人生初の転校を味わうはめになった私ですが、一か月目にしてさっそく前の学校が恋しいです。まじ帰りたい。今まで住んでいた所とはまったくちがうし、っていうか同じ日本なのにまったくちがう国に来たようで不安通り越して恐怖ですはい。大阪怖い。でもたこ焼きおいしいです。



そしてそんな私に、もうひとつ悩みの種というか、困っていることがあります。



「ねえちゃああああああん!!!」
「う、わー…遠山くん……」



ここ、四天宝寺中にはテニス部なるものがあるのですが、かなり強いらしいです。そしてイケメンが多い。つまり女子に大人気なわけです。まあ私もかっこいいなとは思うし、すごいとは思うんだけど、その辺で今日もきゃーきゃーとせわしない女子たちのように、お近づきになりたいとは思っていないわけです。あんなかっこいい人たちの中の誰かとお付き合いできるとかも恐れ多くて考えられないし、なにより女子が怖くて近づこうとすら思えない。そんな感じです。こんな私と同じような考えを持つ女の子と友達になれてうれしかったことが転校早々五日目にあった。そして一つ下の一年生でありながらテニス部のレギュラーである遠山金太郎に付きまとわれるようになったのが最近の事である。今日もさっそく大声でハイジャンプして私の目の前スレスレに降り立った遠山君はひまわりのような笑顔を咲かせる。いやいや、近い近い。



「姉ちゃんおはようさん!」
「あ、ああ…おはよう…じゃなくてね、近いよねうん」
「?姉ちゃん今日なんかあったんか?顔赤いで?」
「え、いや…だからさあ…」



近いんだってば!そう叫ぶこともできず俯いた私の顔を、不思議そうな顔で覗き込んでくる遠山くん。覗き込むな!近い!思わず私は頭突きをかました。かまされた遠山くんは額をさするがたいして大きなダメージもなさそうで、かました私の方がダメージ負ってるってどういうこと。



「と、ところで遠山くん…朝練は…?(目がチカチカする…どんだけだよ)」
「今走り終わったところや!姉ちゃん見えたからとばしてきたんやで!」
「そ、そうですか…なら戻ったほうがいいんじゃないの?」
「今日も名前はかわええなあー」
「話のキャッチボールしようか…!」
「ワイはテニスのほうが得意やで!」
「…うん、なんかもうどうでもいいや…じゃ、またね遠山くん…がんばれ(私)」



背をむけて立ち去る私に向かって手をブンブン振っている遠山くんがちらっとみえたので、小さく振り返しておいた。ついつい大きな溜息が出る。ていうかあれ?あのこさっき私のこと名前で呼んでなかったか…?なんだか日に日に彼の行動や言動がおおっぴらになってきたような気がするが、それで「またね」とか言っちゃう私も私で、彼に浸食されていっているのかもなんて、どうして遠山くんが私にちょくちょく話しかけてくるのかすら皆目見当もつかないのに、ああ謎だらけ。私も彼も。とりあえず朝から疲れた。ここでの数少ない友人にまた話を聞いてもらおうと、私は教室へ足を運んだのでした。







「白石!」
「ん?金ちゃんか、どないしたん?」
「あんな、今日名前にがんばれって言ってもろた!」
「ああ…名字さんか…(あの子も大変やなあ…今度お礼でもしにいくか)」
「うーん…難しいわあ」
「?なにがや」
「どうやったら名前はワイのもんになるんやろ…」
「金ちゃん?!」