αベット | ナノ





どうして私は雨に濡れているのだろうどうして私はそれを見ることができるのだろう雨の冷たさ身体の温もりどうして私はまだ生きているのだろう。







気がつくと私はどこかの公園のベンチに座っていた。腕の中には抱きかかえないと持てないほどの大きなたまご。雨にぬれてしまっているせいでセーラー服がくっついてひどくキモチワルイ。早く屋根のあるところへ移動しなければと思っても身体を動かしたいとは思わない。だるい。そんな矛盾と戦っている私。まるで引きこもりの言い訳のようだ。連休明けで久しぶりに外へ出たときのように頭がぼーっとしている。ここはどこ。なぜ私はここにいる。そしてこのでかすぎるたまごはなんだ。考えろ。考えろ私。私ならできる。やればできる子褒めれば伸びる子それが私だ。なんて単純なんだろう。「あんたが欲しがってたゲーム買ってやるから」なんて言われれば私はすぐさま行動に移すだろう。実際高校受験のときはそれにつられた。つられた私は見事に合格してみせた。だってゲーム欲しかったんだもん。あれなんか話しが脱線して、る………ああ思い出した。私死んだんだった。殺されたんだった。

「お嬢ちゃん。こんなところに居ると風邪を引くぞ」
「え?」
「お嬢ちゃんも訳アリでここに来たのかい?」
「ワケアリ………」

私に話しかけてきた人はひげを生やした灰色のおじいさんだった。目を細めて私を見ている。「とりあえずわしの住処までいこう」といって私の腕を引いて立たせた。そのおじいさんの見た目は明らかに浮浪者のものであった。そんな人にやすやすとついていってもよろしいものかと一瞬ためらったが(まあ一回死んじゃってるし、ここどこか分かんないし、これより最低なことなんてないか)とひたすら足を動かした。もう恐れることなどなにもない。私は死を乗り越えてしまったのだから。人間ってそんなもんである。



(なにもしらないあわれなこ)