彗星の魔導師なんていうたいそうなもう一つの名をもった若くしてエリートであるやつは柔らかい性格で、非の打ちどころがなく、誰からも慕われる良い先輩である。だなんてトンデモない!真っ赤なうそである。やつはいつも人を見下したような目で見てきて、嘲るような笑みをうかべていて、猫かぶりで、性格はサイアクである。ねじ曲がって、ゆがんでいる。これが私から見たやつの本性である。でも誰にこれを言っても信じてくれないどころか私が悪者あつかいされてしまうのは目に見えていた。それがやつの処世術がつくった世界とやらであった。



「やあ名前、また太った?」
「話しかけないで」
「ひどいなあ、冷たいなあ、ボクはきみが心配で話しかけたのに」
「ほっといてよ!」
「あ、キャンデーいる?」
「…もっと太ればいいとか思ってるんでしょ」
「すごいね!なんで分かったんだい?」
「さいってい」



まわりはレムレスがどうして私のような女に話しかけるのかが理解できないようだった。そしてつきささる嫉妬が含まれた視線。彼がかわいがる後輩の女の子は、私を呪い殺さんばかりに遠くの方から睨んでいる。もちろん私達の会話は聞こえていない。レムレスがそういうふうにしているから。彼が本性を見せるのはどうしてか私の前だけ。ストレスのはけ口が欲しいのだろう。彼はいつも他人の私に暴言をはいていた。わざと私のコンプレックスを刺激して、見下して、楽しんでいるにちがいないのだ。



「そろそろやせたら?」
「本当はそんなこと思ってないくせに」
「あはは!やっぱりすごいや君は。ボクの考えてることが分かるのは君だけだよ」
「分かんないよ、ひとつも、あんたが考えてること」
「いやあ、そうだよ、ボクは君がもっと太っちゃえばいいと思ってるんだ」



不愉快な気分になって、レムレスを見上げると彼の笑みは深くなっていた。私はさらにわからなくなって、眉をひそめる。すると彼は私の肩を強く、食い込んでくるほどにつかんだ。このとき私が感じたものは確かに、恐怖だった。



「ボクは意外と子供でね」
「知ってるし」
「だから好きな子はとことんいじめていじめて、泣かせたくなっちゃうんだよ」



は?と声をあげれば、彼はいっそう嬉しそうに笑みを深くした。たぶん君みたいなデブを好きになるのはボクだけだと思うけどなあなんておかしなことを言って近づいてくる彼を拒めない私も、きっとおかしくなってしまったんだと思う。すべてはこいつのせいなので、私はいっさい責任をとらない。