ここのところ毎日のようにマコトくんから聞かされる「せーいち兄ちゃん」の話。もう耳にたこができてしまいそうなくらいだった。「せーいち兄ちゃん」のことを話すときのマコトくんの顔はきらきら輝いていて、ものすごい崇拝ぶりだなと思う。それと同時に、この少年をここまで懐かせた教祖様はいったいどんな奴なんだろうかと気になりもした。そしてマコトくんの話を聞いていると自分がものすごく惨めな気持ちになるのは気のせいだろうか?



「せーいちにいちゃんはすごいんだ!ほんとだよ?!」
「いや、別に疑ってないよ…」
「いろはねーちゃんより優しくてね!いろはねーちゃんよりかっこいいし美人だし!」
「………」
「頭もよくてーテニスがすごいんだって!オレもテニスやってみたいなー。そしたらせーいちにいちゃんみたいになれるかな?!」
「ああ…なれるんじゃない…」
「ねーちゃん!せーいちにいちゃんは「きっとなれるよ」って言ってくれたぞ!」
「きっとなれるよ」
「えー…なんかちがう…」



無茶いうなよ!と叫びたかった。
話を聞く限り、せーいち兄ちゃんとは容姿端麗で頭脳明晰で運動神経もバツグンでさらに聖母のような優しさも兼ね備えているらしい。どんだけ完璧人間なんだよ。それに対して私は容姿普通(だったらいいな)頭脳普通(だったらいいな)運動神経普通(だったらいいな)で、おまけに年下の男の子相手に本気出す程度の優しさである。まさに月とスッポン。いや、私なんてスッポン以下かもしれない。そんな私にせーいち兄ちゃんのようになれと?たった今心の中でのせーいち兄ちゃん呼びも恐れ多くなってきたところであるというのに無理だよ!と目の前の少年に言ってやりたかった。でも無理。なぜかって、マコトくんの目が本気だからだよ。



「オレねーちゃんにせーいちにいちゃんみたいになってほしいって思ったけど…」
「けど?うんそうだよ無理だよ私には…分かってくれたんだね…」
「いろはねーちゃんは、美人じゃなくて、かわいいから今のままでいいと思う!」
「え?…ああ、うん…へえ、そう…ですか………」



恥ずかしすぎて死にたくなった。