αベット | ナノ





「わー!それポケモンのたまご?なにが生まれるの?ねえねえ!」



どうしてこの人がいるの



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私は公園のベンチに座っていつものようにぼーっとしていた。私がこの世界にきてから三日がたったがいまだに気持ちの整理がつかないからだ。どうして私は死んだはずなのに生きているのか。どうして生きて、ゲーム上の世界にいるのか。どうしてゲーム上の架空の生き物が実在しているのか。あともうひとつ。このたまごを売りに出すことへの踏ん切りがつかないことだった。
やはり腕に抱いてそのぬくもりを感じていると、どうしても手放しがたく、孵化させてこの手で育ててみたいという好奇心はなくなることを知らないのである。この世界においてトレーナーカードを持っていない私がポケモンを持つことは許されないのに。はああああと深い溜息が出た。そうそれだけ。ちょっと物思いにふけっていただけだというのに、なんで、

「ねえねえなんで溜息ついてるの?そのたまごからは何のポケモンが生まれるの?バチュル?」
「なんでバチュル」

思わず突っ込んでしまった。しかしこの白いやつのマシンガントークは止まらない。まるで幼稚園の先生になったような気分である。そう私はこの人を知っている。こんなに白くて不気味なほど口角を吊り上げている人物といえばこの世界では一人しかいないだろう。こんな奴が何人もいたら引くわ。ていうかなんでここにサブウェイマスターがいるの。なんで真昼間からこんな浮浪者の掃き溜め公園にサブウェイマスターの白い方がいるの。仕事しろよ。と心の中でボロクソ罵倒することによって自分の精神を落ち着かせようとするがそれは失敗に終わった。このクダリの前で落ち着こうとする私が間違っていたようだ。現実逃避が正解だった。

「ねえなんで?なんでそんな顔してるの?なにが生まれるの?このたまご」
「…知らないです」
「ふうん?おもしろーい!」
「は、」

人が思いつめた顔しているのに面白いとはなんぞ。明らかにふかぁーい訳がありそうな顔してたでしょうがもうなんなのこの子やだようだれか助けてええ。と私まで子供みたいに叫びたくなった。ほんとこわいこの白い人。特に始終吊りあがりっぱなしの口とか。もうこれは無表情と言えるんではないだろうか。私は頬を引きつらせる。身長くそ高いし、怖いよ怖いよ怖いよササキさ「でもそんな悩みもこれで解決!」「はあ…」「生まれそうだよそのたまご」え!?



そう言われてたまごに目をやると確かに今にも生まれそうに輝いている。パキパキとひびが入っていって、私は緊張からごくりと生唾を飲み込んだ。心臓がバクバクとうるさい。まるでお化け屋敷に入る前みたいな、ジェットコースターが頂上まで上る過程のときみたいな。怖いのだろうか。いや違う、これは確かな、生命の誕生に立ち会えることの感動である。



(いわゆるひとつのアイラブユー)