αベット | ナノ





溜息ばかり出る毎日ってどうなんだろうと思うけれど溜息ばかり出てる私はなんなんだろう。



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「はあ……」

深い溜息をつく。どうしてこうなったんだろう。いやいや、こうなったのは私の考えが甘かっただけなのかもしれないが、これが私のせいだとはどうしても思いたくなかった。いつだって自分の身は可愛いものである。たまにはおーよしよし頑張ったねあなたはなにも悪いことしてないのにね。なんて言って慰めてやりたいものだ。…口に出してないとはいえ何やってんだ私は。いよいよ私までおかしくなってきたのかもしれないなあと溜息をつく。じゃあもともとおかしかったのは誰なんだろう。そう考えたところで私はハッとした。目の前に見知らぬトレーナーが現れたからである。

「あいあい、いらっしゃいませー!ご注文お決まりですかー?」

立ちはだかるウエートレスの言葉を聞いて私は一歩後退しそのまま走り去ってしまいたい衝動にかられたが如何せんここは走行中の電車内である。だから私は自分の身が可愛いんだって。そんな私は頬を引きつらせ視線をウロウロさせることしかできずにいる。私は悪くない。私を巻き込んでここバトルサブウェイへと導いた廃人どもがいけないのだ。と現実逃避にはいる。私はクダリさんにバトルサブウェイへ来るよう誘われた(強制された)翌日、ちっぽけな好奇心にまかせバトルサブウェイまで来てしまったのだ。もちろん乗る気は微塵もない。思えばこの私の考えが甘かったのだ。もう素直に認める。そしてそこで現れた廃人集団の波に押されそのまま乗車。なんて理不尽かつきびしい現実なんだろう。バトルサブウェイにあんな廃人集団の波があるなんて私は知らなかった!さながらアイドルのコンサートへ向かう人間の群れのようだったあれは。私の世界でもあれはトラウマである。パシュッ。そんな音が聞こえて私は現実へと引き戻された。見ればさらに立ちはだかるようにリグレーが浮いている。一匹しか見られないあたり私が乗車したのはシングルトレインらしい。初めてみた!今はそんな感動よりも焦りの方が勝っていた。も、どうしよう……!きっとあの白くていけ好かないサブウェイマスターは私の様子を見て爆笑しているにちがいない。私は近くに見えた監視カメラを睨みつけ、唇をかんだ。

「………ピチュ」
「え?ちょ、」

(一応)連れてきていたピチューは肩で眠りこけていたはずなのに、一鳴きしてリグレーの前に立ちはだかっていた。肩の重みがなくなって、さらに不安が増した気がする。ピチューは私の方を振り向く。その頬の電気袋にはバチバチと電流がはしっていた。うそ、あなた、やる気なんですか。そのつぶらな瞳には確かに闘志が宿っているように見えて、私はもう一度ぐっと唇を噛んで腕をにぎりしめた。しっかりしろ。私らしくもない。私らしさなんて知らんけど、ここで泣きわめき助けてと叫ぶのは私でないことは分かっているのだから。ゲームとしての知識しかなくて、どこまでやれるのかは全く分からないけれど、

「ピチュー、上手くできなかったらごめん」
「………ピ」

そう言えばピチューはフンッて感じに笑って前を向いた。何この子イケメン。もう今は、たのもしい彼の後ろ姿しか見えない。


(容赦ください)