αベット | ナノ





小さな身体に纏った電光に、ひどく心を揺さぶられた。あれは、



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そういえば生まれたてのポケモンって決まってレベルは1ではなかったかしら。そう思ったのとピチューが好戦的にもリグレーに飛びかかったのはほぼ同時であったに違いはないと思う。
あれえ私まだなにも言ってねえよ。と出かかった手が空中をさまよっている。ものすごく間抜けなのだろうなあ私は。ぼんやりとそんなことを考えた。こんなときでも頭にあるのは保身と常識だった。びっくり。目の前では飛びかかったはずのリグレーの体が高く浮いてピチューがこけているというのに。あっはっはっは!こけてるう!こんなときにそうやって笑い飛ばす勇気なんて私にはないし。あれば良かったのになあ。さて、そろそろ理想を語るのはやめようか。真実はいつだって目の前にあるのだから。な ん て

「そういやあの子なんの技使えるんだろ」

知ってて当たり前であろうことを呟いたところで誰に助けてもらえるわけではないのだけれど、開いた口はふさがらなかった。しかしそんな呟きも戦っている彼らの鳴き声にかき消される。
所詮レベル1の彼がサブウェイトレーナーの手持ちであるポケモンに(たとえそれがノーマルトレインであっても)勝てるはずはないのだ。それならいっそのことなにもせずに見とくだけ見といて、相手の技がなにかしら決まるまで待っとけばいいのではないだろうか。そう思った瞬間びりりと身体に電気がはしったなんて嘘だろ。あれ待てよ。そういえばサブウェイのルールってあれ、50フラットじゃあなかったっけ?ぜんぶレベル50に統一されるやつ。うわあ、うわあ、私ぼけてきたのかもしれない。と頭を抱えていると、リグレーに飛びついてかかっていたピチューが飛んできた。めりっ、みたいな音をたてて壁に押し付けられている。

「だ、大丈夫?」
「………」

そんな声をかけたって無言は承知だった。ピチューは目を細めて私を見る。それは苦しみからのものではないなと、そのとき私はなんとなく感じた。なぜなのか、分からなかったけれど。
サブウェイの電車ってそういえばだれが直してるんだろうな、こんなバトルですぐめためたになってんのに。そんな疑問が頭をよぎったがそれも一瞬。私の目に電光が映った。それは花火みたいに、花火みたいに弾けて、怖いけれどほっといたらいけないような、良く分からない感覚。ああピチューこれはあなたなんですか?電光にまかれてあなた自身が電気そのものみたいになってますよ。どうした私。なんか体が動かないけれどあなたがやりたいことは分かるよ。なんて、私が言ってはいけないことなんだろうけど、この場には私しかいないわけだから。いいよね?そんな衝動。

「ボルテッカー」

風のように私の横を駆け抜けていった電光には、私の気持ちは分からないんだろうなあと、彼の気持ちが分かった私は思う。



(光によく似ていた)