いけないことをしているというのは十分分かってるんだけどなあ。なんてこの危機的状況にはそぐわないのんきなことを考えてみる。今一番考えなければならないことは生きること。しかし楽に考えていかないとやってられないほど絶望的な状況なのだ。私達の目の前には、笑顔で行く手をはばむ魔導師集団。そしてその中にはクラスメイトで友達だったレムレスの顔も見受けられた。どうしてあやクルなんていういつ消えてしまうかも分からない存在についてきてしまったのだろう。今はそれが不思議でならない、けれど、



「今ならまだ引き返せるぞ」



隣のあやクルが私を横眼で見て言った。私はすぐさま首を横に振る。それを見たあやクルは少しだけ目を見開いた。ああまた、もとの日常にもどれるチャンスを逃してしまった。私はなんて馬鹿なんだろう。なぜだかわからないけど、首が勝手に動いて勝手にことが進んでしまった。でも、それは紛れもない私自身の意思で、この人を、置いていってしまうことがもっといけないことな気がした。私にとってはそれこそ万死に値する。たとえこの場で、命を落とすことになっても。



「残念だよ、ナマエ」
「こっちのセリフですよ、レムレス」



昨日まではいつものんきな笑顔を浮かべていたレムレスは、今はものすごく真剣な表情をしている。彼には勝負して勝ったことはないから、どこまでいけるか分からない。



「後悔するぞ」



眉をひそめて心の底から心配そうに私を見てくるあやクル。私は余裕そうに微笑んでみせた。実際、足ガックガクだったりするけど、彼とはなれて日常に戻ることの方がもっと恐ろしくかんじた。認めたくないけどレムレスのおかげで生き生きとしたものになった学校生活が懐かしい。友達もたくさんできた。プリンプ魔導学校の生徒たち。個性的でめんどくさいけど、それらも全部ひっくるめて大切だと思った。ああ、ああ、みんなごめんね。私は彼を諦めたら絶対後悔する。だから、



「後悔は、しない」



魔導師集団を睨みつけて、杖を構える。あやクルがふうと溜息をついて、私を馬鹿にしたように笑みを深めた。そう、彼一人が欠けた日常なんていらない。そしてこの場で死んでしまうようなら私がまちがっていたということなのだ。私は彼と過ごしたほんの少しの楽しかった日々を、間違いにしたくはないから、だから、絶対に負けない。目の前に光がはしった。さあ、幸せを勝ち取ってやろうではないか!