6.猫の一日


私とキョーヤが出会った日。



あの日から、私の人生が変わった……


















朝日が差し込む部屋。
ベッドには大きいのと小さいのと、二つの膨らみ。


その内の小さい膨らみの方がモゾモゾ、と動く。




『……』



パチッと目を覚ますと目の前には大好きなキョーヤの寝顔。
時計に目線を流せば時間は六時…。




『キョーヤ!』



この時間はキョーヤが起きる時間なので今だ目の前で寝ている彼の頬をペチペチと叩く。




「ん…。ナナ?」


閉じられたキョーヤの目が開き私を映す。
起きたと思った瞬間、ぐいっと布団の中に引きずり込まれた。




『にゅ!』


「ナナは暖かいね。」




引きずり込まれたのはキョーヤに腕を引かれて抱きしめられたから。
抱きしめられているとキョーヤは私の頭に頬を擦り寄せる。




『〜〜にっ!』



学校だよ!と力を込めて言う。しかしこの身体ではその言葉も言葉にはならない…。
普通の人なら私が何を言って何を想っているかだなんて分かる筈もないし分からない。
だけど、




「あぁ。学校だね。分かってるよ。」




身体に廻されていた腕を解いてキョーヤは布団から出る。
まだ眠いのか、ふぁ、と小さく欠伸をしていた。


私はベッドの近くに畳んであった制服を持って行き、キョーヤに渡す。




「ありがとナナ。」



優しく頭を撫でられる。キョーヤに頭を撫でられるのが好き。だって落ち着くし気持ちいい…。



『にゃぁvV』




足に抱き着いて頬を擦り付ける。これは猫の自然現象。言葉のない私や猫の愛情表現の仕方だ。
身体を相手に擦り付ける事によって愛情を表現している。
それはキョーヤも知っているのか私がキョーヤに擦り付くたんびに優しげに目を緩ませ私を見る。



足に抱き着いていると身体をひょいっと持ち上げられそのまま膝の上に座らされた。




『?』


「着替えるから、ナナも着替えて顔を洗っておいで。そしたら朝食にしよう。」


『!』



朝食、とゆう言葉にピン!と耳が反応する。
キョーヤの膝から降りて部屋を出てそのまま洗面所に走った。




洗面所に付くと台を置きその上に乗って蛇口を捻り水を出す。
手で水を救い顔に当てる。




『……!』


思ったよりも水が冷たくてビビビッと尻尾と耳が立つ。
濡れた顔を拭くためタオルを探すが見つかんなくて困っていると後ろの方でくつくつと咽で笑う声。


振り返ると制服を着たキョーヤが扉に寄り掛かってこちらを見ていた。



「くっ…水が冷たかったの?」



耳と尻尾が逆立ってたよ。と笑いながら来るキョーヤにムスッと頬を膨らませる。



猫にとって冷たい水は大敵なんだから!



「猫は水が苦手だもんね。」



そのままキョーヤは私の前で屈むと左手で頬を包み右手で持っていたタオルで濡れた顔を優しい手つきで拭いてくれた。



『んっ』


「もういいよ。」


『にぅっ!』



軽く頭を振る。
これも自然現象。






と、思いたい。





キョーヤと居間の方に行くと名前を呼ばれて立ち止まる。



『?』


首を傾げていると、



「ナナ、着替えなきゃ駄目だよ。」


『!』




すっかり朝食に気を取られていて忘れていた…。私の服を持ってキョーヤが床に膝を付く。




「おいで。」



腕を広げておいで、と言われ素直にキョーヤの腕の中に飛び込む。



『キョーヤッ!』


「着替えるからほら、腕上げて。」


『ん!』



腕を上げると寝巻を脱がされ服を着せられる。



「はい、いいよ。」


『にっ!』


「分かってる。じゃあ朝食にしよ。」




コクコクと首を縦に振りキョーヤのズボンの裾を掴んで二人で台所に向かって歩いていった。

















―――――



朝食を済ませ、身仕度をして学校へ行くために玄関に向かう。



『ッキョーヤ!』


「?あぁ、ありがと。」


ナナから風紀の腕章を受け取りお礼を言うとナナは俯いてしまった。




「ナナ?」


『………。』


「…………ちゃんと言わないと連れて行かないよ。」


『!!』




バッと音が付くぐらいナナは顔を上げる。やっぱりそうだ。



「一緒に行く?」


『!(コクコク)』


「ならちゃんと言いなよ。じゃないと連れて行かない。」



身体を反転させて家を出ようと足を踏み出す。




「………!」



左足に掛かった重みに視線を下にやるとナナがズボンの裾を握りしめていた。




「………。」


『ぁ……みぅ!』



―私も連れて行って!




そう一言言いたい…のに、やはりこの姿では言葉が言葉にならない。
だからといって元の姿には戻れない。
元の姿になればキョーヤを巻き込んで傷付けてしまう。それだけは嫌だ。これ以上……キョーヤに迷惑は掛けたくないッ。


キョーヤを傷付けるぐらいなら……私は………






キュッと裾を掴む手に無意識に力を強める。





「………。」




ナナの裾を掴む手が震えている…。
……また、この子は…
ふぅ、と息を軽く吐き、



「迷惑じゃないから。」


『!』



丸い金色の瞳が長い前髪から覗き僕の目と合う。


「迷惑じゃないよ。」



それは断と強い意思の声。まるで心配するな、と言っているかのような、そんな安心する声だった。




『〜〜〜』



うりゅ〜っとナナの瞳に涙が溜まる。



「泣くなら後にして。本当に置いて行かれたいの?」


『Σ!!』



ブンブン!と頭を振り雲雀の裾から手を離してナナは少し離れた場所でくるんっと一回転する。




― ボンッ




煙と共に姿を見せたのは薄い銀に混じった紫色の毛並みに金色に輝く瞳を持った猫だった。



『……』



軽く飛び雲雀の肩に着地する。
雲雀は落ちないように身体を支えてから家の扉に鍵を掛けて学校へ向かう。














―――――



「………いつまで泣いてるの。」




家から出て数分した所。今だ僕の頭の上で、
『う゛ぇっ う゛ぇっ』と猫の姿で泣いているナナ。




髪の毛濡れるんだけど…





『う゛ぇっ、』




しかも泣き声おかしいし…



泣いてるナナは見てて可愛いと思うが今は外だ。状況が状況なだけに猫があんなに泣いていたら不自然に思われる。




「置いて行かなかったんだからいい加減泣き止みなよ。」


『……ンニャ』




頭の上から腕の中に移動させる。
まだ腕の中でぐするが身体や頭を撫で続けている内に自然にぐずりも無くなってきた。




「いい子だね。」




片手に抱かれてちらりと目線を上に流すと目を細めて小さく笑うキョーヤの顔が見えた。
キョーヤに爪を立てないように手に力を入れ少しだけ身体を起こし、



『ニャウ!』



―私、キョーヤが大好きだよ!


と言う。
何度も言うようかもしれないが決して言葉にならない言葉。伝わることのない………だけど、











「フフッ…僕もナナが好きだよ。」




なんでかね……キョーヤには伝わっちゃうの。


いつだって、キョーヤは私の言いたい言葉を、あんな言葉でも理解してくれる。…嬉しい。
誰よりも私を理解してくれるキョーヤが……私は大好きだ…。






次→

- 7 -


[*前] | [次#]
ページ:




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -