「どうしよう、私、どうしよう」
「は?なに?」
「ふう…もうあの人のことが忘れられないの」
「……は?」



そう言って溜息をつきどこか遠くのほうをうっとりと見つめるナマエを見て、レッドは思わず一歩後退した。こんなのまるであれじゃないか、恋する乙女ってやつじゃないか。ナマエが見つめている方向には何処までも続いていそうな灰色の景色しかぼくには見えないけれど、彼女にはきっと見えているのだろう。その、思い人というやつが。レッドはぐっと眉をひそめた。シロガネやま名物のやまない吹雪がやけにしみた。



「あの人のことを思うと…動悸が…!ゲボッ」
「(えええうそだろそこまで)だ、大丈夫…?」
「大丈夫よレッド。これもあの人への愛の試練なの!」



ここまでくればもう末期である。レッドは彼女の背をさすりながらもひそかに頭をかかえた。レッドとグリーン共通の幼馴染である彼女は、グリーンがいそがしいときは彼の代わりにここへ足を運んでくれていて、今日はそのうちの一日であった。バッジをひとつも持っていない彼女がここへこれるのは不思議だが、まあ来てくれているのだから細かいことは気にしなくてもいいだろうとレッドは満足していた、のに、なんだか裏切られた気分だった。こう、仲のいい友達をとられた子供のような、そんな懐かしい気持ちがレッドの中にはあった。はたしてそれが真のものなのかは本人以外は知ることもない。



あんまりにもナマエが必死なもんだから、レッドの機嫌は一気に急降下して、半ば投げやりにこう言った。「じゃあその、あの人とやらに会いに行ってやれば」と
するとどうだろう、彼女はがばっと顔を上げ、ぼくを指さした。



「それだ!!!」
「(ビクッ)」
「レッドなんかに会っている暇があるならあの人のもとへ行けばよかった!」
「なんかって」
「こうしているあいだに、あのミナキとかいうクソボケに先を越されてしまう!」
「………(あれ)」



「待っててね!スイクンさまー!!」



そう叫ぶと名前はボールからリザードンを出して飛び立っていった。
ていうかあいつ、リザードン持ってたんだ。
レッドは内心どこか安心しつつ、変わらぬ幼馴染の猪突猛進を久しぶりに見て、一人笑うのであった。



(スイクンって無謀すぎるだろ)