48.日本へ来たあの人。
「ぐっ…あの一撃…やはり……俺の目に狂いは無かった!」
『……。』
なんだ…嫌な予感が……
「闇市夜依!やはりお前は女性にしてボクシング部に向いている女だッ!!」
両拳を握り極限に叫ぶ馬鹿に付き合ってられん、と溜め息を吐きそのままリングから降りる。
ここから出るために扉に手を掛けると呼び止められた。
「俺は諦めんぞ闇市夜依!!絶対にボクシング部に入部させてやるぞー!!」
『…馬鹿が……。』
そう一言呟くと彼女は部屋から出て行く。
その後ろ姿をリボーンが黙って見ていたことも知らずに…。
『……………。』
部室から真っすぐに歩き裏庭に廻る。
夜依はこの静かな裏庭が好きだった。
誰にも邪魔されず、沈黙な世界に身を置けるこの場所が。
風が吹き、夜依の長い黒髪が舞う。
その流れていく髪を横目で見ながら夜依は瞼を伏せた。
『………。』
「夜依の髪は絹みたいにさらさらだな!」
『なっ!や、止めろ!!髪が乱れる!』
「ハハハッ!」
……………。
何故か…今になってあの人を思い出す。
その理由は……なんとなく、分かっていた。
ゆっくりと瞼を持ち上げ空を見上げていた夜依はピクリ、と小さく何かに反応して口を開かせる。
『…リボーン、なんの用だ。』
側にある木に向かって言う。
傍から見れば木に話掛けている変な女、と見られるが生憎私は普通ではない。
『貴様の気ぐらいよめない私だと思うか?』
「別に隠れてた訳じゃねぇぞ。」
よっと木の中から出てきた小さな身体は私の目の前に着地する。
「ちゃおっス夜依。」
現れた小さい正体は部室から夜依の後を追って来ていたリボーンだった。
『ハァ……わざわざ追いかけてきたのは挨拶のため?』
わざとらしく溜息を着けばふっと笑うリボーン。
「お前が笹川了平の試合を受けたのが珍しいと思ってな。」
『!貴様が言ったのだろう。あいつはボンゴレに入る奴だから私はその力を観ただけだ。』
顔を背けてしまった夜依にリボーンは本当にそれだけか?と下から夜依を見上げて問う。
その答えだけでは不服なのかまるで別の解答があるみたいな言い方だ。
『なにがだ?』
その言い方に夜依は形の良い眉を片眉だけ上げる。
「あいつ、良い目をしていたろ。」
『――!!』
目を見開き自分を見る夜依にリボーンはその目を通して昔を思い出していた。
まだ彼女が誰にも笑顔を見せず、氷のように冷たい表情をした人形だった頃のことを……。
「アイツに似た…真っすぐな目だと思ったから、お前だって了平の勝負に応じたんじゃねぇのか?」
『―――ッ。』
「…お前は、アイツより前に会っていた俺より、何故か後に会ったアイツの方に心を開き懐いていたしな…。」
『ッ…今とそれが!なんの関係があるッ!!』
バッと顔を横に背けてリボーンから目線を外す。
こうも簡単に、自分の思っていた事を当てられたことに苛立ちがくる。
こいつはいつも、いつもそうだ。その見据えた瞳で人の心を見る。
刺々しい夜依の殺気にリボーンはただ笑っていた。
「…あいつが、今日本にいるって知ってたか?」
『ッ!?!』
背けていた顔を勢い良く戻して小さい彼を見遣る。
今……リボーンは、何を…言った?
思わず耳を疑う。
あの人が……
あの人が……日本に、
いる?
サァァ…と風が強く吹いて花びらと私の髪をさらっていく……。
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(あの人が……ここに…)
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