αベット | ナノ





大きなこども。小さなあかんぼう。わたし。







「店員さあーん!この子の、発行、お願いしまあーす!」

あきらかに慣れていないだろうことが伺える敬語口調でクダリさんは言った(大声で叫んだ)一方私は「ついてきて!」と言ったクダリさんの白い手に引かれなにが起こっているのか分からない状態である。もうクダリさんの行動パターンよめん。好きにしてくださいめんどくさい。私はすでに抵抗を放棄することにした。やっと止まったクダリさんの背中を見つめてみる。身長高い。むかつく。クダリさんの身体で私がまるまる隠れてしまうほど彼は大きかった。ひょろいのに。決して私がチビなわけではないから。それにしても周りからの視線がイタイ。そういえばここに来る途中も熱い視線を感じたなと思い出す。彼はこれでもバトル超強いサブウェイマスターなのだ、このライモンシティで彼の事を知らない人なんていないんだろうなあ。ただでさえ目立つ格好してるもの。私は周りからの熱視線にはあ、と深い溜息が出た。いいかげん手を離してはもらえないだろうか。ここまできて逃げようとは思わない。帰り方わからん。

「でーきたっ!はい、これ、あげる!」
「…これって」
「うん、トレーナーカード!」

「うん、トレーナカード!」じゃねえよこの野郎!とは言えなかった。周りにサブマス信者がいるだろうし、私自身サブマス相手にそんなことを言えるほどの度胸も持っていなかったからだ。手に握らされた見覚えのある赤いカード(初めの色だ)を見て、ただただ背中を冷や汗がつたっていくのを理解するだけ。だって、そんな、満面の笑みで、うれしそうに、言われましても…

「私、トレーナーとか、無理です……」
「なんで?ポケモン、面白いのに!」
「クダリさん…みんながみんな、貴方みたいな考え方をしているわけじゃないんですよ……」
「?、ぼく、むずかしいことはわかんない」
「(…ち、ちくしょー!)」

首を傾げるクダリに私の頬が引きつった。本当にわからないというような表情をしている。手に力を入れるとやはり堅い感触。ポケモンバトルをするわけでもないし、これから旅に出るわけでもないのに、こんなもの私が持っていいはずがないのだ。この世界の常識がわからない私が持っていいはずはないのである。私の肩にひっつきながらも眠っている器用なピチューが、今このときだけ羨ましく思えた。何も考えないでいられるんだから。これからすべきことが分からないことがこんなにしんどいなんて知らなかった。と溜息をつく。

「そうだ!きみ、バトルサブウェイ来てよ!」

まるでりんごが木から落ちることから重力を発見したニュートンのような顔をするこの人のことは無視してしまってもいいんだろうか。