35.罠。
「僕は弱くて群れる草食動物が嫌いだ。見てると咬み殺したくなる。」
雲雀の殺気に宛てられたのか山本武と獄寺隼人は顔を青ざめている。
『(うん。文句のない良い殺気だね。)』
ふっと獄寺の方を見ると少しばかり雲雀に怯えているようにも見えた。
無理もない。
今の獄寺と山本では雲雀に勝て………ん?
獄寺、山本……沢田とリボーンはどうした?
いつもこの二人は沢田といる筈だ。
ここ応接室は誰もが好き好んでくるような場所ではない。それはここ、並盛中に来て数日で分かった。
群れを嫌い孤独を好む、まさに孤高の男、雲雀恭弥。群れを見掛ければ引っ切り無しに仕込みトンファーでボコ殴りにする並盛中の風紀委員長…。
応接室はその風紀の拠点だ。まぁそれは今日正式に決まったが、前から此処は風紀が使っていた。
そんな危険な場所をリボーンがそうみすみす見逃すか?そんな危険な場所に、彼等を黙って見送るか…?
…いや、それはない。
リボーンは凄腕のヒットマンだ。第一、奴は貴重な人材を簡単に手放すような男ではない。
………だとすると…。
『torappola(罠)…か。』
夜依がそう呟いたと同時に獄寺と山本を抜かし応接室に足を踏み入れた人物がいた。
「へ〜。初めて入るよ、応接室なんて。」
「待てツナ!」
「え?」
山本の止めた言葉は、今の現状を何も知らないツナには届かずそのまま足を踏み入れてしまい雲雀のトンファーにより飛ばされる…。
「一匹。」
それを見た獄寺は自分が尊敬し、敬愛すべき人物の沢田が倒されたのに怒りが頂点に達した。
「のやろぉ!!ぶっ殺す!!」
…馬鹿め。あれでは感情のままに動いて動きが見え見えだ。今のあやつらが感情を出して戦えばそれは必ず真っ直ぐな攻撃になる。
雲雀は真っ直ぐ突っ込んで来た獄寺の重心を利用してそのまま顔面にトンファーを入れる。
「二匹。」
「てめぇ…!」
雲雀が獄寺を倒した途端に山本から放たられる闘争心。いつも穏やかな彼が見せるもう一つの顔、か。内心では友達を倒された事により怒りで満ちている。
ソファーに座ってコーヒーを飲んでいると近くにある人物の気配を感じた。
『(あいつめ……あくまで自分は見ているだけ、か。)』
…リボーン……。
雲雀を見ると両手にトンファーを構えて山本と戦っていた。
『!山本武……なるほど。リボーンが山本に目を付けた理由が分かった気がする…。』
まだまだだが動きは良い。動きが大きすぎる。しかし鍛えればあれは化けるぞ…。
そして先程見せた山本の殺気……あれも中々のものだった。一般人にしてはヒットマンの才能を持っている。ボンゴレ側に引き入れておけばボンゴレにとってそれは大きな力になる……リボーンもそれが狙いだな。
今も昔も喰えない男だリボーン。
今回のこの事件とてあいつが何かしら考えた結果だろう。計画的な犯行とでも言うかな…。
「怪我でもしたのかい?右手を庇っているな。」
「……ッ」
「そうか、野球部。」
「!!」
「当 た り」
ドカッと隙が出来た山本の腹部に重い一撃を入れ込む。
あれはそう簡単には意識が戻らないだろう、と横で気を失っている山本を見て思う。
夜依は雲雀の攻撃を見て確実な急所を狙っていたと見抜いていた。
本当に、彼は成長した。……雲雀恭弥。
実を言うとここまで強くなっていたとは思わなかった…。
私がいない間雲雀は一人で修行をしていたに違いないが……一般人の人間が独自で鍛練をしてきたとなると雲雀も生まれながらに持つヒットマン…。
いや!駄目だ…。
どんなに雲雀が強くヒットマンに向いているからと言って私は………。
私はお前には…こちらの世界に来て欲しくはない。
私と同じ道を歩むな……………雲雀。
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