29.草を咥えた男。
扉の外で聞こえた鈍い音…。って!
「ちょっと待って……今、僕と同じ学ランを着てたって、言ったよね?」
『あぁ』
「襲われたって………何された?」
『何されたって…殴り掛かって来たから返り討ちにしてやっただけさ。動きも遅いし真っすぐだ。分かりやすい。』
コーヒーをまた一口飲んでいると雲雀の気配が豹変したのに気付き、目線だけをそちらに向けると不機嫌そうに顔を歪めている雲雀の姿。
草壁の奴…ちゃんと他の奴らに言っとけって言ったのに……。
草食動物の分際でなに僕の夜依に手を出してるの?
「咬み殺す…」
『雲雀?』
ぼそっと小さく呟いていると名前を呼ばれる。
………草壁達は後で咬み殺すとして、
「…で、風紀には入ってくれるの?」
『………無理だ。』
「!…なんで?」
まさか断れるとは思ってなく、小さい動揺を見せる雲雀。
『私は任務の為にここへ来た。それを果たさなければならない…。』
「ならそれをやりながらすればいい。」
『それが無理だと言っているんだ。』
納得出来ない、と言いたげな顔をしている雲雀に向けて話し出す。
『今回の任務はある人物の護衛だ。そいつの傍にいなくてはならん。』
「僕より、そいつを選ぶの…?」
先程よりもムスッと不機嫌になる。
ちょ、選ぶって…。
なんだその、大切なものを選ぶなら二つに一つだ。という状況は…
『これは仕事だ。仕方ないだろう。』
「…………。」
『………。』
「……………。」
『………ハァ……分かった……分かった。やればいいんだろ?』
睨み合う末、見事に負けた。
入ると言った途端に不機嫌な顔から機嫌の良い顔になる。
また大きく溜め息をつく。それは相変わらず我が儘な弟子に対してか……または、その弟子に甘い自分に向けてなのかは分からない。
……いや、両者だな。
雲雀を見れば携帯を取り出していて誰かに連絡を取っていた。
「…草壁学ランを一着持って応接室まで来て。三分で。」
『?』
雲雀の口から出た草壁とゆう名前に首を傾げる。草壁?誰だ?
その草壁とやらを待っていると、
「委員長ッ!!」
ガラッ!と扉が開かれる。
『……………』
な、なんだこいつは…。
学ランを着た変な頭をした大型な男が部屋に入って来た。
手に持っている黒いものに目をやればそれは学ラン。
こいつが……
「2分48秒……間に合ったね…。」
雲雀の言葉にほっと息を着いている男。
その男が私がいる事に気が付き雲雀から私に視線を変え、人を見るなり驚いた顔をする。
「!委員長!こいつは……ッ?!」
男が何か言い終わる前に床に平伏す。
それを冷めた目で見下ろしている雲雀。
「………ねぇ」
怒気を含んだ低い声。
ほぉ……かなり強くなったようだ。
『(今の一撃、速かったのも良かったが重い一撃だった…)』
私が居ない間に、随分と力を上げたんだ雲雀…。
顔に影を差している雲雀を見てふと思う。
『(それにしても雲雀の奴、何をあんなに怒っている?)』
と不思議に思いながら二人を見ていた。
しかし、このままでは拉致があかないし話が進まない。
仕方あるまい…
ビュッと相棒のトンファー振り上げる雲雀。
それは迷いなく真っすぐ男に振り落とされる。
男は恐怖により身体をすくわせて動けないのかそこから動かない…。
― パシッ
「!!?」
「!?」
『そこまでだ雲雀…』
男に振り落とされるはずだったトンファーは、夜依の手によって阻止されていた。
自分を庇った夜依を草壁は驚いた顔をしており、また、草壁を庇い身をていしてまで守った夜依を最初こそは驚いていた雲雀だが、次には不機嫌な顔をする。
「どうゆう事だい?」
『全く、お前は不機嫌な顔ばかりだな雲雀。』
「質問に答えてよ。どうゆうつもり夜依?」
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