10.どうか君が。

腕を組んで木に寄り掛かって彼女の悠々とした後ろ姿、背中を見詰める。やはり背筋は臆す事なく真っすぐに伸びている。


じっと見ていると不意に少量の殺気とも怒気とも取れる気が肌を伝って感じた。


どこから?と思ったけどそれは直ぐに見つかる。目の前にいる全身黒に身を纏ったあの子からのもの。







!この感じ……似ている…あの人に………いや、よく見ればそれだけじゃない。
黒いあの真っすぐな髪だって、あの人が好き好んで身に包んでいた黒一色の服だって……




今放っている、この気だって……全て似ているじゃないか…ッ





「!!(まさか、あの子ッ!!!!)」




ある合点に辿り着き、寄り掛かっていた木から勢いよく身を離して食い入るように黒一色に身を包んでいるあの子の後ろ姿を見る。






『愚かな奴らだ…折角見逃してやろうとしていたのに、ね』



「オイオイ!この女マジで言ってんのかぁ?!」


「ハハッ!傑作だぜ!!てめぇ俺達を倒せるつもりなのか?笑えない冗談だぜ!!」




ギャハハハハ、と品のない笑い方。





『そうだな。笑えない冗談だ…』


「はっ!よぉやく分かったか女!!今なら土下座で許してやるよ?」




そう言って一歩ずつ彼女に近付いていく彼。





ハァ、と溜め息が零れる。




無駄な期待をして損した…。そうだよね…あの人の訳がない…。
だって彼女は……





「(五年も前に、日本から、並盛から姿を消したんだから…)」




少しでも期待して胸を踊らせた自分が愚かに感じ、憂さ晴らしする為にあの草食動物達と、期待を持たせたあの女子。
あの人に似た女子を咬み殺そう…。






あの人は、世界で一人だけでいいんだ…






手に仕込みトンファーを構えて狩りを始めようと足を一歩踏み出した途端…。





「!」



『本当笑えないよ。ねぇ、私さ弱い奴が群れてるのを見ると、無性に腹が立つんだよね。だからさ……君達の身体に…刻み込んであげるよ……………恐怖って奴をね……』





また少し膨れた殺気と共に聞こえた言葉と彼女の手に握られた武器に、僕は目を見開かずにはいられなかった。






「くろい……トンファー…」





―刻み込んであげるよ……恐怖って奴をね―





戦闘開始時にいつも愛用の黒いトンファーを握ってそう言っていた彼女の口癖………





そして今、あの頃とは比べものにならないほどの速さであっとゆう間に四人も倒してしまった彼女……







「(そんな………まさか、でも……あの黒いトンファーにあの口台詞…)」





また期待の気持ちが膨れ上がる。
もしこれであの子が僕が五年も待ち続けていた彼女でなければ………



そう期待めいた想いで彼女の後ろ姿を見ていると不意にそのまんまの姿勢で声を掛けられる。





『さっきからそこの林に隠れてる奴。出て来なよ。』



「!!」





ピシッとまた張り巡らされた殺気。気付かれてたんだ…。僕は手に握るトンファーを強く握りしめて足を彼女に向かって歩かせる。




「…………」




林を抜けて、彼女の近くまで歩いてくる。
自分の倒した男の屍を見下している彼女はまだこちらを向かない。





ドクン、ドクンと激しく波打つ鼓動。









お願い、お願いだから……



















早くこっちを向いて、







そしてどうか、君が彼女であって欲しい…



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