7.五年前の約束。
ある朝の桜木の下で学ランを肩に掛け、腕には風紀と書かれた腕章を付けた並盛中風紀委員長――雲雀恭弥がいた。
そんな彼がこんな朝早くにこの桜木の下に来ていたのには此処に強い思い出があったから。
もうすぐ春が終わり、この桜も散るだろう。
あの人が居ない春を、何度過ごしたのか…
思い出されるのはこの桜木の下で修行した彼女との日々。
「ねぇ夜依……どうして、僕の前から消えたの?」
彼女は僕の家に居候していて五年前に突然僕の前から姿を消してしまった彼女。
何度も探した。だけど彼女を見つける所が何処にいるのかさえも掴めなかった。
思い出されるのは彼女がいなくなる前のあの日の事…
彼女に出会ったあの日から彼女は僕の師匠となった。
修行場はこの桜木の下だった。
彼女は桜が好きだったから桜を見ながら修行をしたかったらしい。今思えばそれはつまり戦いながら桜を見ていたって訳だよね。
とにかくあの頃の僕は一度も彼女に当たった事のないトンファーを当てようと必死だった。
おもいっきりトンファーを振りかざす、がそれを読んでいたかのように軽々と身を屈めてそれを避けてしまった彼女。
『足元ががら空き、手に集中しすぎ』
「ッ!!??」
ちゃんと僕の弱点や難点をついてから彼女はいつも僕を倒す。
足払いを受けた身体は重力に従って尻餅をつく。
思ってもいなかった攻撃にもの凄く、痛かった…。この僕が尻餅をつくなんて……今考えるだけでも忘れたい過去だよあれは。
この状況を作った本人を睨み付ける。
「っ…なにするの」
『手に握っているトンファーに集中しすぎて足元が隙だらけだった君の不注意。私が敵だったら次の攻撃で君はあの世逝きだったよ。』
今だ地面に座り込んでいる僕を上から見下す形でそう言う彼女に溜息を零す。
本当、貴女って人は……
「………ハァ…あなたってやることは無茶苦茶だけど……言ってる事が正しいから嫌だ……」
そう、彼女のやる事はかなり目茶苦茶だ。
だけど言っている事は正しいから尚、嫌だ。何も文句が言えない。
戦いながらもちゃんと僕の難点や弱点を見付けアドバイスをくれる。
苦々しげに顔を歪めて言う。
今日の修行場は桜が咲き誇っている場所。普段は僕の家にある道場で戦うが、時たまにこうして外に出て修行する。
外の修行場は決まって此処。彼女は桜が好きだったから。だからこの桜木の下で修行をしていた。
強い風が吹き、彼女の好きな桜の花びらが風に乗って宙を舞う。
確かに綺麗だと思う。
彼女が夢中になって好きになるのも分かる。
だけど、ぼくは君を夢中にさせるこの桜が嫌いだ。ぼくは君を見ているのに、君はぼくじゃなく桜を見ている。それが妙に腹が立ったのを覚えている。
座り込んでいた身体を立ち上がらせ彼女の目の前まで来た。
それに気が付いた貴女は桜からぼくへと視線を変える。
うん、そうして桜じゃなくてぼくを見て。
ぼくだけをその瞳に映して…。
『?どうし……』
「夜依は………ぼくを置いて消えないよね…?」
顔を俯かせる。多分今のぼく、情けない顔をしている。そんな顔見せたくない。
貴女は、貴女はぼくを置いて何処かに消えないよね?ずっと、そばにいてくれるよね?
トンファーを握る手を強める。
『…大丈夫…私は此処にいるよ、雲雀の傍にいる。まだ君の修行も終わってないし』
「……………。」
『…ねぇ、なんでまた
そんな苦々しげに顔を歪めるのさ……』
「……別に…」
彼女の修行ははっきり言ってかなりのスパルタだ。
確かに彼女は師匠になる時に自分の修行は厳しい、と聞いたがまさかこれほどのスパルタ性とは思わなかった…。
今思い出しただけでも寒気が立つよ…。
あの修行はぼくだからこそ付いていけたものだと思う。
ぼく以外の奴は付いて行けずに終わるだろうな。
そして彼女の口から修行とゆう言葉を聞く度にこうして自然に顔を歪めてしまう。
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