん。それでもやることは人間の身体にはリスクが高い」 「けどぐずぐずしてればリスクが高いだけじゃ済まないぜ。それで?どうするんだ」 「身体のごく浅い、表面にまで出てきたら悪魔が暴れて腹を破く前に閻魔刀で腹と悪魔を同時に斬る。悪魔を皮膚の外までには出せないから傷を最小限にするにはそれしかない。」 ダンテに閻魔刀を寄越し指でダンテを呼ぶ。近寄ってきたダンテの髪を鷲掴みそして首に食らいついた。 「いっでぇ!?」 「………ふん、このくらいか」 「っ!いきなりなにしてんだよ!?」 「少々魔力を血を抜いた。無駄に多い血を多少抜いたくらいではどうもあるまい…始めるぞ。タイミングを誤るな」 「だからっていきなりは無しだぜ、ったく…あんたも、しくじんなよ」 少年の枕もとに座るとバージルはゆっくりと体を抱き起し、上背を支えた。涙の幕の張る瞳を閉じさせると先ほど聖水交じりの水を飲ませたように口付ける。 「ン…」 今は意識があるので、同性に口づけられたことに戸惑い少年は動きの鈍い体を捩じらせる。 が、すぐにその様子は一変し苦しげに呻き暴れ出す。 「グ、ぅーっ!ァ、ぐ」 バージルは顔や頭を抑え付けるように抱え込み、ダンテから奪った血と魔気と己のそれらを流し込む。 少年の暴れる手がバージルの頬や、抑える手を引っ掻き傷をつけるがそれを気にも留めずにバージルはただ少年の腹部から目を離さず意識をそこへ集中させた。 「んん゛−−−−−−−!」 「まだだ、もう少し」 「ヒッ、ア!んむっ、ン!うう!」 「バージル!」 「ゥアアッ!!」 音もなく一閃が走り、醜い断末魔と鮮血が溢れる。 すぐさまバージルの手が傷口を抑え込みダンテがシーツを引き裂き止血に手を貸す。 「思ったより血が多いぞ、バージル!」 「おそらく内部に張った根が無理に剥がされたせいだ」 「チッ…簡単に治らねェってのは面倒だな」
*** 「…、イッ…て、…はぁ……?」 少年が目を覚ますと気怠さと腹部の痛みに襲われた。 視線だけぐるりと動かしてみるが、ただ見知らぬ部屋だと言うことしかわからない。 カチャ、と控え目な音がする。コツコツと歩く音がして、少年が寝ているベッドに影が差した。 「……よう。目が覚めたみたいだな」 弧を描く唇が安堵のため息をついた。銀の髪を揺らして少年の顔を覗き込む男に少年は見覚えがあり口を開く。 「―あ、っ…けほっ、ケホッ」 「ちょっと待ってな」 水差しからグラスへ半分ほど注ぎ、少年の口元に当ててやる。乾いた喉に常温の水だったが心地よく染みわたっていく。 グラスにもう半分の水を飲んで少年は掌をかざした。 「も、いい………あり、がと……」 喉の渇きも取れて言葉はスムーズに出るが、少年はまともなお礼を言うのに慣れてないのかどこか気恥ずかしそうにしている。 それに銀髪の男はフ、と笑うと傍らのイスに腰を下ろした。 「痛むか?」 「あ?」 「腹。…もしかして覚えてないか?」 「…ああ、いや…なんとなく」 「そうか。ま、傷は治りはするが今はまだ大人しくしておくんだな。開いちまうぞ」 ゆっくりと起き上った少年はシーツの下の裸の上半身を見る。腹部に幾重にも巻かれた方包帯があった。 「こっちが巻き込んじまったみてぇだし、治るまでは面倒みるさ…あいつがな」 「あいつ?…赤い目の、やつか?」 「そ。赤い目のがバージル。俺はダンテだ」 ん?とダンテが少年に目を向ける。その意図することを理解し少年は口を開いた。 「……キッド」 「KID(坊や)?」 「そう呼ばれてたから。母親はユースタスって…俺と同じ赤毛の娼婦。その、子供」 「…悪い。」 「別に…もう、死んじまってるし。俺みたいな奴はいっぱいいるだろ」 ばつの悪そうなダンテにキッドは首をかしげる。このスラム街じゃこんな話は同情も買えない茶飯事だ。自分の出生も知らず生きてるやつもいるこの世の中。 「なぁ」 「ん?」 「俺の腹に居た…あれ、なんだ?赤い目の奴は、あの晩、何を殺してたんだ?」 「…悪魔ってのを信じるか?オカルトめいた話だが、現に存在するのさ…俺は、俺たちはその悪魔を倒すのが生業ってつだ」 「…あの、細い剣で?」 「そうだな…ま、武器はいろいろだ。バージルは専らアレでだけどな」 「……ふぅん」 「お前、なにか…」 コンコン、とドアを叩く音にダンテの声はさえぎられる。どちらとも返事はしなかったが、返もとより事を期待していなかったようで勝手知ったるとばかりに部屋に入ってくる。 とはいっても律儀にドアを叩いたがこの部屋は彼の部屋なので本来なら気を必要もないのだが。 「バージル」 「…目が覚めたなら教えればいいだろう」 「悪かったよ。そんなのあんたは気にしないと思ってさ」 バージルがいくら巻き込んだとはいえこの少年…キッドに構うことにダンテは珍しいと思いながら軽口を返す。そんなダンテを冷めた目で見やってからキッドへ向いた。 バージルの手には真新しい包帯などが握られている。 「傷は痛むか?」 「…少し」 「悪かった」 バージルの口からあまりにも素直な謝罪がでてダンテはなぜだかふらつき、たたらを踏んだ。昔より丸くなったとはいえだ。ダンテはよくわからない恐怖を感じていた。 素直で優しい兄が怖いなどと。 「バージルだ」 「…ダンテに聞いた。…俺は、キッド」 キッドは視線を泳がせ腹に掛るシーツを握ったり離したりして落ち着かないようだ。 「キッド?」 「……いや、なんも」 バージルが傷がひどく傷むのかとキッドの顔を覗き込めばそれだけキッドは顔を背ける。 バージルはいぶかしむが、ダンテは見当がついた。 「バージル。あんま顔近づけてやんなよ」 「?なぜだ」 「恥ずかしいんじゃないか?」 「恥じ?」 「切羽づまった状況で、あれしかやり方がなかったっつってもな…」 「――…ああ」 「ーっ!」 「ノーカンだ。キッド、ノーカンにしとけ。悪魔に噛まれたって思えよ」
男にキスをされ、この世の無秩序を知る初心ではない少年も流石に気恥ずかしく、バージルと自然な会話ができるようになるまで少し時間がかかったとか、かからなかったとか。
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DMC1双子×キッド…つーか双子とキッド。 いや、双子といっそ男夢主(ドリーム)のような…。 この後、双子からキッドが食われるのも考えているのですが、気が向いたら書く方向で…。 バジキド寄りですが、ダンキドも捨てがたい。
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