私はすごく嫌な子なんだろうなあと思う。だって友達の門出を素直に祝えないどころか、おめでとうの言葉が飛び交う中彼らと目があった私は弾かれたように飛び出してきてしまった。みんなはおどろいたような顔をしていた。ただひとり、トウヤをのぞいて。明日みんなはポケモンといっしょに旅にでる。でも私は無理。私にできないことをみんなは出来るから、素直に喜ぶことができない?ちがうちがう。私はさみしくて、そんな子供みたいな理由で、彼らを、彼を、否定した。自分がショックでどうにかなりそうなばっかりに。そんな自分が嫌で嫌で、嫌で嫌で嫌で、こんな汚い私はもう彼らの輪に入ってはいけないのだ。優しい彼らの中に、私みたいな嫌な子が――
「っ待てよ!」
無我夢中で走っていた足が後ろからぐんと腕を引かれて急停止した。それでも私は振り返らない。声でだれだか分かったからだ。もうこれ以上、嫌な私になりたくない。結局は自己防衛が第一で、ムカムカして、つい大きな声で、強い口調になってしまう。
「離してよ!」 「離したらおまえ、走ってどっか行くだろ」 「い…行かない!」 「うそ」 「う、そじゃない…!」
彼、トウヤに掴まれた腕を拒むようにぶんぶんとふってみるがびくともしない。ほら、やっぱり。彼と私とはこんなにも違う。もう立っている場所から遠く離れたところまで離れていってしまうのだ。そうしたら私はひとりぼっち。お腹からなにかがこみあげてくるような気持ち悪い感覚におそわれて、私の目に涙の膜がはった。でもトウヤの前で泣くのは悔しくて、唇をかんだ。するとトウヤは腕の力を少しゆるめて、言った。
「絶対もどってくるから」 「いつ」 「いつか」 「いつかじゃわかんない。すぐじゃないとやだ」 「そう言うなって、絶対帰ってくるから、チャンピオンに勝って」 「そんなの…何年もかかるじゃんか」 「すぐだよ、すぐ。だからチャンピオン様の帰りを待ってろよ?」
いろんな話聞かせてやっからな。そう言ってすでに涙で顔がぐちゃぐちゃな私の頭を撫でるトウヤ。ああ彼はこういう人だったなあ。私は目を閉じて彼の掌のぬくもりを忘れないように感じる。昔からトウヤは私の子供みたいなわがままにも怒らずに聞いてくれて、私のことを嫌いになったりなんてしなかった。口では偉そうなことを言っていても、本当は優しくて強い心をもっていて、絶対に嘘はつかない。それならば私はあなたを待つ人間になろうと思った。私にできることがあるなら。私はトウヤのぬくもりを感じながら、彼がチャンピオンに勝って帰ってくる姿を想像してみた。まったく想像できなかったけど。そういうものだよ、未来って。
次の日、カノコタウンに穏やかな風が吹き抜けた。私は笑顔。
(待ってるよ、いつまでも)
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