αベット | ナノ





とくんとくんって、きみの心臓の音が聞こえた。







「わーピチューだ!めっずらしー!」
「う、うそお……」

なぜか私以上に喜んでいるクダリさんはほっといて私はどうすればいいのやら分からず思いっきり動揺していた。ど、どうしよう…!これじゃ売れないし(あれなんか私悪人みたいだな)トレーナーでもない私はこの子をどうすることもできないわけで。私は珍しく焦っていた。というか何で孵化してるんだという疑問が浮かんだがそれもすぐになくなった。そりゃ三日間公園をたまごといっしょに散策してたら2560歩こえますよねー私のバカヤロー!ピチューの黒い瞳が丸くなって私を映している。クダリさんがその高い背を曲げて私の顔を覗き込む。

「あれ?きみうれしくないの?」
「…私トレーナーじゃないんで、浮浪者なんで」
「浮浪者?」
「はい」
「…ふうん」

「でも、うれしくなかったの?」

私は一瞬息の仕方を忘れてしまったかと思った。ああうれしかったようれしかったんですよ私は物凄く。柄でもないのに感動してしまうほどに、緊張してまっさらなピチューを抱く腕が震えてしまうほどに。それと同時に悔しかった。いまだにこの世界を認めていなかった私を、ゲーム上のものだとしか見れずに一線引いてしまっていた自分を。きれいごとかもしれないけれど、ただの偽善かもしれないけれど、こういう時に「生まれてきてありがとう」という言葉を使うんだろうなあと思った。我ながらくさい。私が生まれたときもそう思ってくれたんだろうか、父と母は。だめだ、この世界に来てからというものの私は随分弱くなってしまったようだ。そんな自分も嫌で嫌で、それでも寂しさに涙を流すのは癪だから、今はピチュー、あなたのために泣かせてください。

クダリさんが「へえ」と言って口笛を吹くのが聞こえたがガン無視してやった。センチメンタル私。ああ私は、本当にいつからこんなにも弱くなってしまったんだろう。最近無性に泣きたくなるんだ。
パンの耳しかろくに食べていないからだろうか。帰りたい。私の世界に。おかあさあんおとうさあん、ぶえええええええん。私が孤独で泣くのは今日で最後にする。神に誓う。信じてないけれど。



(だって、泣いても世界は変わらない)