「あ、沢田」
「あ、名字」





夕日に乗っ取られそうな教室に彼はいた。机につっぷして窓の外を見つめるように。瞳に空を映していたのだろう。こんどはその瞳に私が映っているのが見えた。なんだかふと、夕焼け空をバックに座る彼の髪と空の色はおんなじに見えた。きっと少し違う色合いだろうはずなのに、私は空といっしょに彼も溶けてしまいそうな気がして、夕焼け色は沢田の色なんだろうなあと一人で考えていた(なんでだろう)少し沢田の方に行ってみると、かれの机にはぐしゃぐしゃになった白い紙があった。それを見る私を見て彼は恥ずかしそうに笑う。私も笑った。





「27点……ほんとダメだな…オレって……」
「そんなの、沢田だけじゃないから」





私はそう言って笑って、鞄から同じ白い紙を取り出して沢田に突き付ける。ちなみに32点。私の方が5点勝ってるねと言って笑ったら、沢田も私を見て笑った。
きっと帰ったらお母さんに怒鳴られるだろうけど、まあいいやって思えて、その日は沢田と一緒に帰った。帰り道、夕日に照らされる彼を見て私は「らしいな」と思った。なぜだろう。沢田といたら楽になる。きっと彼がそういう人だからなんだろうと私は思っている。そういう力があるのっていいな。ただただ平凡な私はそれを羨ましく思う。そして平凡とは少し違う彼と道が交わることはあり得ないんだろうな。そう考えると無性に寂しくなった。







つづく