「ナマエ、ボクは外の世界へ行くんだ。それで、トモダチのために……」



そう言って話すNさまの声を、笑って、黙って、ただひたすらに聞き洩らすことのないようにと頷きました。だってこれは、Nさまの最後のお言葉。彼が旅に出ることとはお別れの意味がこめられているのですから。もちろんNさまはそんなこと知りません。知らないで嬉しそうに話しているのを笑って過ごしている私はきっと最低な女なのでしょうね。でも私はそんなNさまの理想の話を聞いていたいと思ったのです。せめてもの、最後のわがままでした。Nさまはお優しいからそんな私のわがままにも微笑んでくれるはず。私はNさまの瞳の中に、決意に揺らめく青い炎を見ました。ああどうか、Nさまにご加護を。私は信じてもいない神に願いました。どうか、まっしろで純粋な彼に、外で新しい出会いがありますように。それが彼のきっかけとなりますように。それが、Nさまの家族であった私の心からの願い。



「帰ってきたら、きっと、ナマエも幸せな世界でボクと生きよう」



なんて素敵な世界でしょう。私も見てみたいですNさま。








「さあ、もういいでしょう?」



Nさまがついに外へと旅立っていって、その背中が見えなくなってもなお見つめ続ける私に声がかかりました。振り向くと、そこにはNさまの父といえる存在が立っていました。私は、Nさまの家族は自分だけだと思っています。心でつながっている家族。それはたとえ離れてしまっても変わらない真実。



「アナタも、新しい世界へと旅立つときがやってきたのです」



死んでしまったとしても、変わりませんよ。
Nさま、強く生きてください。きっとあなたには大切な大切な、かけがえのない存在ができるでしょう。それがあなたを救うことでしょう。あなたにはそれができるのだから。どうか、どうか、気付いてください。その存在に。そのつながりに。私はいつでもあなたを見守っています。こんなきれいな青い空が広がる日には到底似合わない、悪意のかたまりが私をつらぬく。パーンっとはじけた音が空に吸い込まれて、吸い込まれて、私もいつかあなたみたいに旅に出たいなって思ったのです。